「ラジオは人を救わない」というスタンスが心地よい
この番組は何から何までほかのお笑い芸人のラジオと違う。芸人のラジオで語られることと言えば「華やかな芸能界の裏側」が多いが、男爵が口にするのは「地方営業の裏話」。しかも、スーパーやハウジングセンター、企業パーティーなど“一発屋芸人”らしい案件ばかりだ。近年はセミナーや講演会の話も増えている。しかし、人付き合いは苦手で、芸能人らしい交友関係が語られることはほぼゼロだ。
番組のスポンサーは有名企業ではなく、山梨の肉屋「ミート高橋」。スポンサーといっても現物支給で、リスナーには定期的に鶏もつ煮がプレゼントされ、イベントではもつ煮のタレをかけたじゃんけん大会が行われる。ヘビーリスナーの中には“聖地巡礼”として現地を訪れる強者もいるらしい。
男爵のラジオに対するスタンスも独特だ。パーソナリティから「ラジオを聴いてますと言われるとうれしい」という話をよく聞くが、男爵は「リスナーに会うのを避ける」と明言している。メールに「ルネッサ~ンス!!」と書かれていても、決して同じ言葉を返さない。番組で投稿を読むときも「云々かんぬん書いてありますが、読みません」と自ら大胆にカットする。リスナーと正面から向かい合うことなく、常に一定の距離を取っていて、前のめりにならない珍しいタイプだ。
そんな姿勢がよく表れているのが、常々口にしている「ラジオは人を救わない」という言葉。そのほかにも「粛々と生きろ」「世の中には自分よりも下がいる」「自分を諦めてあげる」など、ほかの番組ではありえない発言がこの番組ではよく聞かれる。
だが、そんなスタンスを心地よいと思うラジオのヘビーリスナー(特に中年以上の男性)が一定数いて、知らず知らずのうちにこの番組に引き寄せられているのはおもしろい現象。男爵自身は嫌がっているが、番組が「ルネラ寺」と称され、リスナーの総称が「檀家」なのはその影響にほかならない。男爵はリスナーに対して前のめりにならないが、スタンスを変えずにずっとそこにいる。
しゃべり手としても男爵は稀有な存在だ。『ルネッサンスラジオ』にはポッドキャスト専用の「ラストメッセージ」という長文ネタコーナーがある。人の死、逮捕、大病、老いなどまで扱うヘビーな内容で、普通なら笑いに昇華するのが難しいが、男爵はあえて一気に読み上げず、こまめに突っ込んでは笑い飛ばし、その苦みを丁寧に和らげている。セクシー女優を招くゲストコーナーでは、踏み込むところでは踏み込みながらも、しっかりと彼女たちの魅力を引き出していて、なにより“貴族”らしく下世話な雰囲気にしない。声優やナレーターとしても起用されているその落ち着いた声質も特筆すべき部分だ。
最近の男爵は文筆家としての才能を開花させ、著書を多数発表。学生時代にひきこもりだった経験にも注目が集まり、ワイドショーのコメンテーターとしても活躍している。新聞やWEBメディアに取り上げられることもしばしば。山梨放送で3時間半のレギュラーがあるとはいえ、ラジオ界以外ではすでに新たな魅力を発揮し始めている。
実は座敷牢に閉じ込められているのではなく、密かにルネッサンス(復活)するチャンスを待っていて、いつか男爵が文化放送を背負って立つ未来がやってくるのではないか――。現時点では男爵本人も文化放送側も一切そう考えていないだろうが、どうしてもそんな妄想をしてしまう。そのときがやってきたら再び文化放送の社屋には横断幕がかかることだろう。ひとりの檀家としてそんな日を夢見つつ、私は粛々と毎週この番組を聴いていく。
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