女性がやむにやまれず沈黙してしまう事情や心理
こじつけかもしれないが、女性Pと脚本家が主体で作っている『エルピス』は、事件に巻き込まれたとき女性がやむにやまれず沈黙してしまう事情や心理にも着目しているように感じている。まず、浅川。第4話のレビューに書いたように、浅川は元恋人・斎藤正一(鈴木亮平)の積極的な元サヤ作戦に抗えない。自分の非力さを相手の強さで埋めたいという欲望によって、問題にまっすぐ向き合えなくなる。

第5話では、岸本の母親・陸子(筒井真理子)が、息子の学校で起こっていたいじめに向き合わなかった理由を問われ、母子家庭を守るためだったと言うのだ。いじめの首謀者は学校の権力者の息子で、そこに逆らうと弁護士といえども立ち行かなくなると。
ウーマンリブ、男女雇用機会均等法、ジェンダー平等と、女性の立場を確かなものにしようとする活動はつづいているけれど、なかなか容易ではない。その弱さにも『エルピス』は触れる。岸本は、母の気持ちにはまだ向き合えない。浅川のことは許容できたか、わからないながら、彼女を迷いから救ったように見える。
俯瞰で社会を見ようと努力するリテラシー
興味深かったのは、岸本が貴重な証言の取れたVTR第3弾に関して、斎藤に相談したほうがいいか聞くと、浅川の表情が変わるところ。浅川の同期の報道部記者・滝川雄大(三浦貴大)の話から、斎藤が事件に何かしら関与していることをうっすら感じ取っている浅川。任務と恋愛感情、愛憎……引き裂かれ千々に乱れるような想いは、ノンフィクションであろうとフィクションであろうと物語には重要である。

一方、岸本は、手を出したらいけないとされているボンボンガールの篠山あさみ(華村あすか)を口説いたことが冤罪事件調査に関わる発端になったわけだが、どうやら篠山にハメられたのだという言い分があるようで(口説いた会話を録音されていた)、必ずしも男が女にハラスメントを行うわけではなく女性からの場合もあると、女性だけを被害者にすることもない。それこそが、女性のプロデューサーと脚本家の、男社会の現場で働く女性のしんどさも実感しながら、感情的にそれを強調するのではなく俯瞰で社会を見ようと努力するリテラシーが発揮されているのではないか。つまるところ、力のある者がない者に力を行使すると抗えないものであるということだ。
それでも、力なき者や無名の者たちが声を上げて、その声を束にして大きくしていくことも必要なのだけれど、今、最も求められるのは、勝ち組と思い込んでいたような者たちが、その虚飾に気づき、岸本のように立ち上がって戦うことなのではないか。少し余力のある者が、ともすれば、勝ち組といわれるものになびきそうになるところを、いかに踏み留まるか。お坊ちゃんだった岸本が覚醒していくことは、ノブレス・オブリージュへの希望である。星にもダイヤモンドにも負けず、気高く光れ、岸本拓朗。
『エルピス ―希望、あるいは災い―』
毎週月曜22時から放送中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、岡部たかし、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
音楽:大友良英
プロデューサー:佐野亜裕美、稲垣護
写真提供=カンテレ
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