韓国発「オーディション番組」人気の理由は?元審査員が「ずっと腑に落ちなかった」日本との決定的な違い

文=竹中夏海 編集=高橋千里


TWICE、NiziU、JO1、BE:FIRSTなど、今人気のアイドルグループの共通点は、デビューまでの軌跡を追った“オーディション番組”出身であるということ。なぜここまでオーディション番組が人気を博しているのか、日本版と韓国版の違いはなんなのか。自身も審査員を務めた経験がある、振付師・竹中夏海氏が分析する。

“オーディション番組出身アイドル”が注目される理由

サバイバルオーディション番組出身アーティストの勢いが留まるところを知らない。

「日本式アイドルの課題」については前回の記事で触れたとおりだが、昨年末の音楽特番の出演者を今一度振り返ってみてほしい。

今や世界的ガールズグループの代表格ともいえるTWICEも、もとは2015年に放送された『SIXTEEN』出身の9名だ。「韓国4大事務所」のひとつといわれている芸能プロダクション・JYPエンターテインメント女性練習生16名が参加した、サバイバルオーディション番組である。

その妹分のNiziUは、JYPエンターテインメントと、日本の音楽レーベル・ソニーミュージックによって2020年に開催された合同グローバルオーディション『Nizi Project』から選出された9名。

『Nizi Project』Part1 #10-1

2021年と2022年にそれぞれ活動を開始したIVEとLE SSERAFIMのメンバーには、IZ*ONEの元メンバーが在籍している。このグループも、もともとは韓国の音楽専門チャンネルMnet企画・AKB48グループ協力による日韓同時放送の公開オーディション番組『PRODUCE48』出身の12人組だった。

LE SSERAFIMのホ・ユンジンはこの中にこそ選出されなかったものの、同オーディションで26位まで勝ち上がり、時を経てキム・チェウォンとサクラ(元IZ*ONE)と合流することになる。

『PRODUCE48』Performance 180615 EP.0

2022年、K-POPガールズグループのデビューアルバム初動記録を塗り替えたKep1erは、前年に開催された日中韓合同オーディション『Girls Planet999:少女祭典』から選ばれた9名だ。

ボーイズグループも、『PRODUCE 101 JAPAN』出身のJO1と、その弟分であるINI、SKY-HI主催の『THE FIRST』出身のBE:FIRSTなど、ガールズグループ同様にサバイバルオーディションから生まれたグループが人気を集めている。

『THE FIRST』合宿最終審査/ステージ映像

さらには『Nizi Project Season 2』が開催され、今年中に新たにボーイズグループがデビューすると予告されているのだ。配信はまだかと心待ちにしている人は多い。

なぜ、ここまでアイドルオーディション番組出身者は注目されているのか。

というか、このデビュー方法が主流になりつつある今、もはや公開オーディションを経ずに支持されるほうがよほど困難な道にさえ思えてくる。

考えてみれば、視聴者は選考時から候補者を見守りつづけ、時には投票というかたちで推しの未来に直接関与するのだ。ファンと候補者は運命共同体なのである。

推しがデビューした暁には、自分も一緒に世に出たような気持ちになったとしてもなんら不思議ではない。サバイバルオーディションでできた推しは、単に「好き」「憧れ」の対象なだけでなく、アバターのような側面も持つと思う。

日本と韓国、オーディション番組の「決定的な違い」

私自身、日本ではこれまで幾度となくオーディションやコンテストの審査員を務めてきた。その経験を踏まえて、(主に)韓国発のオーディション番組を観ると、日本と決定的に違うと感じる部分がある。

それは、すべての基準がパフォーマンスにある、ということ。

もちろん、アイドルの魅力というのは時に技術では説明できない部分も多い。サバイバルオーディションの場合、多くは視聴者投票がある。その際に必ずしも歌とダンスが長けている順に人気を集めるとは限らない。とはいえ、あまりにも心許ないパフォーマンスではそもそも勝ち上がれるほど支持されないことが多い。

投票システムがなかったとしても、Nizi Projectのように「ダンス/ボーカル/スター性/人間性」と、「説明のつかない魅力」を評価対象の4分の1(=スター性)にはっきりと分けることもある。

つまりここでは、「歌やダンスをじゅうぶんに鍛錬した上で」、初めて“オーラ”だとか“主人公感”だとか、えもいわれぬ引力が効いてくるのだ。

ところが日本では、アイドルの育成システムが確立されていないので、この“魅力”一本が評価軸になることが非常に多い。審査中に「あの子は歌もダンスもうまいけど、なんかパッとしないんだよね〜」とか、「あの子はポンコツだけどなぜか放っとけない」という抽象的な評価がしょっちゅう飛び交う。

しつこいようだが、アイドルオーディションにおいてはこれもひとつの大切な視点ではある。ただ、「それだけ」で審査しつづけることが、私はずっと腑に落ちなかったのだ。

ある地上波アイドルオーディション番組の審査員を務めていたとき、その審査システムが残酷ショー的だったこともあり、毎週のように審査員の誰かしらが炎上していることがあった。

私の場合は、審査を下すたび「お前はパフォーマンスがよけりゃそれでいいんだろ」と誹謗中傷のリプやDMが届いた。もちろん私自身はそれだけで選んでいるつもりはなかったが、「候補者の歌やダンスに懸ける思いを私が肯定してあげなかったら、ほかに誰がするんだ」という使命感もどこかあったと思う。

また、別のアイドルオーディションでは、審査する様子にわりと時間を割く編集だったためか、「審査員がものすごく優しい……!?」と驚かれるコメントが多数だったこともある。でも、当事者の私からすれば「歌・ダンス経験不問」のオーディションなので、評価のしようがないというのが正直なところなのだ。

歌もダンスも真っ当なトレーニングを受けたことのない子たちが、課題曲を自力で必死に覚えてきて、カメラや人前で披露する。それだけで“その時点では”じゅうぶん「全員えらい」となってしまう。そして、「受かったら死ぬ気で練習しような」と心の中で呼びかける。

日本アイドル界の育成方法に切り込む『ひかるイン・ザ・ライト!』

このように、日本のアイドル界を内側から見てきた私が感じつづけていた疑問や矛盾を、スパーン!と言語化した漫画作品がある。『漫画アクション』で2021年から連載されていた『ひかるイン・ザ・ライト!』だ。

『ひかるイン・ザ・ライト!』1巻/双葉社

作品紹介にはこうある。

いつからだろう、未完成のアイドルがステージに立てるようになったのは。
世界を魅了するのは、才能を努力で磨いた「特別な人」だけ。
さぁなりましょう、本物のアイドルに!

また、作品の冒頭もプロデューサーのこんなセリフから始まる。

「可愛い衣装を着せただけで育てようともせず、実力のない子をカリスマに仕立て上げ、使い捨てるのはもうやめましょう」

この言葉のどこが信頼できるかというと、けっして日本のアイドルたちを否定しているのではなく、あくまできちんと育成しようとしない一部の(現状は大半だが)アイドル運営に真正面から切り込んでいるところにある。

「育てようともしない」も「仕立て上げる」も「使い捨てる」も、まさにそのとおりだと思う。

運営サイドが育成に時間を割かないと、いつまでも自分のパフォーマンスに自信を持てない子は多い。

それにもかかわらず「君は特別だ」とプロデューサーの一存でセンターを任され、プレッシャーに押し潰されるような子が出れば、また代わりを立てる。このような場面を幾度となく見てきた。

「私なんかがセンターに立てない」と言うのは、謙遜でも腰が低いからでもない。自信を持てる根拠がないのだと思う。

きちんとトレーニングを受けている子たちだと、国民性など関係なく、リーダーやキリングパート(見せ場の多いパート、日本でいうところのセンター)にみんな我先に、と立候補することは、オーディション番組『Girls Planet999:少女祭典』でも証明されているのだ。

『Girls Planet999:少女祭典』211022

それだけみんな、自分のパフォーマンスに胸を張っている。その誇りや自信は一生涯、彼女たちの財産になると思う。

「パフォーマンス至上主義」がもたらす副効用

私がこれだけ「パフォーマンス至上主義」の大切さを説くのには理由がある。それは、アイドル自身の精神衛生が健康に保たれやすいと思うからだ。

日本では、アイドルの仕事というと、特にコロナ禍以前は「握手会」に相当数の時間が割かれてきた。

このイベントでは、人気の差が如実に浮き彫りになる。握手券の売り上げでメンバーの待遇を変える運営も存在するのだが、そうでなかったとしても本人たちに「気にするな」と言うほうが無理である。

目の前に棒グラフができているのだ。それが自分への評価のすべてだと、思い込んでしまっても仕方ない。

悩む女性/コンプレックス
※画像はイメージです

だけど、活動するモチベーションの大半がパフォーマンスに向いていたとしたら、どうだろう。

前出のグローバルアイドルオーディションでは、審査員も候補者も、歌やダンスの技術についてしか言及しない。

審査員も練習から帯同し、アドバイスをして、パフォーマンス発表時までにどれくらい伸びたかを事細かに評価する。

つまり、昔からオーディション番組でたびたび見かけた「できないと怒鳴る・追い込む」大人はひとりもおらず、「できない部分はどうしたらもっとよくなるか、徹底的に指導する」のだ。そのため、理不尽さは微塵も感じない。

もちろんどうしたって、技術以上の人気や魅力は存在するが、番組の構成も審査員のコメントも、そこについてはほぼ触れないのだ。その部分にそもそも、プライオリティを置いていないようにも見える。

そんな価値観の中で審査される候補生たちは、技術や表現の向上のみに集中することができる。たとえ人気で、ビジュアルで敵わない相手がいたとしても、正しく努力を重ねれば見てくれている人はいるのだと思えるからだ。

そして番組サイドが候補者の鍛錬する様子をピックアップすることで、次第に視聴者もそこを中心に支持するようになってくる。

アイドルを推す基準は、単に「かわいい」や「好みのタイプ」から「尊敬できる」「努力の成果が見える」などに移行しつつあるが、オーディション番組がそういった推せるポイントのナビゲート役を担っている部分もあると思う。

四半世紀前、『ASAYAN』から誕生したモーニング娘。

「オーディション番組」と聞けば、アラフォー以上の大半が思い浮かぶのは『ASAYAN』ではないだろうか。1995年から2002年までテレビ東京系で放送されていた「夢のオーディションバラエティー」である。

四半世紀前、すでに日本では毎週お茶の間がオーディション番組に熱狂していた。

当番組から誕生した代表的なグループが、説明するまでもなく、モーニング娘。である。彼女たちは「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション」の落選者から選抜された5人で結成された。

そして先日、25周年を迎えたモーニング娘。をはじめ、ハロー!プロジェクトがどうなったか。

今や日本では屈指の技術至上主義、プロ・アイドル軍団と呼ばれている。ステージにストイックな姿には、一目置く同業のアイドルも多い。

モーニング娘。’22『Happy birthday to Me!』Promotion Edit

しかしこれだけ長くつづいているのは、事務所が途中から「育成」に力を入れ始めた賜物なのだ。ハロー!プロジェクトは2004年からいち早く研修生制度を取り入れ、定期レッスンを行い、少数精鋭の若手を育てつづけている。

サバイバルオーディションはデビュー前から注目を集めやすく、応援する側の熱を瞬間的に上げることができる魅力的なツールだ。

それを一時的なエンタメとして消費しないためには、「育成」や「正しい努力の評価」の視点が必須なのである。

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竹中夏海

日本女子体育大学ダンス学科卒業後、2009年に振付師としてデビュー。その後、さまざまなアーティスト、広告、番組にて振付を担当。コメンテーターとして番組出演、書籍も出版。著書『アイドル保健体育』 (CDジャーナルムック)は「令和の保健体育の教科書」としても注目されている。

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