『梨泰院クラス』『愛の不時着』に見た、何がなんでも楽しませるという韓国エンタメの真骨頂

2020.6.10

トップ画像=『愛の不時着』(写真左)、『梨泰院クラス』(Netflixオリジナルシリーズ独占配信中)
文=池田 敏 編集=森田真規


映像配信サービスによるオリジナルドラマでは、2020年上半期の話題を独占したと言っても過言ではない2作がNetflixオリジナルシリーズ、『梨泰院クラス』と『愛の不時着』だ。

中毒者が続出しているこのふたつの韓国ドラマの魅力を、海外ドラマ視聴歴40年超えの評論家・池田敏氏が分析します。


“日曜劇場”枠の熱いビジネスドラマを連想させる『梨泰院クラス』

海外ドラマ好きの筆者だが、日本中をブームに巻き込む1年前の2003年、ある韓国ドラマの存在を知った。『冬のソナタ』だ。NHK衛星第2でオンエアを観て美しいラブストーリーだと感心はしたが、いかんせん中年オヤジの筆者には少女漫画のようにも見え(局からもらった資料にも「日本の『キャンディ・キャンディ』を思わせる」とあったはず)、欧米のドラマを観るのに忙しかったこともあり、当時ハマった韓国ドラマはイ・ビョンホン主演『オールイン 運命の愛』くらい。一方、韓国映画はというと、『シュリ』に泣き、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』に震えるなど、可能な限り観るほどのファンになった。

そして数年前、詳しい同業者数人からクオリティが上がっていると聞き、韓国ドラマも気になるように。映画界でも活躍するマ・ドンソクなどが出演した『バッドガイズ-悪い奴ら-』を観ると、ついにここまでハードで男っぽい韓国ドラマが現れたかと驚いた。

そして映画館に行けなかった今春、Netflixで2本の韓国ドラマをイッキ観してしまった。

1本目は『梨泰院クラス』。第1話、新しい高校に転校したパク・セロイ(長身のパク・ソジュン)は同級生オ・スア(演じるクォン・ナラが美しい)と交流する一方、同級生をいじめる大富豪の息子チャン・グニョン(アン・ボヒョン)に突っかかったばかりに大変な事態へ。ドラマのツカミとして強力だ。刑務所に行ったセロイは2年後に出所するが、ソウルでも権利金(商店を経営する場合は支払わないといけないという日本にないシステム)が3番目に高い梨泰院(イテウォン)の町に乗り込み、飲食業界に君臨する大富豪を見返すべく、小さな居酒屋を開店する。

韓国ドラマ=恋愛ドラマとすっかり思い込んでいた筆者だが、『梨泰院クラス』はまず、日本のTBSテレビ系“日曜劇場”枠の『半沢直樹』『陸王』『下町ロケット』を連想させる、熱いビジネスドラマだと思った。韓国は厳しい学歴社会だが、中卒のセロイがチャン一族の財閥に戦いを挑む、そのパワーに昭和生まれの筆者はぐっと持っていかれた。

そんなセロイに味方する仲間たちがまた魅力的。ネットではインフルエンサーとして人気だが実はソシオパスで、セロイに好意を抱くチョ・イソ(キム・ダミ)など、彼ら“チーム・セロイ”にふんだんな回想シーンを使って観る者を共感させる、その手つきも鮮やかだ。

『梨泰院クラス』公式予告編

本来は欧米のドラマが好きな筆者だが、ドラマで登場人物の魅力はストーリー以上に重要というメソッドは、欧米かアジアかを問わず有効だと再確認させられた。

グルメ対決まであるビジネスドラマであり、ラブストーリーであり、友情ドラマでもある本作だが、クライマックスでは1980~90年代の香港のアウトロー映画のような湿気を漂わせ、観る者を何がなんでも楽しませようとする、韓国エンタメの真骨頂だ。

欧米のドラマのトレンドとは真逆の試みが成功している『愛の不時着』


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海外ドラマ評論家_池田敏

Written by

池田 敏

(いけだ・さとし)海外ドラマ評論家・映画ライター。映画誌『月刊スクリーン』(近代映画社)などに寄稿し、WOWOWのアカデミー賞授賞式中継などテレビ番組の監修も。著書は、海外ドラマの初心者からマニアまで楽しめる『「今」こそ見るべき海外ドラマ』(星海社新書)など。

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