田中みな実『M 愛すべき人がいて』が「からあげ」をバズらせ「通りもん」をスポンサーにした馬鹿力

2020.6.19
『M 愛すべき人がいて』

文=大山くまお イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


ツッコミ不可避の盛り上がりの中で、放送中断を余儀なくされていた怪作『M 愛すべき人がいて』待望の再開。当連載第4回でも取り上げたドラマのふっ切れっぷりを、さらに考察する連載第12回。


2020年きっての怪ドラマ再開

「あのね、マサのね……好きな食べ物、からあげだから(デュクーン)」
「え?」

アユが! マサが! そして姫野礼香が帰ってきた! 平成の歌姫(ちゃんとテロップが出る)浜崎あゆみの出会いと別れを描く金曜ナイトドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日)の放送が6月13日よりついに再開。事実をもとに書かれた小松成美による同名の原作小説を放送作家の鈴木おさむが脚色してドラマ化したもので、放送延期期間中は伊集院光と古市憲寿の副音声放送が人気を博し、「ツッコ見」という言葉も生み出した2020年きっての怪ドラマだが、放送された第4話もいきなり世間を騒がせた。

M 愛すべき人がいて
『M 愛すべき人がいて』小松成美/幻冬舎

「1998年4月8日、俺はアユをデビューさせる」

「A VICTORY」の幹部たちを前に堂々と宣言するマサ(三浦翔平)。嫌がらせで弟分の流川(白濱亜嵐)がプロデュースするAxelsのデビュー日をぶつけられるも、マサはビクともしない。新人のプロモーションに10億円かけると大見得を切って、大浜社長(高嶋政伸)を引きつらせる。しかし、アユはデビュー曲「poker face」のレコーディングを始めるが、うまく歌うことができなかった。

そして明かされる礼香(田中みな実)の眼帯の秘密! 真相は、マサの結婚式で酔っ払ったマサとぶつかった礼香が階段を転げ落ち、手にしていたグラスの破片が目に突き刺さったというもの。激怒する礼香の両親に土下座しながら「僕が礼香さんの目の代わりになります」とマサが言うのだが、新婚なのに無理じゃん……。「私のここにマサが入ってくれるんだもんね」と自分の眼球の跡を指で突き刺しながら語る礼香。常識的なようでいて、シャンパンをグビグビと飲み干す礼香の両親もちょっとおかしい。あの親あってこの子あり。眼帯のない田中みな実の顔に違和感を覚えて自分でも驚いた(90年代ファッションとメイクが原因かも)。

フェイクとリアルの多層構造

「A VICTORY」ではアユを売り出すためのプロモーションが始まるが、宣言どおり「悪魔」になったマサは、スタッフに罵声を浴びせまくり、ゴミ箱を蹴り飛ばすスーパーパワハラモードに。エイベックスの社史(「avex way 1988~2005」)によると、実際にこの時期の松浦勝人は荒れまくっており、「怒鳴る。怒る。暴力の一歩手前です。社員の前で、よくゴミ箱を蹴り飛ばしていました」と振り返っている。

アユに嫉妬する礼香は大切なオーディション前夜、「マサの大事なこと」を伝えるとアユを呼び出し、雪が降るなか、ビルの屋上に締め出して風邪をひかせようとする。体を温めようと「♪ゆーきやこんこ あーられやこんこ」と歌い始めるアユを見て、ほくそえむ礼香。このあたりで自分は何を見ているんだろう?という気になってくる。「奥のジョイスタジオで待っていたのよ!」と言いながら姿を現した礼香にアユが「奥のジョイ……」と呟き、礼香が「そう! ……奥ジョイ(≠屋上)」と勝ち誇るが、さらに思わせぶりにアユの耳元に囁いた「マサの大事なこと」が冒頭の「からあげ」発言だ。(主演のアユ役を務める)安斉かれんはこのシーンが放送された直後、ツイッターに「奥ジョイでからあげ」ショットを公開。見事に「からあげ」をバズらせることに成功した。

結局、アユは高熱を発して声が出ず、Axelsに負けて音楽番組への出演権を失う。このときの髪型は「poker face」のジャケットを再現したもの。音楽番組のプロデューサー(大鶴義丹)に「マサ専務の見込み違いだ。この子は売れないよ」と言われてマサが殴りかかろうとするシーンがあるが、これは原作どおり。最後にアユがマサへのラブレターをFAXで送るのも原作どおり。アユのラブレターの文面も一字一句、原作どおりだったりする(署名だけ違う)。しかし、それをマサが手にしたとき、唐突に現れるウェディングドレス姿の礼香はもちろんドラマオリジナルだ。

こうして振り返ってみたように、異常なシーンの数珠つなぎのように見える『M 愛すべき人がいて』だが、実際は事実どおりのシーンがけっこう挟み込まれている。「そんなバカな」と笑いつつ、調べてみれば事実だったりすることもあれば、案の定創作だったりすることもあるからおもしろい。

「これはリアルですよ」と打ち出しながら演出が介在するリアリティショーより、リアルな人物設定や感情をもとにしつつエクストリームなフェイクを演じるWWEなどのアメリカのプロレスに近い。リアルとフェイクが重層的になった、リアリティショーならぬスーパーフェイクショーだ。礼香の眼帯が博多名物「通りもん」に似ていると話題になったが、本当に「通りもん」が番組スポンサーになるという超展開もリアルとフェイクが混在しているようだ。田中みな実は自宅でこっそり「通りもん」を目に当てて遊んでいたという。

『博多通りもん』/明月堂

アトラクション型ドラマだ


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大山くまお

1972年生まれ。名古屋出身、中日ドラゴンズファン。『エキレビ!』などでドラマレビューを執筆する。

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