冠ラジオの夢を叶えた現役女子高生・奥森皐月「私とラジオ。きっとお似合いのふたりになるから」

2022.5.30

文=奥森皐月 編集=田島太陽


「いつかラジオパーソナリティをしたい」と発信しつづけたお笑い&ラジオを偏愛する18歳のタレント・女優の奥森皐月が、5月4日、特別番組『奥森皐月の単発ラジオ~人気パーソナリティになりたい~』(文化放送)にて、ついにその夢を叶えた。


いつか自分がラジオパーソナリティをする未来を想像し、ラジオと共に歩んできた

奥森皐月
奥森皐月インタビューより(撮影=長野竜成)

ラジオと共に思春期を歩んできた。帰宅してランドセルを下ろしたときも、受験勉強の合間も、通学中も、いつまでも課題が終わらない夜も、仕事へ向かう道も、反省しながら歩いて帰る道でも。いつを切り取ってもラジオを聴いている。学校内でラジオを聴けないときは、前日に聴いた放送を脳内で思い出しながら再生した。授業ノートの端にメール投稿のためのメモをして、そのままノート提出をしそうになって焦った。

そして、いつか自分がラジオパーソナリティをする未来をイメージして、思いを馳せていた。タイトルコールの練習も家でばっちりしていたし。

高校生になってからは、ラジオ好きであることを少しずつまわりに知ってもらえるようになった。QJWebでラジオについての記事を書かせていただき、憧れのパーソナリティである伊集院光さんに読んでいただけた。『99人の壁』(フジテレビ)では芸人ラジオのジャンルで挑戦者として出演し、ラジオにまつわるイベントやお仕事もいただけるようになった。

「好きなことで、生きていく。」が高校生のうちに少しずつできた。これは奇跡的なことで、誰に向けたらよいのかわからない感謝が体内を浮遊している。しかしながら、ラジオパーソナリティにはなかなかなれない。ずっと好きで、お便りも送って、みんなの前で好きと言って、テレビや配信メディアでも愛をぶつけたのに。愛が大き過ぎて逆にラジオが怯えているとすら考えられる。こっちは片思いのつもりだけれど、ラジオはストーキングされていると思っていたらどうしよう。急に自分の行いを恐ろしく感じた。

しかし、長年の恋はある日突然実ることがあるらしい。

酸素を吸って「ラジオをやりたい」と吐きつづけてきたところ、ついにラジオができた。

恥ずかしげもなく好きなものを好きと喚いてきてよかった。ゴールデンウィーク真っ只中の5月4日、20時から21時までの1時間という最高の枠の文化放送で、私は初めて『奥森皐月の単発ラジオ~人気パーソナリティになりたい~』のパーソナリティを務めた。文化放送さんのありがたき大博打。幸せの絶頂。ちなみに裏ではRHYMESTER宇多丸さんの番組やサカナクションの山口一郎さんの番組が放送されていた。初デートで山伏修行に行くくらいヘビーだと思う。 

粋なサプライズに、心に住むチャンカワイが叫んだ

伊集院光-奥森皐月、ラジオのコツと魅力を語る
伊集院光と奥森皐月 対談より

いつラジオパーソナリティになる日が来るかわからないので、私は日々修行をしてきた。『奥森皐月の公私混同~冠ラジオがやりたい~』(テレ朝動画「logirl」)という番組を毎週1時間している。テレビ朝日のスタジオでラジオ風配信をして、地上波ラジオを目指すという映像配信の番組。支離滅裂だという自覚はあるのであまり深く考えないでほしい。

この番組では毎回フリートークや大喜利コーナー、メール紹介をしてひとりで1時間しゃべり尽くしている。ほぼラジオであるが、異なる点は映像があること。あくまでもこの番組は地上波ラジオに向けた練習というかたちだ。言葉を発していないと全身に文章のじんましんが出てくるくらいには無駄な情報にまみれて生活しているので、幸い話題には困らず毎週やっている。

また、この番組はアウトプットだけではなくインプットも欠かさない。かしこ番組である。インプットとアウトプットと言っておけばとりあえず賢い。番組ではこれまでに何度もラジオにまつわるスペシャリストからラジオについてお聞きし、「奥森がラジオをやるときはどうしたらいいか」という質問をしてきた。元『オールナイトニッポン』チーフディレクターの石井玄さんや放送作家の藤井青銅さん、さらには憧れのパーソナリティである伊集院光さんや静岡の国王であるアルコ&ピース酒井(健太)さんにもお話を聴いてきた。ただのラジオが好きな女子高生がやっている配信番組とは思えない豪華過ぎるゲストだ。「馬鹿なフリしてお声がけしてみよう」が成功する貴重な例である。

憧れのラジオの世界で活躍する大人の方々は、皆さん私の質問に真摯に答えてくださった。裏側が見えてきたり、ラジオという世界がより魅力的に映り、自分もその中に飛び込みたいという気持ちが掻き立てられた。

ある日いつものように『公私混同』の収録をし、いつものように番組に寄せられたメールを紹介していたところ見たことのないリスナーからのお便りがあった。渡されるがままに、読み上げていくと、それは文化放送さんからのお手紙。「文化放送で冠特番を放送してみませんか? 20時からの1時間、空けて待っております」という内容だった。

「惚れてまうやろー!」私の中に住むチャンカワイはもちろん言う。チャンカワイは誰の心にも住んでいる。待ち構えていたつもりだが、いざそのときを迎えるとうれしさで暴走してしまった。あまりにうれしかったので、収録中に母に電話で報告。育ちのよい暴走。

タイトルコールを聴いたときに涙がこぼれた

ラジオ収録中の奥森皐月

そこからはあれよあれよという間に進み、気づいたときには文化放送のスタジオに座っていた。合間の説明を省いたのではなく、本当に一瞬だった。緊張する間もなかった。

事前に募集していたお便りは1000通近く届いたらしい。短い間にもたくさんの人が投稿してくださったことに大きな幸せと感謝の気持ちがこみ上げた。「私の番組」にメールが届く、こんなにもうれしいことはない。

ラジオにゲストとして出演したことは何度かあるが、ひとりでトークをしてメールを読むという経験は初めて。今までしてきた仕事とは似ているようでまったく違う。ラジオのスタッフさんや作家さんとお仕事している時間は、夢と現実の自分が重なるような不思議な感覚があった。『マリオカート』のタイムアタックで、ゴーストとぴったり重なって走っているときに似た感覚。よく考えたらあまり似ていないかもしれない。

とにかく楽しかった。学生生活の楽しい青春エピソードはひとつも出せなかったし、そもそもなかったけれど。かねてからやってみたかった“カッケー曲紹介”もできたし、ネタメールをひたすらに読むこともできたし、友達が少ないことを胸を張って話せたし、何より未成年のうちに冠ラジオができた。白馬に乗った文化放送が私が18歳になる直前に駆けつけてくれてよかった。王子様にもほどがある。叶うことならいつまでもこの楽しさがつづけばいいのに、と浜松町を出た山手線車内で思った。

放送日は自宅で万全の体制で開始時刻の20時を待っていた。番組ハッシュタグの#奥森特番でツイート検索できるようにして、リビングのソファに一番体がフィットする形で座った。ラジオから流れてきた声は紛れもなく奥森皐月で、私がしゃべっている。毎日聴いているラジオから、私の番組が流れている。わかってはいるのにどこか信じられない。ハッシュタグで出てくる感想を見ることで、今現在放送されているという実感がようやく沸いた。

OPトークが終わると、エコーがかかり「奥森皐月の単発ラジオ~人気パーソナリティになりたい~」というタイトルコールがある。そして曲が流れる。事前に収録したのだから、流れはすべて知っている。だけれども、これを聴いた私の瞳からは涙が流れた。OP曲はラブリーサマーちゃんの「あなたは煙草 私はシャボン」。ずっと大好きな曲だ。子供の私がラジオという手の届かない存在に憧れつづけてきた様に似ているから選んだ。

ラブリーサマーちゃん - 「あなたは煙草 私はシャボン」Music Video (11/2 メジャーデビューアルバム「LSC」全曲プチ試聴付き)

「新たなラジオ好きの学生を楽しませる人になりたい」

『奥森皐月の単発ラジオ~人気パーソナリティになりたい~』の台本とノベルティの年賀状

ラジオが好きで、ラジオパーソナリティをできるようになれる人がどれだけいるだろうか。自分の声と、幾度となく聴いてきた自分の好きな曲がラジオから流れる現実に、これまでに感じたことのない幸せと喜びを感じた。両思いってこういうことなのか、今の私にはわからないがそんな気がした。

子供という分際を活用して、静かに暴れる1時間だったと思う。これまでもこれからもできない、今しかできないことをやった。なりたい大人像を語るという隠れ蓑を着てちょっぴり悪さもした。それも全部子供だから。不自由で自由な未成年を目いっぱい楽しむことができたラジオになった。初冠特番が今できてよかったと改めて感じた。

さて、今回のラジオはあくまでも「単発ラジオ」であるため、まだ人気パーソナリティへの道は険しい。第2回もやりたいし、それ以上に毎週ラジオで話さないと人気パーソナリティにはなれないだろう。片思いとか言っていたころはあんなにまっすぐだったのに、付き合ってみたら意外とわがままな子だ。仕方ない、人気パーソナリティになりたいのだから。

初冠ラジオ放送日の5日後に私は誕生日を迎えて18歳になった。成年年齢引き下げにより、その日で成人したことになる。別に何も変わってはいないが、ここからは未成年ではないと思うと気が引き締まる。いつまでもラジオは聴きつづけるしリスナーではあるが、これからはもっとラジオを通して発信できる存在になりたい。子供の私にたくさんに影響を与えてくれた大人のように、私も新たなラジオ好きの学生を楽しませる人になりたい。絶対になる。夢は叶う、やればできる、と伝えたいし。ついでに球速150km/hも出したい。

奥森皐月とラジオの恋物語はまだ序章に過ぎない。つづきの筋書きは私だけの力ではどうにも書けなくて、応援してくれる方やリスナーの声が大切だという。今回この記事を書いたのはほかでもない、これを読んでくれたあなたに私とラジオのこれからを応援してほしいというお願いがしたいのだ。ABEMAの恋愛リアリティーショーにのめり込む女子高生くらいの熱さで応援されたい。きっとお似合いのふたりになるから。正確にはひとりとラジオだけれど。ドキドキの展開はみんなと一緒に作る。

私、ラジオのことが好きみたい。

連載「奥森皐月は傍若無人」は、毎月1回の更新予定です。

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