『操』から紐解く岡村靖幸の現在地。“幸福”な4年間からその先へ

2020.4.11
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文=森 樹 編集=森田真規


2020年4月1日、当初の予定から1週間うしろ倒しになったものの、岡村靖幸4年ぶりのニューアルバム『操』がリリースされた。

今回も、前作『幸福』(2016年)と同じく、朝日新聞朝刊の全面広告により制作と発売日がサプライズで発表され、会田誠がジャケットイラストを担当。仕様としては、既発曲4曲を含む全9曲収録の通常版のほか、CD+サコッシュ+カバー集「思い出白書」がセットになった完全受注生産のデラックスエディションの2種が制作されている。

岡村靖幸の「生涯音楽家宣言」と聴くこともできる、『操』のレビューをお届けします。


とにかく風通しのよい、エバーグリーンなラブソング集

岡村靖幸にとって、8枚目のオリジナルアルバムである『操』。3月13日には『ミュージックステーション』にて「マクガフィン」を生披露し(「岡村靖幸さらにライムスター」名義)、3月29日には『関ジャム 完全燃SHOW』にて本人も登場する大特集が組まれるなど、メディアにもピンポイントに露出するなかでの発売となった。曲順やそのつなぎにも以前から深いこだわりを持つ岡村ちゃんだけに、各種ストリーミング・サービスには現在のところ配信されておらず(4月11日時点)、まずはCDというパッケージのみで楽しんでほしいという意図が感じられる。

岡村靖幸さらにライムスター『マクガフィン』のMV。岡村ちゃんのワンマンライブにて収録された

振り返ってみると、前作『幸福』から本作『操』までの4年間というのは、岡村ちゃんにとって公私問わず“社交の季節”であり、それは岡村ちゃん自身だけでなく、ファンとしても充実の時間であったと言える。2018年の秋を除き、定期的に開催された年2回のツアー、『氣志團万博』(2017年)、『ap bank fes』(2018年)、『人間交差点』(2019年)といった大型フェス/イベントへの出演。インタビュアーとしての才も発揮した『GINZA』や『TV Bros.』での雑誌連載、前述の『Mステ』や『関ジャム』も含め、ラジオやテレビでもコンスタントにそのトークやパフォーマンスに触れることができるようになった。覆面ハウスDJユニット「OL Killer」での活動を加えれば、デビューした1986年から『家庭教師』(1990年)までの時期以外に、ここまで岡村ちゃんの音楽と人柄を身近に感じ、堪能できたのは初めてではないだろうか。はにかんだ笑顔、ほろ酔いの赤ら顔……そんな写真がSNSに次々アップされる日が来るなんて。

そういった活動の素晴らしき結実として、『操』はある。

とにかく風通しのよい、エバーグリーンなラブソング集だ。前作『幸福』は、自己や社会へのシリアスな視点が強く滲み出た『禁じられた生きがい』(1995年)、『Me-imi』(2004年)のクローズドな作風から脱却を果たした作品であった。音楽を奏でることの楽しさや意味を改めて問い直し、持ち味とする青春の情景を、きっちりとトレンドを採り入れたファンクサウンドで表現することに成功していたのである。

『操』はモードとしてその延長線にありながらも、さらに軽やかさがあり、開放感に満ちている。DAOKOとの「ステップアップLOVE」、ライムスターとの「マクガフィン」といったコラボレーションソングが収録されていることはやはり大きいだろうし、ツアーギタリストの田口慎二をはじめ、役割に応じてゲストプレイヤーが参加しているのもその理由に挙げられるだろう。

「操」という言葉から感じる、ありったけの覚悟と気合い


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Written by

森 樹

(もり・いつき)編集者、ライター。編プロ勤務を経て2019年に独立。『クイック・ジャパン』本誌ほか、カルチャー誌、アニメ誌などに寄稿。映画やアニメ作品のプレスリリースやパンフレットの編集も手がけている。映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』にも宣伝協力で参加。

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