ダウンタウン浜田の貴重な“ツッコミ論”。ツッコミ芸人たちのルーツとは(てれびのスキマ)

てれびのスキマ

テレビっ子のライター“てれびのスキマ“が、昨日観た番組を記録する連載「きのうのテレビ」。バラエティやドキュメントの中で起こった名場面、名言、貴重な会話の数々を書き留めます。2020年から毎日欠かさず更新中。


『新春ツッコミ芸人総会』

浜田と大吉、濱家が“主催”で、渡辺隆、屋敷、マヂラブ村上、昴生、金ちゃん、土屋、盛山、アインシュタイン河井、ライセンス井本、どりあんず堤というツッコミ芸人が一堂に会す。

バイトを辞めて芸人として独り立ちした年齢を若い順にランキングした「一人前になったランキング」や「ツッコミの職業病」といったトークテーマもおもしろかったが、やはり「ボクのルーツはこの人です」と自分が参考にしたツッコミを語るコーナーが特に興味深かった。

大吉が自分のルーツに挙げたのは、大木こだま・ひびきのひびき。ダウンタウン直撃世代だからみんな叩いてツッコんでいたが、自分がやると運動神経がないから空振ったりしていたと。そんなとき、ひびきが一回も叩かずツッコんでいたのを見て、衝撃を受けて影響されたそう。

ちなみに迷走していたときは、マジックのファイヤーコットンを使って手から火を出してツッコんだことも。しかし「消防法違反」でやめたと。

同じく運動神経の悪い土屋は、どつき漫才は手首を痛めてやめたといい、あした順子・ひろしのひろしの声はか細いが的確に最小限の文字数でツッコむさまに影響され、ナイツの漫才が変わったという。

浜田のツッコミのお手本は、中田ボタンと、のりおよしおのよしお。昴生もよしおが好きで、弟子入りを考えたほどだという。

錦鯉を「ボケとツッコミ」ではなく「バカと注意」と表現する渡辺は、錦鯉になって初めてツッコミをやることになったため、キャラの強い相手にツッコむのはどうしたらいいかと考え、キャイ~ンの天野を見て「ツッコむんじゃなくて見守るんだ」と悟ったそう。

村上はドランクドラゴンの鈴木拓。本当にいいツッコミは、熱いときに熱い、痛いときに痛いというのが一番すごいと。

盛山によると「浜田の叩きは手首のスナップと乾いた音を出す技術を得ている」と、NSCでは一時、ツッコミの素振りの授業があったという。

そんなツッコミでの叩き方について「叩こうと思ってこのへん(直前)までは見てるけど、あとは見えてない。最後までいかないと」と浜田が珍しく技術論を語る場面も。

さらに「若手のツッコミを見てどう思うか」と聞かれ、「みんなうまい。別にアカンとかまったくないですよ。ただ、『あっ、ワンテンポ遅い』とか、『ここは語尾聞かんでもいけ』とか、そんなんは見たときにはちょっと感じますけどね。最後までボケ聞かんでもここでいけ、それやったらもうちょっと笑い取れたんちゃうの?とか。やり方がどうこうじゃなしに、タイミングとか間だけは見てしまうよね」と語る。

先日放送された『笑いの正体』には出演しなかったように、めったに語ることのない浜田のツッコミ論はあまりに貴重だった。

『笑いの正体』

「ツッコミ芸人の時代」と題し、ツッコミの歴史と発展を特集。

「漫才ブーム」のころは、コンビはボケ=おもしろいほうしか残らないというのが当時の常識だったと大吉が証言。特にお笑いに詳しくない姉からも「なんでツッコミするん? 仕事なくなるやん」と言われたそう。

その状況を、ダウンタウン浜田の登場が変えたと。小峠は浜田について「切り方がスゴい」「浜田さんの『はい、次いきましょう』で何人が救われたか」と語る。『ツッコミ芸人総会』での浜田の言葉と符号する。

三村は、浜田に影響されたくても関東にはその言葉がないため、ツッコまないというツッコミをしていたが、ドリフのいかりやを思い出して、ちゃんと怒っていると思い直し、やがて「○○かよ!」という関東を代表するツッコミを生み出したそう。

2000年代になると、たとえツッコミのようにツッコミが大きく進化していく。フット後藤は、ひな壇時代、普通にツッコんでも埋もれてしまうため、たとえツッコミを足していったと証言。

『ツッコミ芸人総会』では大木こだま・ひびきのひびきに影響されたと語っていた大吉は、こちらでは、おぎやはぎの矢作のツッコミを見て衝撃を受けたと語る。「吉本の諸先輩方のツッコミを煮詰めた原液を矢作で割ってる感じ」だと。

かつて関西で浜田、関東で三村のようなツッコミをまねする芸人が急増したように、矢作をまねしたおぎやはぎっぽい漫才が急増したそう。

『ツッコミ芸人総会』で屋敷が証言していたとおり、現在はノブっぽいツッコミばかりになっているようで、そういうトレンドの推移は興味深い。

後藤や川島など、ひと笑いを足すツッコミが主流のなか、大吉がツッコミで大事にしているのが「炎上させないようにすること」というのが時代を感じる。

『あさイチ』などで言葉足らずで誤解を受けそうなゲストの言葉があった際、そうならないようフォローの言葉を添えるという。そのためには「人の話を聞く」ことが大事だと。

三村が大事にしているのは「間と声のトーン」。だが、それにつけ加えて「笑うお客さんがいて“笑い”じゃないですか。だから笑う人の機嫌って大事だなって。自分が機嫌悪くても笑いを取れないし、お客さんが機嫌悪くても笑いは生まれない。ひとり機嫌悪い人がいると、空気ものすごい悪くなるじゃないですか。ずっと機嫌よくやっていきたい」と言っていたのが実に三村らしくておもしろかった。

ふたつの番組を両方とも観ると、それぞれが補完し合い、立体的に感じることができて興味深かった。


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  • 【連載】きのうのテレビ(てれびのスキマ)

    毎夜ライフワークとしてテレビを観つづけ、テレビに関する著書やコラムを多数執筆する、てれびのスキマによる連載。昨日観た番組とそこで得た気づき、今日観たい番組などを毎日更新で綴る、2021年のテレビ鑑賞記録。

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1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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