「殺処分0」を続けるため、できること。北野日奈子が訪れる“動物を生かすため”の現場<取材・神奈川県動物愛護センター>

2024.1.22

文・構成=釣木文恵 撮影=二瓶 彩 編集=菅原史稀


総合カルチャー誌『クイック・ジャパン』編集部による、「人と動物の調和」がテーマの新媒体『HARBOR MAGAZINE by QJ』が始動する。

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現在予約受付中の第1号には、かねてより動物保護活動について自身のYouTube上などで発信してきた北野日奈子による、神奈川県動物愛護センターの取材記事を掲載。ここでは、その一部を公開する。


動物たちの“よりよい生活”を考えること

自らも幼少期から保護犬・チップとともに暮らし、最期を看取った経験もある北野日奈子。そんな彼女が『HARBOR』の取材で、2019 年に新しくなった神奈川県動物愛護センターを訪れ、保護された動物たちがよりよい生活を送るための設備などを見学した。(施設内視察のレポート記事は『HARBOR』誌面に掲載)

かつては「処分するための施設」だったこの場所だが、時代の移り変わりとともに「殺処分」を見直す意識が日本の社会にも少しずつ根付いたことなどで「動物を生かすための施設」として生まれ変わった。

現在は、明るく広々とした空間で動物たちが暮らすようになったこのセンターでは、2014年度以降犬猫の殺処分0を継続している。その変化の背景、また動物愛護の活動がどのように発展していくべきかについて、愛護・指導課長の廣井惠津子氏に北野が話を聞いた。

今日センターを見学して、とにかく職員のみなさんが1頭ずつそれぞれの特徴や個性を見た上でお世話をされているということに驚きましたし、素晴らしいなと感じました。

ありがとうございます。このセンターでは、まさにそこをがんばっています。譲渡を希望される方に「こういう子です」と細かく説明でき、あらゆる面を知った上で「それでもこの子を」と言ってくださる方にお譲りできる体制を整えています。これは職員の努力のたまものですね。

一頭一頭の情報を、職員同士で共有できるようにするためのメモ

職員の方はもちろんのこと、ボランティアスタッフの方もセンターに深く関わっていらっしゃるそうですね。

ボランティアの方なくしては成り立たないです。犬猫を新しい飼い主さんにつないでいただけるボランティアの方をはじめ、グルーミングのボランティアさんなど、本当にたくさんの方にご協力をいただきながら活動をしています。

いろんなボランティアさんがいらっしゃるんですね!

犬猫をたくさん育てた経験のある方から、トリマーの方、普及啓発ボランティアとしてカメラマンの方もいます。トリミングの専門学校を出たばかりの方からボランティアのお申し出があったりもしますが、やはり難しい子も多いので、熟練の方にお願いしています。

センターの運営・活動資金はどのように確保されていますか?

税金とご寄附の二本立てです。動物愛護センターは法律に基づいて動物の収容保護をして譲渡をする。その基本的な活動は税金で賄っています。ただ、命をつなぐために難しい治療をするとか、ドッグトレーナーの方に来ていただいて馴れない子のしつけをするとか、そういうプラスアルファの活動は「かながわペットのいのち基金」に集まったご寄附でやっています。

では、一頭一頭の生活をよりよくしてあげるのは……。

ご寄附が大きいですね。病気を持った動物に対する処方食ひとつ取っても、コストがかかりますから。

センターの猫部屋。明るく、ゆったりとしたスペースとなっている

私自身、寄附をしたいと思っていても、どこにすればいいのかわからないなと思うことが多くて。このセンターのように施設自体がオープンで、設備が整っていて、どこにどれだけ使われているかが透けて見えると「ここならちゃんと動物に使ってもらえる」と思えますね。

ホームページでご寄附の呼びかけをしていると同時に、「こういうことにこれだけ使わせていただきました」ということは毎年公表しています。

譲渡にはどのような条件がありますか?

最低限の条件として、ペット不可のお宅でないかどうかというところや、最期までお世話をするという点で原則65歳以下の方に限らせていただいたりもしています。

また、実際にふれあっていただいて、相性を見たり、本当に最期まで責任を持って飼っていただけるかというのはかなり慎重に確認します。面接ではいろんなことを聞きますし、厳しいことも言います。人見知りのある犬に、お迎えまでの間に少しでも馴れてもらえるように何度も会いに来てくださる方もいます。

ハードルは、正直あります。ここにいる子たちは、一度飼い主と離れた経験がある子がほとんどです。だから二度と同じ気持ちを味わわせたくないと思っています。

うちで飼っていたチップも、認知症になって、白内障になって、大好きだった車にも乗れなくなって……。ちょうどコロナ禍で、家族5人みんなでお世話して、それでもまだ行き届かないことがありました。5人で1頭を見るのだって大変だったんです。老犬には老犬のかわいさがあるぶん、大変なことがたくさんある。だから職員のみなさん、ボランティアのみなさんは本当にすごいなと思います。

ここにいる限りは全力で見てあげるというのは徹底していますね。

目標は「この施設が必要ない社会」

動物を引き取ることが一番の支援だと思いますが、どうしても引き取れない人でもできる支援にはどんな方法がありますか?

やはりご寄附いただくことはとてもありがたいのですが……北野さんのように保護犬を育てている方は保護犬、保護猫の存在も、動物愛護センターのことも知ってくださっていますよね。でも、まったく知らない方もまだまだ多いです。

動物を飼おうと思ったときに、「ペットショップに行こう」と思う方もいます。そんな方に、保護犬や保護猫という選択肢もあるんだと知ってもらうこと、それ自体もとても大事なことだと思っています。

まず、知っていただく。知ったことで気持ちが動いたことを広めていただく。私たちも、少しでも出会いの機会を増やしたいとオンライン譲渡会を開催しています。そのオンライン譲渡会にいらした方に「ぜひWEB上での口コミでも広げてほしい」というお話もしています。

譲受ご希望の方に対しては、もちろん最終的にはこのセンターにお越しいただいて面接をしたり、気になっている子とふれあったりなどが必要となりますが、譲渡前の講習会はオンラインでできるようにもしています。

オンライン譲渡会やSNSでの拡散は、スタッフさんたちが犬や猫を一頭でも多く助けるということを常に考えているからこそのお話ですね。

ほかに、保護動物の啓発のために今は「いのちの授業」と名づけて、小学校などでの授業を行っています。高学年の子たちには「殺処分0をつづけるためには何ができるか」を考えてもらったり、聴診器を持っていって、自分の心臓音を聞いてもらったりもします。「生きる」とはどんなことかを学ぶという取り組みに力を入れています。それがちょっとずつ増えていけば、啓発も進んでいくかなって。

そんな活動が広がれば、「わんちゃん飼いたいね」というときに、子供から「愛護センターに行こう」という言葉が出るかもしれませんよね。

そうなんです! それはとても大きいなと思います。

最後に、センターの今後の目標と課題を教えてください。

神奈川県では多頭飼育崩壊がとても多いです。一度まとめて保護しても、そういう方は繰り返すこともあるんです。それを防ぐために、私たちは避妊・去勢手術の支援をしたりします。飼い主の方に対しては、地域の保健所が助言をしたり、指導をしたりして、保健所と役割を分担しています。

こういった多頭飼育崩壊を防ぐ取り組みが、今はとても大事だと思っています。……正直、それでいっぱいいっぱいです。

ただでさえ日々これだけの動物をお世話していますもんね。

ただ、やっぱり自分が飼った動物を最期までお世話することが当たり前とみんなが思うようになれば、この施設は必要なくなるんです。それが無理だとしても、収容は減っていく。極端なことをいえば、私たちの仕事がなくなることが、最終的な目標ではあります。それはなかなか叶わないから、今目の前にいる子たちをがんばってお譲りして、命の大切さを伝えることを続けています。

たしかに……。

うちは「かながわペットのいのち基金」の寄附のおかげで訓練や治療などができるので、恵まれていると思います。そういうシステムがない状態で単純に「殺処分0を達成しましょう!」といったところで、難しい自治体さんもあると思います。だからこそ、さまざまな現状を知っていただいて、広めていただけたらとてもありがたいです。みなさんにもっと知っていただけたらと思います。

「殺処分0」の裏には、たくさんの方の思いや努力、そして過去の尊い犠牲があるなと感じました。このセンターに関わるみなさんの動物に対する愛情や時間のかけ方は、全国が見習うべきモデルケースですよね。

私自身、保護動物について発信してきましたが、時には「偽善」と言われることもありました。でも、今回廣井さんに「ひとりでも多くの人に保護動物の存在を知ってもらうことが大事」という言葉をいただいて、これまでの自分の活動に誇りを持てましたし、今後も私にできるやり方でもっと伝えていきたいなと勇気が湧きました。ありがとうございました!

神奈川県動物愛護センター

所在地:神奈川県平塚市土屋401
公式ホームページはこちら

かながわペットのいのち基金:神奈川県に保護された犬や猫たちのケガや病気の治療、人と暮らすためのしつけなどを行い、譲渡を推進していくための基金。寄附についての詳細はこちら

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『HARBOR』第一号の特集「Knowledge Saves Animals(“知ること”から始めよう)」では、乃木坂46で活動当時から動物の保護活動について関心を寄せ、保護犬とともに暮らした経験も持つ北野日奈子による、神奈川県動物愛護センターの視察レポートや、施設職員への取材記事を掲載。

また、獣医師が「保護動物を取り巻く現状」「動物と暮らすために必要な情報」「保護動物を引き取れなくてもできる支援策」について解説するページも。

同誌では、表紙を飾るTHE RAMPAGEの愛猫家・陣、与那嶺瑠唯、藤原樹による撮り下ろしグラビアのほか、ソロ&グループインタビューも実施。彼らと愛猫たちの暮らしにまつわる微笑ましいエピソード、保護動物に対する思い、そして彼らが実際に行っている支援活動などが明らかになっている。そのほか、秋山寛貴(ハナコ)愛(ヨネダ2000)Megu(Negicco)ありぼぼ(ヤバイTシャツ屋さん)ら保護動物を引き取っている著名人によるコラムなどを掲載する。

なお『HARBOR』では、売り上げの一部を保護動物支援団体に寄付する取り組みも実施。本誌を購入をすることが、支援活動への参画につながる仕組みとなっている。


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釣木文恵

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

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