最終回『麒麟がくる』<本能寺の変>大胆解釈!完全にネタバレしている歴史ドラマになぜ震えるのか。改めて考える
昨日の大河ドラマ『麒麟がくる』最終回「本能寺の変」の興奮冷めやらぬまま、歴史も歴史物も大好きなノンフィクションライター近藤正高が、改めて「史実を物語にすることの本質」について考察する。
『麒麟がくる』の本能寺の変から
2021年2月7日、戦国武将の明智光秀の生涯を描いてきたNHKの大河ドラマ『麒麟がくる』(長谷川博己主演)が最終回を迎えた。物語最大の山場となる本能寺の変がどんなふうに描かれるのか、視聴者の誰もが気になっていたことだろう。ふたを開けてみれば、光秀が決起に及ぶ理由として近年学界で有力視される「織田信長の対四国政策の転換」説を採り入れながらも、脚本の池端俊策による独自の解釈が加えられ、かなり大胆な展開になっていた。
そもそも光秀に討たれる信長(演:染谷将太)からして、「両親から愛情を注がれずに育ったために、常に他人から認められていなければ気が収まらない」極めて現代的な人物として描かれていた。光秀は当初、信長こそ自分の目指す平和の世を作ってくれる人物と思って手を組み、協力をつづけてきた。信長もそんな光秀に絶大の信頼を置く。だが、信長は勢力を拡大するに従い、ますます承認欲求を募らせ、自分を認めない者は容赦なく切り捨てるモンスターと化してしまう。『麒麟がくる』の本能寺の変は、光秀が信長をそんなふうに仕立て上げてしまった責任を取るべく起こしたものとして描かれた。信長も、最後の最後で、光秀に討たれることに納得して死んでいくのが印象的だった。
『麒麟がくる』は、池端俊策が放送前から語っていたように、室町幕府の終わり、すなわち中世から近世への転換期に焦点を当てるべく、明智光秀を主人公とした。大河ドラマに限らず、小説・マンガも含めフィクションの分野では以前から戦国時代は盛んに舞台とされてきたものの、室町時代からの連続性が強調されるなど中世史の観点から描かれるのはここ最近の傾向だろう。マンガでは、ゆうきまさみが戦国武将の伊勢新九郎長氏(北条早雲)を描く『新九郎、奔る!』(『ビッグコミックスピリッツ』で連載中)がこれに当てはまる。
『週刊少年ジャンプ』では同じ中世でもさらに遡り、南北朝時代を舞台とした『逃げ上手の若君』の連載が先月25日発売号(2021年8号)よりスタートした。『魔人探偵脳噛ネウロ』『暗殺教室』などのヒット作がある松井優征による同作は、鎌倉幕府14代執権の北条高時の息子・北条時行を主人公に据えている。これに対しネット上では、時代設定といい主人公といい、その題材の渋さに歴史ファンから驚きの声が上がった。
『鬼滅の刃』の大ヒットあってこそできた冒険ともいえるが、少年・時行が、第1回で足利高氏(のちの尊氏)の決起により幕府を滅ぼされ、親兄弟を失うなか、謎の神官・諏訪頼重(彼も実在した歴史上の人物である)から仲間・武力・知力を提供されて復讐を期す展開は、『ジャンプ』ならではと思わせる。
なお、北条時行は鎌倉幕府滅亡から2年後の1335年、足利氏に対し「中先代の乱」と呼ばれる反乱を起こす。この乱については、ごく最近まで研究者の間でも、専門的な論文はほとんど書かれてこなかったという。中先代の乱の概要を知りたい向きには、最近、朝日文庫より復刊された『南朝研究の最前線』(日本史史料研究会監修・呉座勇一編)収録の鈴木由美による論考「鎌倉幕府滅亡後も、戦いつづけた北条一族」がわかりやすい。
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