「ブスから神7(カミセブン)⁉」
初めて出版した著書『コンプレックス力 ~なぜ、逆境から這い上がれたのか?~』(2017年/産経新聞出版)の帯に「ブス」と書かれたアイドル・須田亜香里(SKE48)。王道アイドルを目指して芸能界に飛び込んだ彼女が、バラエティ番組などで「ブス」と呼ばれてしまうようになった。
ファンも家族も、もちろん本人も受け入れられなかったという「ブスイジリ」。最近では、テレビ番組での容姿イジリそのものが減ってきているが、須田亜香里は、そのイジリを踏み台にしてバラエティアイドル・タレントとして大成した。
須田亜香里はいかにして容姿イジリと向き合ってきたのか。
この企画を提案した際に、「私がアイドルでいるうちに聞いてください!」と語り、「バラエティ番組は優しい世界です」という彼女に、女性アイドルと容姿イジリの是非、そして自分の居場所をめぐっての変遷について振り返ってもらうロングインタビューの前編。
【連載「アイドルとシスターフッド」】
見る人の数だけ存在する「アイドル」のイメージに翻弄され、時にエイジズム、ルッキズムの呪縛にかかりながらも、その言葉の枠に留まらない女性たちの心の内を聞く。
須田亜香里(すだ・あかり)
1991年生まれ、愛知県名古屋市出身。2009年、SKE48の3期生としてデビュー。現在、チームEメンバーでリーダーを務める。31歳の誕生日である2022年10月31日の翌日、11月1日にSKE48を卒業予定。同年9月24日に卒業コンサート『君だけが瞳の中のセンター』を開催した。連載コラムをまとめた最新書籍『てくてく歩いてく ─わたし流 幸せのみつけ方─』(中日新聞社)が発売中
目次
初めて「ブス」と言われた日は家で泣いていた
──率直な言葉で聞いてしまうのですが、須田さんはバラエティ番組などで「ブス」と言われてきたことが知られています。今や須田さんは、それを笑いに変えて自分のキャラクターにしている。でも、容姿イジリは本来つらいことじゃないですか。
SKE48に加入してから、人生で初めて他人から「ブス」と言われるようになりました。それまで、自分のことをブスだと思ったことがなかった。その言葉に、私も当然傷ついていました。
──とはいえ、時代の流れとして、テレビでは他人に面と向かって「ブス」と言うことも減っていくとは思うんです。それに、時代の話とは別に、須田さん自身がどんどんきれいになっている。容姿イジリが減っていく今、振り返ってみて、最初に「ブス」と言われたのはどんな状況だったか覚えていますか。
じわじわとネットでささやかれているのは聞こえていたんですけど、聞こえてるけど聞こえないふりをしていました。ファンも、私がそう言われていると気づいてはいるけれど、認めたくない。耳をふさぎたい、という時期があったと思います。
その後、『恋するフォーチュンクッキー』(2014年)でAKB48の選抜入りをして、全国的なテレビ番組、歌番組などに出るようになってから、一気に言われるようになりました。SKE48メンバーの私がAKB48の選抜メンバーに混ざったときに、人から「ブス」と言われるようになって。最初は「え? 誰のことを言っているんだろう」「私がブス? そんなのウソ!」って信じられなかった。ショックだけど、聞こえないふりをして、でも心はしっかりとダメージを受けている。そんな状態でした。
ちょうどそのころ、日本テレビさんで「エビシリーズ」(『SKE48のエビフライデーナイト』など)が始まって、大久保佳代子さんがMCをやってくださったんですね。1クール目で、ひな壇に座っている私たちメンバーに向かって大久保さんが「おい、ブス!」って。「おい、そこのブスたち!」みたいに呼ばれて、ついにテレビでも「ブス」と言われた!と思いました。
──なんとなく感じていて、でも無視していた空気が、ついに顕在化した。
面と向かって言われたのが初めてだったので、びっくりしてしまいました。大久保さんご本人もいわゆる“ブスキャラ”として振る舞うことも多い方で、プロの芸人さんですから、当然、必要な役回りとして、演出としてその言葉を言ってくださったわけです。
のちにいろいろな番組で、私と大久保さんが悪口を言い合うノリをやりあうことになる“仲間”になっていくわけで、振り返ってみれば、おもしろくするために言った言葉であることは理解できる。でも当時は、傷つく必要はないんだろうけど、ショックだな……という気持ちでした。
まわりのメンバーたちを見ると、大久保さんに「やだー! わー!」と大騒ぎして、冗談として反応していました。言うて、みんなかわいい子たちだから。彼女たちを見て「ちょっと、やめてくださいよー!」みたいに返すのが正解なんだって学んだ。けど、私はマジで言われたと思って「どうしよう……」って。内心笑えないし、家に帰ってから泣いていましたね。
自分も家族も傷ついた「ブス」という言葉
──ご家族、特にご両親も、娘が「ブス」と言われたことにショックを受けていたんじゃないですか。
家族もずっとモヤモヤとしていたと思います。衝撃的だったのは、私が家で泣いているのを見て、母が「もう、松村香織さん(元SKE48メンバー)と一緒に歌うのはやめなさい。彼女と一緒に組むのはやめなさい」と言ってきたこと。松村香織は、いわゆる「ブスキャラ」として一緒に扱われることが多かった、戦友みたいな存在だったから。
──よく言う、「悪い友達とつるむのはやめなさい」みたいな感じですね(笑)。
そうそう(笑)。そして、私の1冊目の本『コンプレックス力』を出したとき、帯に「ブスから神7⁉」というコピーがついたんです。総選挙で7位になった翌年(2017年)なので、初めて「ブス」と言われてから数年が経っているんですが、そのときに、いよいよ両親がブチ切れましたね。「本の帯にまで書く必要があるのか? なんでわざわざ、文面でしっかりと残さなきゃいけないんだ」と。
当時は写真集も出していなかったので、記念すべき、私の第1冊目の本だったんですよ。そんな大切な本に「ブス」と書かれて、「なんだあの帯は! 誰に電話して文句を言えばいいんだ!」と、両親が私の携帯電話を奪って大騒ぎでした。SKEの支配人に電話すると言われて、私は「やめて! 刷っちゃってるから、もうどうしようもないの!」と止めて。家で叫び合いのケンカです。
正直、私自身も「ブス」と書かれた帯にモヤモヤとした気持ちがありました。でも、スタッフからは「この帯は絶対に引きがあって、いろんな人に手に取ってもらえるから」と言われて、よかれと思って提案してもらっている。「そうなのか」と思いながらも納得できていない気持ちを抱えていた。だから、そのモヤモヤを家族に話して助けてもらって、少しでもポジティブになれたらいいなと思って家に帰った。なのに、家族も怒っていて。
──家族の方も、スタッフも、須田さんのためを思って言ってくれてるんですもんね。でも本当は、家族には「ひどいよね」と寄り添ってもらいたかった。でも、ケンカになってしまった……。
私は、帯の文言を受け止めた上で、どうポジティブに捉えていったらいいかを話し合いたかった。でも、私だけでなく、両親も完全に傷ついていて、どうしたらいいかわからない状況になっていましたね。
「ブスと言われているのは武器」と言う事務所との出会い
──須田さんにもケアが必要だったけれど、ご家族も「ブス」という言葉に傷ついていて、本当ならば双方にケアや説明が必要な状況で、味方がいなくなってしまったんですね。
でも、そこで「バラエティ番組」の存在がまた現れてきます。それに救われました。本を出版した年に、私は今の所属事務所である「ツインプラネット」に所属したんです。
──事務所所属が、そのタイミングだったんですか。
はい、ちょうど本が出て、お渡し会が始まったころ、ツインプラネットのサイトに私の顔写真が載りました。ツインプラネットでは「あなたが『ブス』と言われていることは武器だよ」と言われ、そこから事務所と私の二人三脚が始まりました。
──ツインプラネットは、モデルの鈴木奈々さんなど、バラエティ番組でも大活躍するタレントが多い事務所ですよね。
私が入ったころは、鈴木さんのようなギャル系モデルの方、それと、今の言葉で言えば「ジェンダーレス」の方の中に私が入ることになって、「私はどんな存在だと思われているのかな?」と不安で怖かった思い出があります。私のこと、ギャルだと思ってる?って感じで(笑)。
──その不安や恐怖はすぐに解消されたんですか。
はい! 本が刷り上がって、本の形になる前の紙の状態のときに、事務所に「こういうものを書いたんです」とお見せしました。そのときに「すごい!」って強く言ってもらえて。そして、「あなたはバラエティ番組、向いてるよ」とも言ってくれました。
それまでの私って、バラエティ番組の収録で、ほとんど毎回泣いてたんです。なんでみんな、こんなに悪ノリするんだろうって怖くて。ちょっとおシモな企画のときにも、なんでこんなに下品なことを言うんだろうって。「アイドルらしくない! 怖い! やりたくない!」って泣いてました。
そんなふうに、バラエティ番組に対して後ろ向きだった私に「向いてるよ」と言ってくれて、ブスだと言われていることも「それは武器だ」と声をかけてくれて。自分のいろんな欠点を「おもしろいじゃん」「それいいじゃん」と、急に肯定されるようになりました。最初は「何言ってるんだろう、この人たちは」って戸惑って、すぐに喜べないくらいに。
──アイドルが「ブスと言われるのは武器」と言われても、よくわかりませんよね。
全然わからなかった。けど、それがちゃんとお仕事のきっかけになったり、会話が転がるきっかけになったりしていって、徐々に実感が湧いてきました。「ブスなアイドル」ではなく、あくまでも「“ブスと言われている”アイドル」という肩書が、私のキャラクターとなった。
プロの芸人さんが私に「ブス」と言うように仕向けるだけで、お互いの空気感や関係性が生まれて、周囲が笑ってくれたりハッピーになってくれたりしました。私のキャラクターを活かすだけで、みんながこんなに笑ってくれるんだ!と思ったとき、うれしかった。それまでは「自分のすべてが嫌い」と思っていたんですけど、まわりが笑顔になってくれることで、自分のことを嫌いじゃなくなりました。
──『コンプレックス力』でも、『てくてく歩いてく』でも、「自分が嫌いだった」という話を書いていますよね。「鏡の中の自分に絶望していた」と。
そうですね、まさに。それがなくなっていきました。
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