欅坂46から櫻坂46へ。解散じゃないけど淋しい。『推し、燃ゆ』の卓越した文章、推すことの「救いと絶望」を推す
欅坂46から櫻坂46への改名発表に複雑な気持ちになりながら、新三島賞作家・宇佐見りん『推し、燃ゆ』を、書評家・豊崎由美が熱く推す。ここまで推しの心理を抉った純文学小説は初めてなんじゃないだろうか。
「ワクワクしますね。初心を思い出してやるしかない」
(菅井友香/欅坂46 2020年9月28日『ENCOUNT』)
推す気持ちの乱高下が身にこたえる
10月12、13日のラストライブをもって欅坂46としての活動を休止し、櫻坂46と改名。絶対的エースにして楽曲の持つメッセージ性の体現者でもあった平手友梨奈(様←こうした原稿では呼び捨てにするのが通例だけれど、どうしても呼び捨てにできない心情をお察しください)が脱退したときからファンはグループの存続を危ぶんではいたわけで、解散ではなく「改名」ですんだのは慶事というべきなんだけど、でも、10月14日以降このグループからは平手(様)の“匂い”は一掃されるんだろうなと思うと、トヨザキはちょっと淋しかったりします。
たいていの人は気持ちの濃淡に差はあれど誰かや何かを推した経験があるかと思うのですが、わたしの場合、「ガチ勢」と呼ばれる皆さんの熱量に匹敵するほど好きになったのは3歳のときに魅了された長嶋茂雄(様)。現在は能年玲奈(現のん様)と平手(様)を推してはいますが、長嶋(様)に傾けたほどの情熱かと問われればうつむくよりほかありません。
というのも、恐ろしくなってしまったからだと思われます。推しが褒められたり活躍すればちょっとどうかというほど胸が沸き立ち、推しが批判されたり貶められたりすれば我が事のように深く傷ついてしまう。推すという行為は歓びと同じくらいの強度の苦痛を伴うわけで、そうした気持ちの乱高下が59歳の身にはこたえるようになったという次第です。
そんなぬるい人間が最近推している作家のひとりが、9月17日にデビュー作の『かか』で第33回三島賞を受賞した宇佐見りんです。受賞作は19歳のうーちゃんによる一人称小説で、精神不安定な母親との愛憎こもごもの関係を独特の文体で描いているのですが、その中で作者は語り手に心のよりどころを用意してやっています。それは鍵をかけたアカウントで参加しているSNS。うーちゃんは大衆演劇の西蝶之助という女形が大好きで、気が合うフォロワー20人くらいとそこで交流しているんです。で、2作目の『推し、燃ゆ』はその設定をさらに深化させており、『文藝2020年秋季号』掲載時には、タイトルゆえか、普段文芸誌を読まない層にまで読者を広げ、SNSで話題にもなりました。
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