最終回『麒麟がくる』<本能寺の変>大胆解釈!完全にネタバレしている歴史ドラマになぜ震えるのか。改めて考える

2021.2.8


ネタバレを凌駕する魅力とは

それにしても、明智光秀と織田信長の関係のように、ラストがあらかじめネタバレしているものをどうして私たちは楽しめるのだろうか。日本近現代史を専門とする與那覇潤の著書『歴史がおわるまえに』(亜紀書房)に、そのヒントとなるような一文を見つけた。

與那覇は、地方の大学教員だった2011年に上梓した『中国化する日本』(文藝春秋/文春文庫より増補版)で、「中国化」「再江戸時代化」などといった独自のキーワードを用いながら、源平合戦から現代まで一千年に及ぶ日本史の「大まかな見取り図」を描いてみせた。

『歴史がおわるまえに』は、その後病気による休職を経て在野に下った著者が一昨年に刊行した1冊で、その冒頭は《歴史に必然というものはあるのでしょうか》との問いかけで始まる。この問いに対し、與那覇はかつて新入社員に贈る本として山田正紀の長編SF小説『エイダ』(ハヤカワ文庫)を紹介した文章を再掲しているのだが、その最後の一文が示唆的であった。

『歴史がおわるまえに』與那覇潤/亜紀書房
『歴史がおわるまえに』與那覇潤/亜紀書房

「あなたには無限の可能性がある」などと言われるとかえって鼻白むという経験は、よほどの自信家でもないかぎり、みなあるところでしょう。しかし、「あなたには他の可能性もありえた」という事実は、いかなる歴史の必然論によっても消し去ることはできない。むしろ自らの過去を振り返り、そのような「他でもありえたかもしれない」地点にまで戻るための技法として歴史(学)はあり、そして、その場所を思い出すことができるかぎりで、いまあなたがどこで、いかなる仕事をしていても、人間には「自由」というものがあるのだと思います。

『歴史がおわるまえに』與那覇潤/亜紀書房
『エイダ』山田正紀/角川書店
『エイダ』山田正紀/角川書店

後世から振り返ると、歴史上の出来事はみな必然的に起こったかのような錯覚に陥る。だが、実際には、どんな出来事も、複数あった選択肢の中から、さまざまな偶然が重なって選ばれた結果生じたに過ぎない。

本能寺の変というラストがわかっていながら、光秀と信長の物語がなおも人々を引きつけてやまないのも、そこに至るまでの間に、いくつもの選択の積み重ねがあるからこそだろう。そうした積み重ねからは、時に「あり得たかもしれない未来」を見出すこともできる。私が歴史の本を読んだり、それを題材にしたドラマを観るのが好きなのも、そこに醍醐味を覚えるからだ。

大河ドラマはすでに再来年、2023年の作品も先頃発表され、松本潤主演・古沢良太作で徳川家康の生涯を描くという。その名も『どうする家康』。同作もまた、家康が人生で何度となく訪れるターニングポイントで、どんな選択をするのかを描くものと予感させる。

私が最も気になるのは、関ヶ原の戦いがどのように描かれるかである。これまでの通説では、この戦いでは当日正午ごろまでは石田三成方の軍勢が優勢だったのが、家康が、三成方についていた小早川秀秋の陣営に鉄砲を撃ちかけ、取り込みに成功したことから形勢が逆転、勝利を収めたものと伝えられてきた。しかし、現在では、小早川は関ヶ原の前より家康方につき、当日はあっさり勝負がついたという説が有力になりつつある(これについては白峰旬の一連の著書『新解釈 関ヶ原合戦の真実』宮帯出版社、『新視点 関ヶ原合戦』平凡社などに詳しい)。『どうする家康』では果たしてどちらの説が採られるのか。今から楽しみである。

『新解釈 関ヶ原合戦の真実』白峰旬/宮帯出版社
『新解釈 関ヶ原合戦の真実』白峰旬/宮帯出版社
『新視点 関ヶ原合戦』白峰旬/平凡社
『新視点 関ヶ原合戦』白峰旬/平凡社

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近藤正高

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近藤正高

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