『スラムダンク』は「呪い」だった。映画監督・枝優花が孤独の日々に出会い、取り憑かれたバスケマンガ【わたしと『スラムダンク』#2】

文=枝 優花 編集=岩嵜修平


映画化で話題となっている『スラムダンク』を愛するアーティスト、アイドル、俳優、芸人らが『スラムダンク』やバスケットボールにまつわる思い出を紹介する連載「わたしと『スラムダンク』」

第2回目は、初めて読んだマンガが『スラムダンク』で、学校生活がままならなくなるほどのめり込んだという映画監督・枝優花が寄稿。

初めて読んだマンガが初版の『スラムダンク』

枝優花
枝優花

小さいころから皆が触れているものを知らずに生きてきた。一緒に遊ぶ友達がいなかったこと、心の友はおじいちゃんだったこと、いろいろと理由はあれど、なんとなくきっかけがなかったのだ。ゆえに、流行りのゲームもマンガもアニメもほぼ知らぬまま大人になってしまった。皆と話せる共通の話題もなく、ちょっとした孤独を極めていた。

当時、近所に友達がいなかった私は部屋で過ごすことが多かった。そんなある日、親の部屋にある段ボールが気になり開けてみた。そこにはバスケ部だった父の私物、初版の『スラムダンク』(お宝!)が。それまでマンガなど読んだことのなかった小学生の私。1巻を手に取ってまず第一の感想は「コマが大きい!」(以前、某人気マンガを読んだが、コマが小さ過ぎるといった理由で断念している人)。しかもこの漫画、どんどんコマが大きくなります!贅沢に!ほら、かの有名なハイタッチシーン!!……と、冗談はさておき。

あっという間に読破し、放心したのを覚えている。初めてマンガを読んだ私は永遠に『スラムダンク』のことを考えてしまったし、学校生活がままならなくなり、授業中はもちろん、寝ても覚めても、みんなのことを考えていた(特に三井寿)。

井上雄彦さんにかけられた呪い

マンガ『スラムダンク』1巻
マンガ『スラムダンク』1巻

三井を見ていると、自分のように思えた。いや、グレたことも、もう一度バスケがしたいと懇願したことも、ブランクを感じ過去の自分を死ぬほど罰したこともないですが……。それでも三井に想いが強くなるのは、彼はいつだって過去、今、未来の自分を知っていたから。そして前だけを向いている。「俺は誰だ?俺は何者だ?」ということに、嫌というほど向き合ってる三井が好きだ。過信でもなく、過小でもなく、それはいつも正しい。私もそうやって何度も自身に問いかけ、生きてきた。ひとりの時間が長かったことが、私をそうさせたのかもしれない。

孤独だった私の心はびっくりした。「どうして井上雄彦さんは私のことがわかるのだろう」と怖くなった。会ったこともない人が自分を知っている。そんな出会いを果たしたとき、人は物語に取り憑かれるのかもしれない

ということで、現実に還ってくるのが難しくなるほど傾倒してしまう自分が怖くなり、そこからマンガそのものを読むのをしばらくやめた。もちろんスラムダンクも段ボールに封印。もはや呪いよ。

大人になり、唐突にもう一度読み返したくなった。なんてったってもう大人。呪いになんか負けないさ。今ならいける。「スラムダンクどこにいった?」と父親に尋ねた。すると「あ~、会社の若い奴が読んだことないっていうから、あげちゃった!」と無邪気に返答が。絶句。ええ!?あげたんですか……!?あれ初版だよ!?い、いや……しかし……まあ……こうして脈々と受け継がれていくのもいいか……そう……もう大人なのだから……自分のお金で買えという……ことですね……と自身をなんとか納得させ……このコラムを書いているのだった……。

ええ、買います。

執筆後に『スラムダンク』を買い直した枝優花監督
執筆後に『スラムダンク』を買い直した枝優花監督

枝 優花(えだ・ゆうか)
1994年生まれ。映画監督・写真家。 初長編映画『少女邂逅』がロングランヒットを記録。香港国際映画祭や上海国際映画祭に招待され、バルセロナ・アジア映画祭で最優秀監督賞を受賞。2019年、日本映画批評家大賞新人監督賞を受賞。映画、テレビ、MVなどを数多く手がけながら、写真家としても活動している。

『THE FIRST SLAM DUNK』
公開日:2022年12月3日(土)
原作/脚本/監督:井上雄彦
声:仲村宗悟、笠間淳、神尾晋一郎、木村昴、三宅健太
オープニング主題歌:The Birthday(UNIVERSAL SIGMA)
エンディング主題歌:10-FEET(EMI Records) 
音楽:武部聡志、TAKUMA(10-FEET)
アニメーション制作:東映アニメーション/ダンデライオンアニメーションスタジオ
(c)I.T.PLANNING,INC. 
(c)2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

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