まるで「無料のキャバ嬢」──おじさんとの飲み会が苦痛だった新入社員時代のこと(僕のマリ)
4月になり、スーツ姿の新社会人たちが駅や電車などで目に留まる。文筆家・僕のマリ氏が、自身の新入社員時代を振り返り「下の世代に繰り返してほしくないこと」を綴る。
お酒は好きでも、乗り気になれなかった“職場の飲み会”
お酒を飲むのが好きだ。家で缶ビールを飲む日もあれば、居酒屋で飲んで帰る日もある。ひとりで読書しながら飲むのも好きだが、誰かと話しながら酔っ払うのも楽しい。
新型コロナウイルスが蔓延して早2年、大勢でお酒を飲む機会は圧倒的に減ったが、それでも頃合いを見計らって誰かとお酒を飲むのが楽しい。
昔はつらいことがあるとお酒を飲んでいたが、今は楽しく穏やかな気持ちで飲んでいる。しらふで話すのとはまた違う高揚が、心をゆるく解放させてくれる。
できれば楽しくてどうでもいい話がしたい。好きなスナック菓子やおすすめのマンガ、芸人の好きなネタ、学生時代の思い出、そういう話ばかりしたい。それで、まだちょっと飲みたいな、とか思いながら火照った顔を夜風で冷まして、満たされた気持ちで眠りたい。
居酒屋に行く機会が減って寂しい反面、あんまり乗り気ではなかった“職場の飲み会”を回避できるようになったのはうれしい。ネットニュースを見ていても同じような声が多く、「職場の飲み会がないのが助かる」と胸をなで下ろす若い世代が大勢いる。
飲み会で自慢や説教をしてくるおじさん
飲み会自体が嫌というより、「飲み会で聞かされるおじさんの自慢や愚痴や説教がつらい」人がほとんどなのではないだろうか。少なくともわたしはそうだ。
今は時節柄もあってはっきり断れるけれど、昔はなんとなく断るのも気まずくて、何度か飲みに連れて行かれた。
やはり当時は無知で若かったので、誘われたら行くし、ごちそうになったら何も文句は言えないと本気で思っていた。「こんな店、若い子は行けないよね?」と言われたら首を縦に振るしかなくて、これも経験のうちと考えた。
目上の人と食事して、お酒の減り具合を気にしたり、料理を取り分けたりするまではいい。それは仲がいい人にもやってあげたいと思うことだし、そこまで苦痛ではない。
ただ、会話の内容がきついな、と思うことが多かった。たいていが自慢話(ほとんどが昔のことだった)や説教なので、反応に困ってしまう。
自分のことなんてほとんど話さなかったと思う。何か言ったところで、ダメ出しや「こうしたほうがいいいよ」という求めてもいないアドバイスが飛んでくるのだ。
心では嫌だなと感じていても、当時は「そういうものなのだ」と思ってやり過ごすほかなかった。高いお店でごちそうになっても、あんまりおいしいとも思えなかった気がする。
たとえるなら「無料のキャバ嬢」だった日々
30歳を前にして、この苦い思い出を人に話したとき、「そんなに自分の話をしたかったら、ごちそうするだけじゃだめだよね。追加でお金払わなきゃね」と言っていて、冗談かもしれなかったけれど確かにそうだよなあと思った。
女友達と話していたときも「無料のキャバ嬢だと思われてたらやってらんないよね」と言っていて、感覚としては確かに「無料のキャバ嬢」というのがしっくりくる。「すごいですね」と言ってもらいたいがゆえに、年下の女性相手に自慢をするし、説教もするのだろう。
しかし、一方的に話されるだけならまだマシかもしれない。飲みの席だからと、「彼氏いるの?」「料理できるの?」と品定めするようなことを聞かれたことがあった。
仕事の相手に言わなければいけないことだろうかと思いながら、「どう答えたら正解なのだろう」と、心が折れそうになったのを覚えている。
「嫌だったことを繰り返さない世代」として生きるために
自分が年を重ねて、下の世代には同じ思いをしてほしくないと思う。耐えていた時代も必要だったかと問われるとそうではなく、ただ自分が削れていく感じがつらかった。
「自己肯定感」という言葉が巷にあふれているが、自分で自分を肯定するのが難しい環境というものもあると思う。わたしがそうだった。誰かの欲の捌け口にされたり、消耗されている間は自分に価値を見出したりすることが難しかった。
一方的に話を聞かされたり、勤務時間外に説教されたり、私生活に口を挟まれるのが苦痛でならなかった。あのとき、良識のある大人に守ってほしかった。
そんなふうに若いころの苦しかった記憶を辿ると、今同じ思いをしている人がいないか気になって仕方がない。
令和も4年目になり、時代が大きく変わるのを体感している。セクハラやパワハラを認めない社会、風潮がこのまま浸透していくように、「自分たちがされて嫌だったことを繰り返さない世代」として生きていきたい。
自分もまわりも大切にすることが、当面の目標だ。
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