「たかが女子高生、とナメている人を見返そう」17歳の奥森皐月、ひとりで挑んだ120分単独ライブを終えて

2022.3.31

文=奥森皐月 編集=田島太陽


3月20日(日)、17歳のタレント・女優の奥森皐月が、テレ朝動画「logirl」で配信中の冠番組『奥森皐月の公私混同』のオンラインライブにて、自身初の“単独ライブ”に挑戦した。

「女子高生が単独ライブするの、カッコよくね?」

17歳の春、単独ライブをした。たった1文なのに奇妙だ。「いつ」「何をした」をそれぞれルーレットで決めてできた文ではなく、本当に単独ライブを行った。おそらく日本初・世界初の女子高生単独ライブ。調べてもほかには出てこなかったので、この事実を記録しておかなくてはならないと思った。数十年後、数百年後にこれが歴史資料になることを願っている。そのころには“単独学”の研究が発展しているはずだから。

私、奥森皐月は2004年生まれの17歳。文字で見ると若い。若くて、人より少し多めにお笑いを観ていることしか特性がない。なぜか今年で芸歴は15年目になった。金属バット・阿佐ヶ谷姉妹・ランジャタイと同期である。漫才師だったら今年でM-1ラストイヤーだったので、漫才師ではなくてよかった。早く売れたい。見取り図も同期。

ちょうど1年前の2021年4月、テレ朝動画「logirl」という媒体で冠番組『奥森皐月の公私混同』が始まった。弱冠16歳にして冠番組。弱冠番組といってもいい。

この番組では、地下芸人やハガキ職人をゲストに迎えトークをしたり、1時間ひとりで大喜利をしたり、プリキュアの話をして泣いたり、調味料と闘ったり、とにかく好きなことを自由にさせてもらっている。中学の美術より自由な、小学校の図工より自由。保育園での生活くらい自由。テレ朝は何をしても怒らない先生の優しさ。大好き。

ちなみに今年2月は、通常回ゲストとして伊集院光さんに来ていただいた。最も尊敬する存在で、最も好きなラジオパーソナリティをゲストとして迎えるという人生最大のイベントが起きた。これは自由なのかどうかもわからないが、本当にうれしかった。

さまざまな出来事を経て丸1年この番組をつづけることができ、おかげさまで4月から2年目に突入。これからの1年もまだ女子高生だということに、喜びと気味悪さを感じる。

1年番組をつづけた集大成として、3月20日に無観客生配信ライブを行った。当初は何も内容が決まっていなかったが、気がつけば「単独ライブ」をすることが決定。大きな理由はなく、「女子高生が単独ライブするの、カッコよくね?」くらいの入口だった。

『奥森皐月 初単独ライブ「仮初未成年」』は最初で最後の、私が未成年のうちに開催する単独ライブ。しょせんは子供の私が、今できる限界のカッコいいを追求する。たかが女子高生、未成年、とナメている人を見返そうという強固な意志が芽生えた。

たったひとりで挑んだ120分の初単独

お笑いが好きな人ならよく知っていると思うが、そうでない人に「単独ライブ」とは何かを説明したい。芸人さんが、そのひと組だけでネタや映像を披露する公演のことを指す。「ワンマンライブ」と「単独ライブ」は同義だが、単独という言葉はお笑いで使われることがほとんどである。私は、ワンマンライブではなく単独ライブをした。つまり、お笑いのネタを披露したのだ。お笑い芸人ではない、ただの女子高生のタレントなのに。単独ライブをやりたいから、当然のようにネタをすることも決まった。

もうひとつ決まっていたのは尺が120分であること。初単独、生配信、無観客、ゲストなしの完全ひとり、120分。かなりハードモードなのではないだろうか。プロの芸人さんの単独でも90分くらいのものが多い気がするのに。トーク・ネタ・大喜利・企画を各30分ずつすれば、計算上では120分になるという結論に至り、少しずつ準備が始まった。

『奥森皐月の公私混同』(お笑い)|奥森皐月 初単独ライブ「仮初未成年」より

ところで、30分ネタをするというのは簡単にいえどまったく簡単ではない。たとえばM-1の決勝ネタはひと組4分。7組観ても30分にはならない。それをひとりでやるとなると、急激に30分でも大変なことがわかった。今回は5分ほどのネタを6本やることになったが、冷静に考えてお笑いをやったことがない人間が6本もネタをするなんておかしい。1、2本から始めるのではなく、いきなり6本。打ち合わせで「ネタ6本くらいやらなくてはならない」とスタッフさんに言われ「そうですね」と返した。帰り道「6」という数字が頭の中を駆け巡って、きちんと行き先と逆方向の電車に乗っていた。

3カ月の準備期間があれば余裕だっただろう。現実は3週間。実際に動き始めたのは本番2週間前から。単純にライブ決行から当日までの時間があまりに短い。ライブ内で使う映像も急ピッチで撮影。スタッフさんの編集スピードに感謝しかない。

私からの熱烈オファーで、にゃんこスターのスーパー3助さんにネタを1本いただいた。スーパー3助さんのネタはすごい。すごい以外の感想が出ない、言葉を奪われる強烈さがある。それに加え3本はフリップネタで、案外スムーズにできた。さらにもう2本はひとりコント。これがなかなか厳しかった。ネタを作るのはもちろん、動きや表現をつけなければならないし、当然セリフをすべて覚えなくてはならない。相手がいないので、自分がセリフを飛ばすと終了してしまう。この緊張感に日頃から耐えているプロの芸人さんを心の底から尊敬する。

すべてが未完成のまま過ごす本番前の2週間はずっと頭がぼーっとしていた。服の通販の検索窓に「奥森皐月」と入れてエゴサしかけたり、YouTubeの検索窓に「ツイッター」と入力したりしていた。追い込まれているくせにインターネットをエンジョイするな。それくらいしか気を紛らわす方法もなかった。あとはカラオケで全力でサンボマスターを歌うとか。

プロの芸人でもない女子高生がやり遂げた一大事

『奥森皐月の公私混同』(お笑い)|奥森皐月 初単独ライブ「仮初未成年」より

当日は朝早くからテレ朝に行き、準備をしながら過ごした。盲点だったのは、配信スタッフのカメラマンや音響などの大勢のスタッフさんは全員初対面だということ。特にお笑い好きでもない、初めましてのスタッフさんの前でするネタや大喜利は、お笑い好きのお客さんの前で披露するのとはまったく違う緊張感がある。単独ライブなので勝手にホームだと思い込んでいたが、めちゃくちゃにアウェイだった。

ネタだけでもいっぱいいっぱいだが、これに加え30分の完全フリートーク、即興生大喜利、企画コーナーがある。企画に至っては直前に視聴者からメールで募集した内容を実行した。ギャグをする、センブリ茶を飲む、パンスト相撲をする、などの1個でもじゅうぶんな罰ゲーム的項目を6種類執り行うという無茶苦茶さ。ギャグは3本したし、センブリ茶も2杯飲んだ。あまり単独ライブで「質より量」の企画は見たことがない。「鼻会話」という耳なじみのない企画が一番おもしろかったと思う。

『奥森皐月の公私混同』(お笑い)|奥森皐月 初単独ライブ「仮初未成年」より

早着替えとセットチェンジもすべて自分でした。トータルで5回着替えた。テーマパークの主人公でも、ショーで着替えるのは3回くらいではなかろうか。画面内のセットを転換する作業、椅子や机を出したり、フリップを出したりする作業も全部やる。ここまでいろいろとひとりでできたことを褒めてほしい。がんばったわりに全然褒められていない。この単独を観て、優れた人材だと評価してスカウトしてくれる企業がいてもおかしくないだろう。ひとつの会社にひとりは単独ライブができる人間が必要なはずだ。

『奥森皐月の公私混同』(お笑い)|奥森皐月 初単独ライブ「仮初未成年」より

2時間ずっと目の前の取り組むことに夢中だったので、すべてが終わっても「単独ライブを終わらせた」という感覚はなかった。このネタを最後まで見せる、トークをする、セットを変える、着替える、ネタをする、と一つひとつの項目を追うことに必死だった。お客さんもいないので、終わった達成感もあまり感じられない。単独の直後からは別の番組の生配信が2時間あったため、余韻に浸る間もなかった。

ただ、時間が経つごとに「ミスなく120分すべての項目を完遂できたの、けっこうすごくないか?」と思えた。プロの芸人でもない女子高生が、ネタを6本してトークも大喜利も企画もすべてやり遂げる。かなりの一大事だと思う。一大事なのに全然話題になっていない。意味がわからない。それはそれでおもしろいか、と思ってしまう自分もいる。

この単独を観てくれた、心優しいお笑いスケベの皆様が「とてもおもしろかった」「これが初単独はすごい」「性格が悪いネタばかりでよい」と素敵な言葉をくださったので、それだけでも挑戦する意味があった。あとは、初単独を観てくださった方が誇らしく思えるまでに爆売れすればいいだけだ。とても簡単なお話。

未成年という不自由を自由に使い、仮初の姿で悪あがきをさせてもらえたことをうれしく思う。大人になったら、また単独ライブをやりたい。そのときは「子供でもないくせに」と言われて馬鹿にされよう。大人の悪ガキはもっとタチが悪くておもしろそう。

連載「奥森皐月は傍若無人」は、毎月1回の更新予定です。

【関連】伊集院光と奥森皐月のラジオ対談「思ったことを全部言う」リスナーとの信頼関係、ひとりしゃべりのコツを伝授

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    通常チケット:2,200円(税込)
    logirl会員特別割引チケット:880円(税込)
    チケット販売:4/3(日)23:59まで
    視聴可能期限:4/4(月)23:59まで

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