ベストセラー作家・東野圭吾の人気小説を原作に、2007年、テレビドラマでスタートした『ガリレオ』シリーズ。今や俳優・福山雅治の代表作ともいえる、同シリーズの最新作『沈黙のパレード』が9月16日に封切られる。
ライターの相田冬二は、本作の福山雅治について「いよいよ新たな領域に分け入っている」と評する。俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第27回、福山雅治論をお届けする。
福山雅治は、ひとつの“環境”
福山雅治は、誰もが認めるスタアだが、そのパフォーマンスにおいて、けっして出しゃばることがない。
もちろん、ライブやラジオではサービス精神旺盛であり、観る者・聴く者と、積極的にコネクトする。だが、それは、【場を作る】ということであり、自身が目立つことを到達点としているわけではない。
作詞家であり、作曲家であり、アレンジャーであり、演奏者であり、シンガーである福山雅治の、音楽家としての根本にあるのは、おそらく【プロデュース感覚】である。
そこでは、【場を見る=感じる】ことが主眼となっている。
その気さくさは、同性にも好まれる。滴る系の色気は言わずもがな。だが、セクシーでフレンドリーな福山雅治を単眼だけで見ていると、彼の大切なアイデンティティを逸する。
映画俳優としての彼もまた、【場を見る=感じる】鋭敏な感性を駆使して、ふくよかな状況を創り上げている。
福山雅治は、ひとつの【環境】だ。
もう少しわかりやすくいえば、【建築物】である。【居住まい】や【居心地】という言葉もしっくりくる。【佇まい】とは少し異なる。【佇まい】と呼んでしまうとやや流れてしまう、ある種の潔癖さや清冽な何かが、すっくとそこに立っている。
【居】という響きもまた、表現者、福山雅治のフォルムにふさわしい。
【居】には、その場所に居ること、そこに身を置くこと、その場に住むこと、などの意味がある。
私たちが、福山雅治に感じている清潔さ、ぬくもり、さらさらとした感触、ぬくぬくとした安心感などは、あえて【居】を分解するならば、白い壁にたとえられるかもしれない。
ただ、そこに在る、やさしき白い壁。
福山雅治の人間描写は過度に傾くことはない
今にして思えば、俳優としての彼の出世作『ひとつ屋根の下』という連続ドラマのタイトルは、示唆に満ちていたのかもしれない。
映画に関しては、かなりの沈黙を経てから、『容疑者xの献身』でスクリーンに復帰した。デビュー作『ほんの5g』以来、実に20年ぶり。
その役は、ドラマで当たり役になったガリレオ=湯川学だった。しかし、彼はここでキャラクタライズされた天才物理学者像を銀幕仕様に拡大解釈するのではなく、あくまでも犯人・堤真一の親友として、【すれ違うように見護る】ことに徹していた。超人・湯川の個性を押し出さず、一切のデフォルメを剥ぎ取って、まっさらなフォルムを通して、そこはかとない人間味を映し出した。
自身を薄切りにすることで、犯人の物語を支え、浮き彫りにする。冬が舞台だったこともあり、福山雅治の効能には、質素なサンルームを思わせる、控えめな温かさがあった。天然の光を人工的に温存する【部屋】。アナログとデジタルが行き交う、オリジナルな情緒。それは【環境】だった。
湯川学を再び演じた『真夏の方程式』では、子供のそばにいながら、【適切な距離から見護る】ことの美を生きた。
是枝裕和の映画では、キャラクターがある種の欠落を抱えることになるが、『そして父になる』にせよ、『三度目の殺人』にせよ、人物の穴を強調するのではなく、【不完全なこの世界】を静かに照射する。
福山雅治の人間描写は過度に傾くことはない。虚ろなときも、狼狽(うろた)えるときも、そのありようを大切にしながらも、演技表現の誇示には至らない。
だから『そして父になる』ではキャスト陣のアンサンブルがクリアになるし、『三度目の殺人』では相手役(という形容がぴったりだ)の役所広司に翻弄されるポジショニングをひたすらキープした。
むさ苦しいパパラッチを快演した『SCOOP!』でさえ、イメージチェンジというキャッチーなところに収まらず、作品の世界観を浮かび上がらせる媒介として機能し、盟友リリー・フランキーの存在感を高めた。
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