『セックス・エデュケーション』“ためになる”ではなく“おもしろい”から観る
シーズン1の配信開始からわずか4週間で世界累計視聴者数が4000万人を超え、すぐにシーズン2の製作が決定したNetflixオリジナルシリーズ『セックス・エデュケーション』。
主人公は、とある理由で未経験ながら性の知識が豊富な高校生男子のオーティス。自由奔放なパンク少女のメイヴが彼と「性の悩み相談クリニック」を学内で開き、10代のリアルな性の悩みが描かれた青春エンタテインメントに仕上がっている。
2020年1月17日からシーズン2の配信が始まったこの人気シリーズのどこがそんなに優れているのかを、ライターのヒラギノ游ゴ氏が解説します。
説教くささを感じさせずにさまざまな概念が自然と身につく
『セックス・エデュケーション』が世界中で支持を得た最大の要因は、おもしろいからだ。
何を言っているんだとお思いだろうが、この作品のテーマはその名のとおり性教育。気まずい・気恥ずかしい・辛気くさいといった印象で受け止められるのが常なテーマ設定でありながらしっかりエンタメしている、ちゃんと“おもしろい学園ドラマ”の枠組みに収められていることがあまりにも希有なのだ。それを実現するバランス感覚の巧みさに目を見張り、また謝意を表したい。
主人公はとある理由で未経験ながら性の知識が豊富な高校生男子オーティス。パンクファッションに身を包み校内で浮いた存在のメイヴがオーティスの性知識に目をつけ、校内で性の悩み相談室を開業したことで物語は転がっていく。
相談者のティーンエイジャーたちを通して性にまつわる事件の数々が描かれ、セーフワード、性的同意、プロライフ・プロチョイス、スラットシェイミングなどの概念をはじめとした知識が、楽しんで観ているうちに自然と入ってくる。“退屈だけどためになるから観続ける”のではなく、だ。
たとえば、AirDropによって校内に女子生徒の性器の画像が拡散する。「誰のだ?」と生徒たちが騒ぎ立てるなか、性の悩み相談室に駆け込んで「あれは自分の写真だ」と打ち明けたのは、メイヴと犬猿の仲の女子生徒だった。普段は険悪な関係のふたりだが、ヴァージニア・ウルフを愛読するフェミニストであるメイヴは報酬を断った上で事態収拾への協力を即断する。女性という属性を理由に貶められたときに、その他の属性(人種やスクールカーストなど)の違いや利害関係を超えて連帯する、というシスターフッドの概念がここで端的に表現されている。言葉でなく画面で説明を完遂するので説教くささを感じさせない。
たとえば、主人公の親友エリックを通して、ゲイとして生きる苦難や、プライドを勝ち取る選択に至る経過が描かれる。それ自体も美しいストーリーだが、付随してエリックの父が「ゲイの親」として成長する過程も丁寧に描かれていることが作品の奥行きを格段に深めている。マイノリティ個人が自分の努力だけで何かを打破できるとしても、そうした強いマイノリティ像を規範化するような描き方は、マイノリティを冷遇する社会の構成員として無責任な振る舞いになりかねない。本作では、マイノリティが自力で苦難を打開していく姿を描くことに終始せず、その家族のあり方のひとつの成功例を示したことに大きな意義がある。
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