BE:FIRSTのRYOKIとしても知られる三山凌輝と、乃木坂46の久保史緒里がW主演を務めた映画『誰よりもつよく抱きしめて』が、2025年2月7日に公開される。
強迫性障害による潔癖症を患う絵本作家に扮した三山。そんな彼が醸し出す「鋭い弱さ」に驚かされたというライター・相田冬二は、ラストシーンで彼が浮かべた表情について「この映画の最大のスリルであり、最良の醍醐味だ」と記し、次のように評価した。
「そして、それは底知れぬ俳優、三山凌輝の誕生の瞬間を目撃することにほかならない」
※本稿では、映画『誰よりもつよく抱きしめて』のストーリーの詳細に関わる内容が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。
目次
三山凌輝が演じる、一秒ごとに闘っている絵本作家
これから書かれることは、BE:FIRSTのRYOKIをまったく知らない者による雑感である。だから片手落ちかもしれないが、あくまでも俳優としての三山凌輝について記してみたい。ちなみに私は、彼が出演した『HiGH&LOW THE WORST X』だけは観ている。あの作品の彼との比較も含まれることになるだろう。
三山が、乃木坂46の久保史緒里とW主演を務めた映画『誰よりもつよく抱きしめて』は、かなり異色のラブストーリーであると、まずはいえる。これだけの美男美女が顔を合わせているにもかかわらず、ただ切ないとか、ただ悲しいとか、ただ高揚するとか、ただ幸せとか、そういうことが一切ない。
たとえば「恋愛映画」と耳にして多くの人が想像するものとはかけ離れている。だが、本当はこれこそが「恋愛映画」と呼び得るものかもしれない。苛烈な覚悟が終始波打つ本作には、海外の作品に接したときのような大人のムードが色濃く漂う。
では、三山凌輝はここで、どのような人物を演じているのか。
タイトルをなぞるなら彼は「誰よりもつよく抱きしめることができない男」に扮している。強迫性障害によって極度の潔癖症に陥った絵本作家。そのため彼は、同棲相手の女性書店員に触れることもできない状態。
外出時に限らず、自宅にいるときも手袋を外せず、料理の際も食材をひたすら洗い続けている。洗ってしばらくすると、その食材がまた不潔に思えてきて何度でも洗ってしまう。それを繰り返す日常。部屋にいることが多いが、そこも彼にとっては平穏な場所ではない。不安の波がいつ襲ってくるか、わからない。一秒ごとに闘っている。
![映画『誰よりもつよく抱きしめて』 (c)2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/75c140d3601436d9bf49d9f8aa3af58a.jpg)
正体不明の不穏をあふれさせた写実主義
そんな主人公を、三山はリアリズムに徹して演じている。演技者の力量が最も明瞭に立ち現れるのが、ひとり芝居だ。冒頭、彼はカフェのテラスにいる。ただそれだけなのに、この男の焦燥と孤独が伝わってくる。疎外された魂の落ち着きのなさは、店員に「中の席、空いてますよ」と話しかけられたとき、できるだけ静かに穏やかに答えようとする姿の背後で微細に蠢いている。
この人物は、佇むことができないのだ。立ち止まることしかできず、一時停止が常態化している。その真実を体感させる。三山の芝居にはこれ見よがしな所作など皆無であるにもかかわらず、その抑制が正体不明の不穏をあふれさせる。ここで形作られ提示されたリアリティが、映画の通奏低音となる。
三山凌輝の写実主義は、部屋の中のひとり芝居でさらなる詳細を極める。食材を前に、キッチンで立ち尽くす男の光景はともすれば抽象的に流れる可能性がある。もっといえば、過度の情緒に傾く場合もある。だが、三山はそうした誘惑を徹底して寄せつけない。これは、この人物にとって抗することのできない圧倒的な現実なのだということを、実在そのもので証明している。そこに、悪夢めいた逃避や憐れみを催す感傷が紛れ込む余地はない。
三山は、潔癖症を文字どおり潔癖に表現している。だから、彼のことを「可哀想」とはけっして思わせない。食材を前に呆然としているというより、洗うしかない決定事項に従うだけの情況。観客のありとあらゆる「可哀想」を断固拒否しているから、我々は途方に暮れるしかない。
![映画『誰よりもつよく抱きしめて』 (c)2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/b0695b3010e5fcc99f81d3d72f7ba201.jpg)
三山凌輝が醸し出す「鋭さ」に驚かされる
本作は、同棲カップルのいずれもが主人公といえるが、観る者の多くが求めがちな共感を完全に排する絵本作家の肖像より、かなり波瀾万丈の道行きを生きるとはいえ女性書店員の揺れる心情に寄り添うことになるだろう。つまり、我々は女性の「主観」を通して、「客体」の男性を見つめるのだ。見つめられることに徹しながら、「理解されること」に屈服しない三山凌輝の演技姿勢に、私は何度か唸った。
いうまでもなく女性は、ナイーブの縁を歩く恋人がもうこれ以上傷つくことがないよう最大限の留意を払いながら、日々を暮らしている。慎重に我慢を積み重ねる久保史緒里の「地味な美しさ」は、本作の大きな見どころのひとつだ。
無論、絵本作家も彼女が耐え続けていることを痛感している。だが、どうすることもできないのだ。彼女を抱きしめるどころか、手をつなぐことすらできない。トライはする。しかしやはり踏み込めない。そんな彼の負い目が、彼女のもっと大きな軋轢を呼ぶ。そうして、あるとき、亀裂が生じる。
特殊な事情があるとはいえ、同棲中の男女のケンカに過ぎぬこのシークエンスは、両者の違いを非凡なかたちで浮き彫りにして胸を打つ。彼女は感情を破裂させる。彼もまたそれに言葉の上では応じているものの、彼女の無理解に対して「あらかじめあきらめていた」ようなニュアンスを忍び込ませる。そのとき、三山凌輝が醸し出す「鋭さ」に驚かされる。
この人物は、病によって弱っている。自身の不甲斐なさ、惨めさに打ちひしがれている。なのに、固有の「鋭さ」を垣間見せるのだ。多くの演じ手が、弱者を繊細に、崩れ落ちそうな脆さで表現してきた。あるいは、その弱さゆえ、泣き出しそうな逆ギレ、あるいは幼児化=退行として体現してきた。だが、三山はそうしたルーティンをあっさり放棄して、弱者の内部に潜む「頑なさ」に光を当て、それを揺るぎない「鋭さ」として提示してみせる。あたかも、ジャックナイフがギロリと鈍い光を放つように。
![映画『誰よりもつよく抱きしめて』 (c)2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/c0ab4f4871d19ef95f11a8753a79bb0c.jpg)
底知れぬ俳優、三山凌輝の誕生の瞬間
絵本作家は、恋人を愛している。女性書店員も、同棲相手を愛している。その愛は間違いのないものだ。しかし、三山が不意に露呈させた「鋭さ」によって両者は引き裂かれる。背景となる要因はある。だが、それ以上に、彼女は「私はこの人のことがわかっていなかったかもしれない」という疑念が、三山の「鋭さ」によって表面化するのだ。なんというスペクタクル。なんというダイナミズム。
三山凌輝は『HiGH&LOW THE WORST X』で完全なヒールを演じたが、実はこうした「鋭さ」を封印していた。本来であれば悪役に扮する際に、説得力のある味つけとして召喚する「鋭さ」にあえて頼らず、さまざまな意味で弱者と呼び得る存在の奥底から「鋭さ」をこぼしてみせる。この反転の妙が、人物を立体化する。
ただならぬラブストーリーはいったいどこに向かうのか。我々は凝視するしかない。弱い男の「鋭さ」に導かれながら迎えるラストは誰も予想できないだろう。三山凌輝が、そこでどんな表情を浮かべるのか、それこそがこの映画の最大のスリルであり、最良の醍醐味だ。
そして、それは底知れぬ俳優、三山凌輝の誕生の瞬間を目撃することにほかならない。
![映画『誰よりもつよく抱きしめて』 (c)2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/a8006e8bae6f7e53ec0146ec8bb6a16b.jpg)
映画『誰よりもつよく抱きしめて』
![映画『誰よりもつよく抱きしめて』 (c)2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/b7567e972dca14ee383cf31de694f68b-715x1000.jpg)
2025年2月7日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
原作:新堂冬樹「誰よりもつよく抱きしめて」(光文社文庫)
監督:内田英治
脚本:イ・ナウォン
主題歌:「誰よりも」BE:FIRST(B-ME)
出演:三山凌輝、久保史緒里(乃木坂46)、ファン・チャンソン(2PM)、穂志もえか、永⽥凜、北村有起也、北島岬、⽵下優名、酒向芳
配給:アークエンタテインメント
(c)2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント
RYOKIが愛犬と表紙を飾った『HARBOR MAGAZINE』発売中!
『Quick Japan』編集部による、「人と動物の調和」がテーマの新媒体『HARBOR MAGAZINE』。2025年1月31日に発売された第2号の表紙と特集には、BE:FIRSTのRYOKIが自身の愛犬と登場。
![](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2024/12/harbor2_h1h4_r08_page-0001-700x1000.jpg)
特集内では自身の愛犬との撮り下ろしグラビアやソロインタビューに加えて、動物の気持ちと行動の専門家と動物目線での“幸せ”を考える対談も実現した。
「QJストア」では、RYOKIのアザーカットを使用した「SAVE ANIMALS TOGETHERカード」(全3種)が1冊あたりランダムで1枚封入される。