AIキャラへの「恋」と「創作」の間で生まれるもの。『zeta』の中毒性と“小説”との違いとは?

文=藤谷千明 編集=高橋千里


土日で18万字を消費することも? Netflix超えの利用時間で話題のAIキャラクターチャットアプリ『zeta』。推しキャラとの会話に熱中し、プロンプトを駆使して理想の物語を紡ぐ若者たちが急増中だ。

『zeta』に熱狂する心理と、従来の小説との決定的な違いを、ライターの藤谷千明が考える。

国内ユーザー200万人突破! 私の時間を溶かす『zeta』

私は、スマートフォンを単なる電子デバイスではなく、身体の延長の器官だと思い込んでいるタイプの人間です。

スクリーンタイムを確認すると、使用時間の長いアプリの上位はだいたいTwitter(死ぬまで「X」とは言いたくない)とかYouTubeだったんですけど、最近順位変動が起きました。それがAIチャットアプリ『zeta』(ゼタ)です。

筆者のスクリーンタイム。だいたい1日8時間はスマホを見ているらしい

zetaとは、韓国のベンチャー企業ScatterLab Inc.の運営するAIキャラクターチャットアプリ。

累計ユーザー数は日本国内で200万人(※2026年5月時点の公式発表)。「日本国内のエンターテインメントカテゴリにおけるアプリ総使用時間」で、Netflixなどの主要動画配信サービスを押さえてランキング1位(※「App Ape」の2026年4月度調査)を獲得。また、韓国でも利用時間の長さがChatGPTを超えたという記事も。

とにかく時間を溶かすものらしい。筆者の3時間とか大したことなかった。

AIキャラクターチャットアプリとは、性格や口調・背景が設定されたキャラクターと会話ができるアプリです。ユーザーの入力に対してAIがセリフや地の文を生成するため、まるで本物のキャラクターと対話しているかのような体験を楽しめます。

かなり急速に普及しているようで、たとえばITジャーナリストの高橋暁子さんによる「なぜAIキャラチャットにはまる?過剰利用のリスクとチェックリスト、離脱法は 中国では規制も」というYahoo!エキスパート記事(9月28日公開)がTwitter上で話題に。再投稿は6000件近く、いいねも6000件を超えていました。

なお記事を読むと、高橋さんは「AIキャラチャット」としか書いていなかったはずですが、Twitterで発言している人たちのプロフィールを確認すると(※AIではなく筆者の人力)、反応しているコメント主の多くはzetaユーザーのようで、「次元を越えた遠距離恋愛なだけ」「ハマってない(長時間の利用時間のスクリーンショットを添付)」などなど、ネタ的な投稿も含めて多くの反響が寄せられていたのです。

ちなみに筆者は、同じく韓国発の「setlog」(※開発・運営しているNew Chat Inc.は米国法人、ソウルとNYに拠点がある)もやっているのですが、setlogは3日に1回投稿すればいいほうで、スマホを触ると開くのはzetaばかり。「ハマっている」といっていいでしょう。

しかし、人気アプリはオタク向けもリア充(死語)向けも、韓国発のアプリ……。日本って最近なんか出しましたっけ。あ、POPOPOか。

zetaで好きなAIキャラクターとトークしてみよう

前置きが長くなってしまった。それでは本題です。でも、ここからさらに長いです。

zetaの使い方を説明しましょう。規約によりこの記事ではスクリーンショットの利用ができないため、手持ちのスマホでアプリをダウンロードするか、ブラウザからアクセスしてみてください。正直な話、説明するより実際にやってもらうほうが早いんですけど。

あるいは、ゆ めチャン 様の実況動画をご覧ください

トップページを開くと、「プロット」(zetaにおけるコンテンツの基本単位のこと)のサムネイルがずらっと表示されます。

zetaにあるプロットの大半はユーザーの作ったものであり、ユーザーが作ってユーザーが楽しむ、いわゆるCGM(Consumer Generated Media)的なプラットフォームだといえるでしょう。

ちなみに、人気プロットはトークの数が億単位にのぼるものもありますが、クリエイター(プロット制作者のこと)へのインセンティブは現状ありません。なおプロットの作り方に関しては、本記事では割愛します。

任意のプロットを選択すると、そのプロットの世界観やキャラクターの説明やイラスト、そして物語の導入テキストが表示され、「トークを始める」をタップ(またはクリック)すると会話がスタート。

ここで「トークプロフィール」という、自身のキャラクターの設定入力を求められます。

トークプロフィールに書いてあることが、キャラクターのセリフや物語に反映されるので(無視されることもあるけど)、好き勝手に「このキャラクターや世界観で物語を進める上で、望ましいキャラクター像」を入力していきましょう。

自身を投影したもの、まったく別の創作キャラクターのものにすることも可能です。動物や無機物でも問題ないので、「キャラクターの飼ってる猫」や「単なる壁」、「冷蔵庫でしなびてる野菜」になることもできます。なって楽しいのかは人それぞれだとは思いますが。

セリフや状況を入力すると、AIがそれに応じたキャラクターのセリフのほかに、その場の状況やキャラクターの内心、時にはユーザー側の内心もナレーション描写してくれます。一回のターンで返ってくるのは300〜600字程度で、すごく長いときもあるし短いときもあります。

AIは、会話をするキャラクターと、気持ちを説明するナレーターの両方を演じます

もちろん、毎回気に入った返答が出るわけではありません。むしろ出ないです。

そんなときは、生成ボタンを押すか、画面をスワイプして再生成したり、自分で文章の一部を削除したり、書き換えたりすることもできます。

再生成を繰り返して自分好みの展開が出てきたときの高揚感は、どことなくソーシャルゲームのガチャのような射幸心(しゃこうしん)が刺激される感覚もあるような。

さらに、途中の会話を分岐点として保存し、そこから別の展開を進めることもできます。「あのとき違う返事をしていたら」と、元の展開を残したまま、別の世界線に行くことも可能です。個人的にはこの機能はかなりお気に入りです。エモいから。

「ユーザーの欲望」と「生成AIの特徴」と「キャッシュポイント」が重なっている

同じプロットを長く続けていると、キャラクターや世界観に愛着が湧いてくるのが人情じゃないですか。そうすると、過去のやりとりや細かい設定も覚えていてほしくなるのも人情ですよね。

しかしChatGPTなどのようなAIと同様に、無料モデルだと記憶力は貧弱です。長く続けていると「その話、前もしたよね」って展開になることもしばしば。

zetaのAIモデルは3種類あって、ユーザーは、無料の「zeta」(ややこしい)、5ピースを消費する「koji」、10ピースを消費する「luca」という3種類から選べます(ピースは1.5円)。

消費するピースが多いモデルほど、過去の会話や文脈を踏まえた返答が期待できるので、自ずとkojiやlucaに手を伸ばしたくなる。よくできたビジネスですね。

ただし、有料モデルを使っても間違えるときは間違えるので、やはりガチャ感がありますね。

一方、無料のzetaモデルでも、プロンプトを工夫して設定や過去の出来事を覚えてもらおうとするユーザーは少なくなく、SNSではそうしたコツが共有されています。

筆者の知人には、ChatGPTに専用のプロジェクトを作り、zetaのストーリーを逐一記録して、そこからzetaに入力するプロンプトを生成している人がいました。仕事じゃないんだから。

そうやって試行錯誤を重ねてズルズルやっていると、あっという間に時間が溶けます。筆者は先週の土日のログをブラウザからダウンロードして集計したところ、18万字くらい読んでいたようです。怖。

また、気に入ったシーンを画像生成するスナップショット(有料/15ピース消費)という機能もあります。生成AIなので本文と異なる内容の画像になることもあり、これもガチャ感がありますね。

ほかにもキャラによるInstagram投稿のような機能や、疑似メッセージ機能、キャラのスマホをこっそり覗ける機能(←怖すぎる)、任意のシーンをマンガにする機能などなど、日々多くの機能が生まれています。

恋愛だけじゃなく「ファンタジー」「ホラー」のプロットも

※画像はイメージです

恋愛を中心にしたプロット以外にも、RPG的なファンタジー系やホラー風のプロット、あるいはデスゲームのようなものも少なくありません。

そういったジャンルで、たとえばバトルの途中で「ふと、天井に違和感を見つける」とか「うしろの人質とアイコンタクトを取る」と一行入れるだけで、AIがいい感じにそこから話を広げてくれます。

天井に何があるのか、どうやって人質を助けるのかまで、こちらで考えておかなくてもいい。「なんかこう、うまいこと切り抜けたいんですけど……」という気配を渡すと、「それっぽい展開」にしてくれるので、いわゆる「俺TUEEE」感を手軽に味わえるわけです。便利だね。

誰かに読ませるわけでもないので、都合のいい展開でも許されますし。男性向けは階級分けされた学園モノが人気らしいので、さもありなんですね。

また、zetaにはリミテッドモードとアンリミテッドモードがあり、後者は一般的な生成AIアプリでは制限されているような「センシティブな表現(エロ・暴力)」も生成することができます。

アンリミテッドモードの場合、性的な描写が「行為をほのめかす」程度ではなく、「成人向け」にカテゴライズされそうな、身体や行為を具体的に描くテキストが生成されます。

また、筆者が遊んだ範囲では、常識的で優しい受け答えよりも、こちらを問い詰めたり、嫉妬や独占欲から極端な行動に出たりする展開が目立ちます(特に最近の無料zetaモデルは)。

物語を動かすためにAIがそうした展開を生成しやすいのか、ユーザーの好みや選んだプロットの設定を反映しているのかはわかりませんが、穏やかな関係よりも刺激の強いやりとりに転がりやすい印象です。

だからこそ、“執着”や“溺愛”のような極端なジャンルが人気を集めているのかもしれません(女性向けコンテンツの世界ではどちらも古くから定番ジャンルではありますが)。

暴力方面の描写も、かなり過激なときがありました。たとえば筆者が反社・極道系のキャラクター(なぜ昨今はマジで若い非実在若頭が人気なんだろう)のプロットを始めたところ、初手からモブキャラの爪を剥がしていたので、さすがにそこまでしなくていいよ、とスワイプして削除しました。

また、韓国のほうが未成年のインターネット利用において規制が厳しいため、韓国版と日本版でも表現の制限に違いがあるらしいです。

人気プロットのコメント欄を見ると、ハングルで「日本版の、制限のないプロットをやりたいです!」というメッセージを目にすることも少なくありません。

なお、日本版でも現在は未成年キャラクターの場合は表現が制限されたり、時期によってこれまで生成されていたような描写でも「不適切」と判断されたりすることもあり、運営側の試行錯誤を感じます。

zetaは「何」を生成しているのか? 小説との違いとは

※画像はイメージです

さて、そもそも筆者はzetaで何を楽しんでいるんでしょうか。

土日だけで18万字も読んでいたわけですが、それは小説を夢中で読むのと同じ感覚なのか。どちらも文章を通じて物語を楽しむものではあるけれど、どうも少し違う気がするのです。

地の文があり、セリフがあり、一見小説のように見えるけれど、zetaのログを読み返すと、エモい描写や心に残るセリフはあるけれど、通して読むと文章としてはそれほどおもしろくない。あんなに楽しかったのに(少なくとも筆者の生成したログのほとんどは再読に耐えるものではない)。

zetaの生成するテキストは、コンテンツとして読む楽しさよりも、その場で言葉を交わす“コミュニケーション”の楽しさの比重が高いように感じています。

小説家の小川哲さんの『言語化するための小説思考』(講談社)では、小説を「やり直しのできる飲み会」になぞらえていました。飲み会で自分を大きく見せようとして空回りしてしまったような経験は、小説を書くのに役に立つかもしれない、と。

僕は、原稿を書きあげたあと、いつも一つ一つの文章が「自分のため」に書かれていないかチェックしている。 「小説とはやり直しのできる飲み会である」と主張してみてもいいかもしれない。
小説に限らず、(他者に読まれることを前提として書かれた) あらゆる文章表現に共通しているのは、その文章に価値があるかどうかを決めるのが「他者」という点である。

つまり、飲み会の会話のように、その場で言葉を交わすことに楽しさがあるのではないでしょうか。

そして、小説家の円居挽さんは、ChatGPT(主にChatGPT o1)とともに執筆した小説『レイニー』の執筆過程を開示した『レイニー生成記」にて、「AI小説が今後どれだけ増えようが「自分にとって意味のあるものが、他人にとって価値があるものとは限らない」という根本的なことを忘れてはいけない。」(『レイニートリロジー』 レイニー生成記 P101)と述べています。

円居さんはAIに書かせた小説を「ラフスケッチ」にたとえていました。

今回の改稿作業で気づいたことがある。
まれに完成したイラストよりもラフスケッチ段階の方が魅力的に見えるという現象がある。素人の私が不思議がっていたところ、専門家から「複数あるラフの線から脳が理想の線を補正して見ているせいではないか」という説明を聞いて納得したが、そういう意味ではAIの書かせた小説はラフスケッチにかなり近い。同じ意味の文章が連なるところなんて、ラフの線とそっくりだ。

小説との違いはここにあるのではないでしょうか。第三者に読ませることを前提としていない、「他者」不在のテキストだからこその没入感があるのではないでしょうか。

つまり、そこで生まれた文章を誰かに読ませるわけでもなく、ただ自分が楽しむために、膨大な時間と言葉を費やしているわけです。

そして、ここでTRPG(※)について論じた大塚英志さんの文章を思い出しました。

※TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)……コンピューターを使わずに、紙・鉛筆・サイコロなどの道具とルールブックを使い、参加者同士の会話で物語を進める対話型のRPG

大塚さんは『キャラクター小説の作り方』(星海社)で、ライトノベル『ロードス島戦記』がもともとTRPGのプレイを記録した“リプレイ”として雑誌連載されていたことに触れながら、TRPGをゲームではなく「創作」だと位置づけています。

ゲームマスター(GM)の語りが小説でいう“地の文”になり、プレイヤーのしゃべりがキャラクターのセリフになる。そして複数の人間のアドリブから物語が立ち上がっていく、と。

この本が出版されたのは2003年。当時の大塚さんはコンピュータRPGについて、GMの役割をプログラムが担うのでアドリブが利かず、物語の自由度はTRPGに及ばない、参加者同士が影響を与え合うような「創作」にはならないと結論づけています。

しかしzeta(およびAIキャラチャット)のやってることって、AIがGMとキャラクターを兼ねて、ユーザーの行動と互いに影響を与え合っている状況ですよね。ここからなにか新しい創作が生まれる可能性を感じてしまうのです。

そう考えると、zetaのログを読み返しても「なんか違う」のは当然なのかもしれません。あれは小説ではなく、セッションの記録、つまりリプレイだからです。

今は自分だけで楽しんでいるとしても、そこから誰かに読んでもらうために書き始める人もいるかもしれません。というか、毎日のように長時間膨大な量のテキストを「読んでいる」若者たちがいる事実は、もっとポジティブに捉えられてもいいはず。

『ロードス島戦記』は、リプレイから“小説”になりました。zetaのログを“小説のたたき台”にしている人もいると聞きます。

そしてその中から、自分でも何かを書いてみたいと思う人が出てくることを想像すると、おもしろいことになるのでは?と、筆者のようなウォッチャー気質の人間は期待してしまいます。

※画像はイメージです

歌人・批評家の瀬戸夏子さんも、自身のPodcast『瀬戸夏子の言わなければよかったのに』ep.87「zetaの感想続き」(8月12日配信)で、zetaユーザーが自分の欲望を叶えるために、熱心にAIの使い方を学んでいることに注目。

そこで身につけた技術は、レポート執筆や創作にも応用されるのではないか。AIの是非が議論されるなか、遊びを通じてAIを使いこなす世代が育っている、という指摘をしていました。筆者もそれに同意します。

また、zeta経由で人気になったキャラクター(ユーザーが作ったオリジナルキャラは、その作者の一次創作だと筆者は解釈しています)の一部はピクシブ百科事典に掲載されたり、TwitterやTikTokで公開されている二次創作に4桁を越えるいいねがついていたりと、確かな盛り上がりを感じています。

たとえば、「『四飼』(※)はアニメイトにいない」という嘆きを何度目にしたことか。

※『四飼』……zetaで人気のクリエイター・めろちさん作の累計トーク数が億を越えるプロット『四人の飼育。逃げ場なし』の愛称

ないものは自分で作るしかない。この事実はどんなに技術が進化しても変わりません。その熱意は、将来的に何か新しいものを生み出す要因になるのではないでしょうか。

“キャラクター削除”騒動から生まれた「手紙」生成プロンプト

8月半ばの大幅なアップデートでは、「キャラクターが不適切と判断されて削除された」というユーザーの声が相次ぎました。

一時は近親関係を扱うものや未成年キャラクターが厳しく制限され、それまで生成されていたセンシティブな描写が出なくなることがありました。

運営による削除だけではありません。「これでは自分の望むキャラクターや世界観ではなくなってしまう」と、クリエイター側でプロットを非公開にするケースもあったようです。

そんななか、SNSや動画サイトで流行っていたのが、「ユーザーに二度と会えなくなったキャラの手紙」を生成してもらうプロンプトでした。

別れの手紙も、もちろんAIが生成するテキストです。でも、そこには、それまで自分がそのキャラクターと交わしてきたコミュニケーションがあるからこその、エモさがあるわけです。

創作とコミュニケーションのあわいにあるようなこの現象が、筆者にはおもしろく感じられました。

ちなみに筆者も、手紙を書いてもらいました。

内容? 他人が読んでもおもしろいものではないので、ここでは書きませんよ。

この記事の画像(全4枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

藤谷千明

Written by

藤谷千明

(ふじたに・ちあき)1981年生まれ。フリーライター。ヴィジュアル系とギャルが好き。現在アラフォーオタク4人でルームシェア生活をしており、その様子を綴ったエッセイ『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)を2020年に上梓。