坂口健太郎論──少年でもあり、老人でもある情緒。坂口健太郎は「その人だけの時間」を生きる。

告白的男優論#20 坂口健太郎論

(c)2022映画「余命10年」製作委員会
文=相田冬二 編集=森田真規


難病を患い“余命10年”を生きた小坂流加の同名小説を原作にした映画『余命10年』が3月4日に封切られた。W主演を務めたのは、今回が初共演となる小松菜奈と坂口健太郎だ。

ライターの相田冬二は、本作での坂口健太郎を「老成と未熟のマリアージュ」と評する。俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第20回、坂口健太郎論をお届けする。

演技する者を見定めるリトマス試験紙としての“難病もの”

坂口健太郎には、顔がはっきりしているときと、そうでないときがある。どちらも素晴らしい。今回は後者だ。

小松菜奈には、ひねくれた役を演じるときと、そうでないときがある。どちらも素晴らしい。今回は後者だ。

年齢は違うが、同じ2014年に演じ手としてデビューしているふたり。お互い約8年のキャリアを重ね、『余命10年』で邂逅したことを、まず喜びたい。

『余命10年』は、いわゆる難病ものに分類される作品だ。そして、私たちが想像する難病もののイメージから、展開がそれほど逸脱するわけではない。難病ものは、演者の質が試される。お涙頂戴に奉仕し過ぎるのも、まったく無視するのも、演技のクオリティが低いと言わざるを得ない。どの地点に芝居の頂上を持っていくか。否応なくセンスが露呈する。難病ものは、演技する者がプロフェッショナルか、そうでないかを見定めるリトマス試験紙だ。

映画『余命10年』本予告

坂口健太郎という“リュミエール”

小松菜奈はプロ中のプロだ。共感度を高く実らせながらも、すり寄るような媚びは皆無。芯に毅然とした姿勢が貫かれており、だから、どんな苦難もどんな悲しみも、ある意味すがすがしく受け取ることができる。湖の水。

数万人にひとりという不治の病を抱えた女性・高林茉莉に扮した小松菜奈
数万人にひとりという不治の病を抱えた女性・高林茉莉に扮した小松菜奈

坂口健太郎は、女優を輝かせるワイングラスだ。女優をワインにしてしまうともいえる。ワインはボトルに入っているうちは輝かない。抜栓され、グラスに注がれることで、薫りを解き放ち、命を脈動させる。赤にしろ、白にしろ、ロゼにしろ、泡にしろ、ワインは輝く。だが、ワイン自体が輝くわけではない。グラスという場所を与えられ、そこに自然光にしろ、人工照明にせよ、【光=リュミエール】が付与されることによって、輝く。

私たち飲み手は、その輝きを愛でながら、ワインを視覚、嗅覚、味覚、触覚すべてを総動員し、躰から心へとつながる道を全開通させながら、味わっている。坂口健太郎は、光をうまく取り込み、女優というワインを輝かせる秀逸なワイングラスだ。

茉莉と恋に落ちる青年・真部和人に扮した坂口健太郎
茉莉と恋に落ちる青年・真部和人に扮した坂口健太郎

たとえば『今夜、ロマンス劇場で』の綾瀬はるかは、坂口健太郎と共演することで、姫になった。坂口には、特殊な設定も地道な尽力で地に足をつける技がある。だから、少々突飛なシチュエーションのヒロインも、ここでは神々しい光を放っている。美男美女が同等に煌めいてしまうと、互いを消し合ってしまう。坂口健太郎は美男だが、常に慎ましい。侘びと寂びを感じさせる。蝋燭をそっと灯すような控えめさがある。ジャパニーズ・ホスピタリティ。

映画『今夜、ロマンス劇場で』予告編

『ナラタージュ』では狂気の灯火で、有村架純を輝かせた。『人魚の眠る家』では信念の炎で、篠原涼子を輝かせた。

映画『人魚の眠る家』予告編

主演作『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』には、吉田鋼太郎を輝かせるために間接照明として存在した。

『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』本編映像

絶妙にして、精緻。それが、坂口健太郎というワイングラスであり、【光=リュミエール】である。

坂口健太郎が見せた“決定的に新しいニュアンス”

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