『操』から紐解く岡村靖幸の現在地。“幸福”な4年間からその先へ

2020.4.11


「操」という言葉から感じる、ありったけの覚悟と気合い

たとえば、冒頭のスリリングなロック「成功と挫折」には、小山田圭吾とゴンドウトモヒコというMETAFIVEメンバーが演奏に参加している。この曲はタイトルとおり、岡村ちゃんのミュージシャンとしての半生を凝縮したような、ネガティブなイメージも含む自問自答が展開されていく。だが、メタリックでテクニカルなソロを聴かせる小山田のギター、プログラミングとフリューゲルホルンを担当するゴンドウの精密な音作りにより、ただただヘビィなものではなく、前を見据えた推進力のあるサウンドとして成立している。

そのほか、アルバム曲を聴いていくと、ajapaiとのコラボソング「大車輪 feat. YASUYUKI OKAMURA」(2002年)を想起させるダンストラック「インテリア」のグルーヴィーに疾走する感覚は特筆すべきもので、そこから「ステップアップLOVE」へとスムーズにつなぐ手腕は圧巻のひと言。

歌謡曲~アーバン・ブルース色が色濃い「遠慮無く愛してよ」は新機軸だし、どうしようもなくラブリーで、『yellow』(1987年)や『DATE』(1988年)時代に通ずる80’sテイストが胸を締めつける「レーザービームガール」、純愛と性愛が等しく溶け合ったようなこれぞ岡村節のセンチメンタル・バラード「赤裸々なほどやましく」まで、終始きらびやかなムードが漂っている。ファンク・ポップを中心としつつ、エレクトロからヒップホップまでを吸収した曲調(およびリズム)の多様さ、そこに散りばめられた青春と恋愛への追求、艶やかさを取り戻したボーカル――それらの絶妙なマリアージュが、ここにはある。

DAOKO×岡村靖幸「ステップアップLOVE」のMV。現在までに約1860万再生を記録(4月11日時点)

デラックスエディションに付属するカバー曲集「思い出白書」にも触れておこう。全9曲のうち、2曲を除いてライブカメラでレコーディングされたものであり、音質的にはオフィシャル・ブートレグの趣き。だが、サザンオールスターズ「慕情」と記されたトラックには、とある心ニクい仕掛けも。ほかにも、スティーヴィー・ワンダーやアース・ウインド&ファイアー、山下達郎など、岡村ちゃんの音楽的ルーツがしっかりと窺えるセレクトで、ファンならば聴き逃がせないアイテムだ。

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完全受注生産の『操』デラックスエディション
※4月11日現在、販売は終了しています

残念ながら、4月初頭からスタートするはずであった全国ツアーは延期が発表され、岡村ちゃんのダンスも含めた『操』の完成形を観ることができるのはまだ少し先になりそうだ。COVID-19の蔓延により、日常はもろく儚いことを痛感させられている現状だが、一方で、岡村ちゃんから生まれた新たな音を堪能できる日常を手にしているのもまた事実であり、そこに刻まれたタイムレスなポップスとしての魅力は救いでもある。

最後に、今回のアルバムタイトルについて。単語に込められた意味とサウンドを個人的に解釈すれば、音楽に対する初期衝動や飽くなき探究心のみを信じ、納得する作品を作りつづけていくという、今、改めての「生涯音楽家宣言」のようである。未来を得るために、歌詞を、音楽を、他者を糾弾する武器にするのではなく、自分を律し、成長させていく品のあるものとする――岡村ちゃんから放たれた「操」という言葉には、そんなありったけの覚悟と、気合いが感じられる。それは、シンガーソングライターダンサー岡村靖幸の、たったひとつの望み、祈りなのかもしれない。

「カッターナイフみたく/スパっと切れるから/言葉には愛を持とう」(「インテリア」)

――そんな言葉が深く響く時代だからこそ、岡村ちゃんは誠実に歌を歌い、ダンスを止めないのである。


岡村靖幸『操』
2020年4月1日発売 3,000円(税別) スペースシャワーネットワーク


「インテリア」作詞/作曲:岡村靖幸
(『操』収録)




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Written by

森 樹

(もり・いつき)編集者、ライター。編プロ勤務を経て2019年に独立。『クイック・ジャパン』本誌ほか、カルチャー誌、アニメ誌などに寄稿。映画やアニメ作品のプレスリリースやパンフレットの編集も手がけている。映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』にも宣伝協力で参加。

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