ドラマ『伝説のお母さん』ファンタジーの中に描かれる子育て家庭の現実

2020.3.9

文=西森路代 編集=鈴木 梢


やりたい仕事、趣味、家族のこと、周囲との人間関係――。何かしらに対して、自分の気持ちに蓋をしながら生きている人は少なくないかもしれない。なぜそうするかといえば、周囲に迷惑をかけてはいけないし、迷惑をかけないほうが自分にとっても正解だと信じているからだ。

現在放送中のドラマ『伝説のお母さん』(NHK総合)では、ロールプレイングゲームの世界を舞台にしながらも世の中のお母さんたちが置かれる状況と、怒りや疑問をリアルに描いている。ライター西森路代のドラマコラム連載「ドラマの奥底」では、そんな本作の描写に見るつらさと葛藤を考える。


ファンタジー世界の中に描かれる子育て家庭の現実

ドラマ『伝説のお母さん』は、フェミニズムを描いた作品である。というと、そんな風に決めつけないでという人は多いかもしれない。

でも、待機児童問題、マミートラック――。描いていることはまぎれもなくフェミニズムが議題とするものばかりで、それをゲームの世界を舞台に、コミカルにフィクショナルに表現している。しかし、その中に描かれたものは非常にリアルだ。 社会には「怒りや疑問を感じながらも、それを出すと余計につらい状況になるかもしれない」と思ってその気持ちのやり場に困っている人は多い。

この作品のヒロインであるメイも、そんなひとりではないかと思う。

メイは8カ月になったばかりの子どもを抱えたワンオペ育児に奮闘する母親だ。しかし彼女はかつて魔法学校で勉強を重ねてきた伝説の魔法使いで、子どもが生まれてすぐに再び魔王討伐のパーティの勇者に選ばれ呼び出される。

しかし、その王からの要請を伝えに来た若い士官・カトウに対して、メイは怒りでまくしたてる。

「保育所が空いてないんですよ!」

「いいですか、ここは城下町。保活の激戦区。そんな思い立ったときにぽいって子ども預けられないんです! それなのに保育所の設備が全然追いついてないんです。特に0歳児の途中入所は絶望的で保育所は11月に申し込みを締め切るのに今何月ですか新年度ですよ、なんで魔王は11月までに復活してくれなかったんですか!」

しかしすぐに、「あなたにこんなこと言ってもしょうがないですよね」と半ばあきらめたような状態になる。

夫は子育てには非協力的で、士官のカトウから勇者として復活してほしいと言われているとも思わず(それは母になったメイにはそんな大それた仕事をする必要はないという気持ちが見え隠れしていた)「無理じゃん、赤ちゃんいるし、俺も仕事あるしさ。勇者たちもいるからお前が行く必要ないよな」と諭すため、メイは魔王討伐に行きたいということすら言い出せない。

メイは、いつも夫に気を使っている。その夫はやがて無職になり(それは王が無理やり失職させたのだが)、このタイミングだと決意して「魔王討伐の依頼が来たの。私、行かなきゃいけないみたいなんだけど、ダメかな……」と相談するも、夫は最初は「そんなのダメに決まってるだろ」と否定。しかし、「おれがみててやるよこの子」「イクメンとか流行ってるしさ、なんかかっこいいじゃん」と引き受けるのだった。

こうしてメイは晴れて魔王討伐に行けることになってめでたしめでたし……と思ったのも束の間。家に帰ってみると、赤ん坊は泣き叫び、説明のメモを残したのにミルクもあげておらず、「おしっこならまだいいけどウンチのオムツを替えるのは男にはハードルたけぇだろ」とオムツがタプタプになっていても替えず、ヘッドホンをつけてゲームをしているので子どもの泣き声にも気づかない。そればかりか、たばこの吸い殻をそのままにしていて子どもがそれを口にしようとしていた……(見ていたらキャーと叫びたくなるシーンである)。

パニックになり声を荒げるメイに「なに? ヒステリー?」「仕事はお前じゃなくてもいいじゃん、でも子育ては絶対に男親じゃなくて母親のほうがいいと思うんだよ。母親の代わりは誰にもできないだろ」と言う夫を見て、メイは、夫に子育てを分担させることをやっぱりあきらめるのだった。結果メイは「温泉旅行に行く」とウソをつき、子連れで魔王討伐に行くことになる。

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西森路代

(にしもり・みちよ)1972年、愛媛県生まれ。ライター。大学卒業後、地元テレビ局に勤務の後、30歳で上京。派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーランスに。香港、台湾、韓国と日本のエンターテイメントについて、女性の消費活動について主に執筆している。

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