『髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ』が秘める可能性――“終わらないラジオ”の魅力とは?

2020.6.21

文=村上謙三久 編集=森田真規


「ルネッサ~ンス!!」の決めゼリフでおなじみの貴族キャラとしてブレイクを果たした2008年秋、山田ルイ53世をパーソナリティにした『ルネッサンスラジオ』が文化放送で鳴り物入りでスタートした。

12年経った現在では収録をしている文化放送ではオンエアされず、地方局とポッドキャスト配信のみ。コアなラジオリスナーから支持される“終わらないラジオ”の魅力に迫る。


なぜか終わらず、5月にはついに放送600回を達成!

『髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ』は、すれっからしのラジオリスナーが最後に辿り着く“最果ての番組”である。お笑い芸人のラジオといえば、深夜1〜3時の生放送が中心となるが、「男爵(山田ルイ53世の愛称)」の番組は収録している文化放送でオンエアされず、現在は地方局(山梨放送、ABCラジオ、山口放送、南海放送)とポッドキャスト配信のみ。ごくごく一部のリスナーに偏愛される知る人ぞ知る番組だ。

『ルネッサンスラジオ』がスタートしたのは2008年秋のこと。お笑いコンビの髭男爵は前年から「ルネッサ~ンス!!」とワイングラスを合わせる貴族キャラでブレイクしており、鳴り物入りで番組はスタートした。深夜の30分番組だったが、裏は『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)と人気番組ぞろい。文化放送も力を入れて、番組開始時には浜松町の社屋にこの番組の横断幕がかかっていたという。

しかし、その期待感は長くつづかなかった。翌年秋からは土曜日19時からの2時間枠に移動し、生放送がスタートしたが、ナイターオフの半年間で終了。髭男爵としての絶頂期もつづかず、いつしか“一発屋芸人”と揶揄されるようになった。本来ならここで番組終了となるところだが、ラジオの神様による気まぐれか、『ルネッサンスラジオ』はなぜかポッドキャストのみというかたちで延命。ここから流浪の番組と化し、放送時間や形態を何度も変えていく。

髭男爵の状況に合わせて、トークの中身も愚痴、ひがみ、妬み、そねみ中心になり、それを聴いた東野幸治が「下衆ラジオぶりが凄かった。売れるのが先か?追放されるのが先か?おそらく追放が先だろう!」と驚きのツイートをしたほど。文化放送の深夜帯での放送が一時的に復活したことはあったにせよ、その後もポッドキャストと地方局中心の体制は変わらなかったが、なぜか終わらず、ついにはこの5月に放送600回を迎えた。

12年間で幾度となく改編期の荒波に揉まれたせいで、今や番組の継続問題が番組内でもリスナー間でも大きな話題にならなくなっている。時に感情的な言葉が飛び交う改編期において、これは珍しい状況だろう。男爵は以前からこの番組を“座敷牢”にたとえており、最近は「つづいた」という喜びより、「つづいてしまった」というため息のほうが強い気がする。建物の間取り図を確認したら使われていない隠し部屋が見つかった、なんて話は小説などで使い古されたよくあるトリックだが、『ルネッサンスラジオ』も文化放送内の誰も知らないスペースに取り残され、幕を下ろすタイミングを見失い、“終わらないラジオ”になってしまった感がある。

「ラジオは人を救わない」というスタンスが心地よい


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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

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