須田亜香里、初めて“ブス”と言われて泣いた日。「私みたいになってね、とは言えない」



過去の失敗を背負い、新しい自分になる

『てくてく歩いてく —わたし流 幸せのみつけ方—』( 須田亜香里/中日新聞社)
『てくてく歩いてく —わたし流 幸せのみつけ方—』(須田亜香里/中日新聞社)

──最初の話に戻るようですが、「ブス」と言われること自体は嫌だったわけですよね。でも、「ブスと言われているアイドル」というキャラクターは、周囲を笑顔にできるから受け入れられるようになった。それは、事務所であったり、一緒に番組を作っているスタッフや芸人だったり、現場を信頼できるようになったってことなのかなと、聞いていて思ったのですが。

最初は、ツイッターやSNSの反響の言葉がすべてだと思っていました。もちろん、口コミや反響がキャスティングに影響する方針の番組もあるので、悪い反響を見て「ああ、もう出られないかも」と落ち込むこともありましたけど……。

でも、結局テレビも「人対人」のお仕事なので、その場のスタッフさんとの関わりのほうが大切だと気づきました。私を選んで番組に呼んでくれるのは、そこにいるスタッフさんたちなので。現場をもっと大事にして、「須田亜香里と一緒の現場で楽しかったな」「須田亜香里を選んでよかったな」と思われる人になりたいなと思って、見方を変えました。

──最初は反響も気になっていたんですね。

SNSもそうですが、まだバラエティ番組が得意じゃなかったころは、スタッフさんからの印象も悪かったと聞きました。「昔一緒にやった番組で、あの子がすごく泣いて大変だった」とか「あんまり一緒に仕事したくない」というネガティブな印象が耳に入ることもあります。

でも、私もその自覚はあるんです。振り返ると、「あのときは確かに、すぐに泣いちゃってたな」と反省がある。ただ、今の自分はあのころとは仕事への向き合い方も、自分との向き合い方も違う。それは自分が一番よくわかっているし、過去の自分の失敗や、仕事のやり方を理解していなかった事実は背負っています。その上で、新しい自分としてがんばろうと思って、今日までつづけてきました。

厳しい反響は自分を「軽量化」する糧にする

須田亜香里「ブスといわれて」インタビュー前編
須田亜香里

──「自分はあのタイミングで変わったな」と思う明確なきっかけはありますか。

徐々に変わってきた部分もあると思いますが、今の事務所に入っていただいた最初の大きな仕事が『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ)の出演でした。そのとき、自己肯定感をすごく上げてもらったと思います。

以前は、仕事が終わってから「これでよかったのかな」って考えちゃって、一晩中反省して朝まで泣いて……というのが私の性質でした。でも、ツインプラネットでは『さんま御殿』に出たあとにマネージャーが声をかけてくれたんです。

「あそこはもうちょっとこうしたほうがいいと思ったけど、でもここがすごくよかったよ!」「あんなふうにコメントを返せるだけで、もうじゅうぶんだよ!」って、私の合格点に達しているポイントを教えてくれました。「ああ、自分って意外と、素直にやるだけでこんなに仕事ができてるんだ」と思えて、これからは自分に素直にやってみようと思えるようになりました。

前は、番組で話す内容を想定して、一言一句覚えていかなきゃいけないと思っていたんですけど、今は、同じ回答でも聞かれる言葉によって臨機応変に返し方を変えられるようになりました。そういう経験値を上げる時間を与えてもらった感じです。

──すごい。お笑い芸人さんも、用意していたネタを絶対に変えずにやろうとすると、想定と違うことが起きてスベることがあるって言いますよね。

そうなんですよね、論点がズレてしまうから。『サンデージャポン』(TBS)に出た経験も、私にとっては大きかったです。「こう答えられたらいいな」という想定があっても、聞かれ方が違うだけで、用意していた答えを言っても「こいつ、聞かれたことに答えてなくない?」という印象を持たれるんですよ。

そのときは、ツイッターとかの反響がすごく参考になりました。「丸暗記でいくと、こんなふうにズレが起きちゃうんだ」「自分にはこんな話し方の癖があるんだ」とわかって、次はズレが起きないように返せるようになろうと調整して。そういう調整に、反響がすごく役立ちました。

──ツイッターの反響というのは、直接リプライが届くんですか。

フルネームで検索して、見に行きますね。

──自分から見に行く!

「亜香里ちゃん」とか「あかりん」で検索すると、ファンの方の投稿が多いから厳しい言葉は少ないです。だから、あえてフルネームで検索して、ファンの方じゃない人の言葉から隠れたヒントをもらっていました。たとえば「須田亜香里って、すぐに『えーっと』とか『なんか』って言う」って書いてあって、確かに私の口癖だ!と気づいたりとか。

──文句を言いたい人のほうが細かいところまで見ていることって、よくありますもんね。

そういう、自分の「削ぎ落していい部分」に気づけるので、当時は厳しいコメントを役立てていました。削ぎ落さなくていいものは、自分の中でも、マネージャーさんもわかっているから。厳しい言葉は、自分を「軽量化」するのに便利だった。

──軽量化。もはやF1みたいな、ストイックな話ですね。

自分を軽量化してシンプルにしていったほうが、見ている人も話が聞きやすかったりしますしね。


バラエティ番組は誰かの笑顔に向かっていく優しい世界

須田亜香里「ブスといわれて」インタビュー前編
須田亜香里

──場に合わせて自分をコントロールできるようになってきたという話がありましたが、バラエティ番組に出るときは「バラエティ番組の須田亜香里」にチューニングを合わせるのでしょうか。

私、バラエティ番組のお仕事で緊張することがないんです。バラエティ番組のお仕事は、必ず誰かの笑顔がある方向に走っていけばいいのがわかるので。嘘はつきたくないタイプなので、無理に思ってもいないことをしゃべることもないし。自然な流れで共演する方と楽しくしゃべっているのを人に見せている感覚。普段、人と談笑していることの延長線上に、バラエティ番組がある。

──普段どおりの自分のほうがいいし、緊張しないほうがいいということですか。

緊張感が大事な人もいると思うけど、私は緊張しないほうがいい。さっきも言ったように、もし緊張してしまったらそれがその日の私だと受け止めますけど、基本的にはそのままの自分がいいです。考え過ぎちゃうと、思考が悪い方向に向かったり、誰かの気持ちを考え過ぎてテレビ向きじゃない自分になったりしてしまうので。なので、その場の言葉に素直に反応できるようなアンテナを大事にしています。

──『てくてく歩いてく』の中に、バラエティ番組で「体を張った仕事」をすることについて「期待に応えたい」と話していたら、お父さんから「違うだろう、なんでも一番になりたいだけだろう」と言われたエピソードがありましたよね(P143)。

負けず嫌いだから(笑)。「期待に応えたい」とか「人を喜ばせたい」と美化して言っていたこともあったけど、自分の原動力を本当の心髄までたどると、負けたくないから。となりの人が私よりおもしろい顔でパンストを被っていたら「負けた!」「負けたくねえ!」って思うから、そうなったら悔しくて、やっぱり斜めにグッと引っ張りますよね、パンストを。

──逆説的ですけど、アイドルにならなかったらパンストを被ることもなかったですよね。

はい。「ブス」と言われることもなく、超チヤホヤされて生きていたと思います。全部の出会いと失敗がつながっていった結果の今ですね。

──もし過去に戻れるとしたら、またアイドルをやると思いますか。

アイドルはやりたくないです。生活のすべてを捧げて、身を削ってきたからアイドルでいられたから。もう一度やったとき、もし今より低いレベルだったら、自分に合格点をあげられなくなっちゃう。

同じ苦しさをもう一度味わうことになるし、それをまたやるっていうのは少し難しいかなと思います。今まで、アイドルのすべてに対して最大値で努力してきたので。

でも、バラエティ番組はまたやりたい。やると思います。

──アイドルじゃなく、バラエティ番組のほうがまたやりたいんですね。

バラエティ番組は、優しい世界だから。みんなが誰かの笑顔のために走っていく、「みんなでバラエティしようぜ!」っていう感じの空気や時間っていうのは、なんか優しい。私はそう思うな。

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森 ユースケ

(もり・ゆーすけ)1987年生まれ。東京都出身。毎日ウルトラ怪獣のTシャツを着ているライター/編集。インドネシアの新聞社勤務、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。近年は企業のオウンドメディア編集も担当。オリックス・バファローズファン。

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