ツッコミ待ち、田中みな実の眼帯秘書
このドラマの何がすごいかというと、ツッコミどころだらけというか、ツッコんだら負けという気分になるような隙だらけの作りにある。ツッコミ待ちの「誘い受けドラマ」とでも言えばいいだろうか。「ツッコまないぞ!」と思っていてもツッコんでしまう魔力のようなものがある。
たとえば、田中みな実が演じるマサの秘書・姫野礼香というドラマオリジナルキャラクター。なぜか色鮮やかな眼帯をつけている彼女は、マサのことが好きなあまりストーカー並みの執着心で彼を追いかけており、マサが肩入れするアユに激しく嫉妬して姑息な手段で嫌がらせを繰り返す悪党らしい(公式サイトにそう書いてある)。眼帯をつけている原因はマサにあるらしく、『スチュワーデス物語』の片平なぎさをイメージしているのは明白。これぞツッコミ待ちの権化とでも言うべきキャラクターだろう。
それより気になるのが、アユとマサが出会うのを妨害しようとして失敗するとイーッと片頬をゆがめて爪を噛むような田中みな実の演技だ。ネットやメディアでは「怪演」と話題になっているが、上手いとか下手とかを超越した、そんな昭和の時代のマンガのような演技をつけた演出サイドが気になって仕方ない。ブドウを自分の目玉に見立ててそれを食べてしまうシーンでは、心なしか三浦翔平が笑いをこらえているように見えた。
小室哲哉らしき大物プロデューサー、輝楽天明(きらてんめい)の描写も凄まじかった。バブルの名残が色濃い90年代としても趣味が悪過ぎるファッションに濃過ぎるメイク、嫌味たっぷりなセリフ……。いくら小室哲哉とは決別したとはいえ、ここまで悪し様に描かなくてもいいんじゃないかと胸騒ぎがするキャラクター造形だった。「天才音楽プロデューサー」という捨て鉢なテロップもすごい。演じているのはミュージカルなどの舞台で大活躍する新納慎也。今後、彼がいきなり歌って踊るシーンがあったとしても驚かないつもりだ。
すべてわかってやっている鈴木おさむ
過剰さと薄っぺらさ、平ぺったさ(アユとマサが出会ったディスコ「Velfine」も「巨大な宇宙船のよう」というわりにはどうにも安っぽかった)が交互に繰り出されて、次第に視聴者がバカ負けしていくドラマの作りになっている。ラストシーンでマックス・マサが「お前は虹を渡りたいんだろ! だったらその虹、俺が作ってやる」と言うと、キラーンという効果音とともに本当に夜空に虹がかかる演出にも仰天した。
脚本は鈴木おさむ。彼の脚本といえば、水野美紀の怪演で話題になった金曜ナイトドラマ『奪い愛、冬』(テレビ朝日)とその続編『奪い愛、夏』(AbemaTV)を思い出した人も多いはず。フックを作りまくって、火のないところに煙をもうもうと立たせる。その豪腕ぶりがいかんなく活かされたのが本作ということだろう。彼が寄せたコメントには「大映ドラマのような衝撃なキャラクターも登場するオリジナリティーも足して」とあるが、姫野礼香や輝楽天明、高嶋政伸演じる大浜社長などはまさにそう。すべてわかってやっているのだ。もちろん、演者たちもわかってやっている(高嶋政伸は知り合いの芸人に演技をチェックしてもらっているらしい)。全員、確信犯。
2話からは、その水野美紀がエキセントリックな役柄で登場。『浦安鉄筋家族』で演じている母親役よりすごそうだ。ドラマの質とか表現の複雑さとか、そういうものは全部棚の上に置いといて、とにかく話題になれば勝ち、ツッコませれば勝ちというスピリッツで貫かれている『M 愛すべき人がいて』。最終話までこのテンションを持続できるかどうか、バカ負けした視聴者が疲れてしまわないかどうかが勝負の分かれ目だろう。
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