「16歳で発症してから4年」高校6年生・統合失調症VTuberもりのこどくは、メタバースに居場所を作るため奔走する

2022.4.8
たまごまご8

VTuberのご意見番・たまごまごの連載第8回は、統合失調症VTuberもりのこどくに注目。16歳で発症し、休学を余儀なくされ、現在20歳、高校6年生。「やっほー!今日も生きててえらい!」明るい呼びかけで始まるもりのこどくの活動は「統合失調症患者の居場所をバーチャル空間に作りたい!」と広がりつづけている。


錦鯉・渡辺隆も推薦

100人に1人弱の患者がいる(厚生労働省調べ)身近な病気、統合失調症。日本での患者数は約80万人ともいわれている。なのに、周囲に統合失調症の人がいる、という経験がある人は多くないと思う。ぼくも、今までの人生で一度も出会ったことがない。

そもそも、統合失調症とはなにか自体あまり知られていない、あるいは勘違いされがちなのが現状だ。

【自己紹介】世界初!統合失調症Vtuber【もりのこどく】#001

「もりのこどく」は統合失調症について、自身の経験をもとに解説しているVTuber(バーチャルYouTuber)だ。自身もまた、発症するまでこの病気について知らなかったという。

彼女は現在、統合失調症患者が穏やかに過ごせる場所、交流しあえる場所をバーチャル空間に作るべく、クラウドファンディングを行い注目を集めている。

『朝日新聞』『中日新聞』『共同通信』などのようなメディアが取り上げ、注目を集めている彼女。Vtuber通としても知られる錦鯉・渡辺隆も名前をあげており(『DIME』5月号)、話題になった。中でも『東京新聞』は夕刊の1面(3月22日)で大きく記事掲載。VTuberとしては異例だ。それだけ統合失調症に関心を持っている人、もりのこどくの活動方針に共感している人は多いのだろう。

統合失調症は若い人がかかりやすい

優しい緑色の衣装。耳のピアスとポケットはおくすり。印象的なビジュアルのVTuberである彼女は初回動画で、16歳のときに統合失調症になって高校に行けなくなったことを打ち明けている。今は20歳の高校6年生、闘病中だ。

【3分でわかる】統合失調症とは【もりのこどく】#002

彼女の動画はとても明解だ。統合失調症について、わかり易い言葉で無駄なく、事実と信条をすっきりと語る。

「統合失調症って10代20代の若い人がかかりやすい病気なの。こどくもね、統合失調症になるまで、この病気のことをなんにも知らなかったんだ。」
「たくさんの人に知ってもらいたい、とくに、若い人に知ってもらいたい」

動画はそれぞれ数分以内に収まっており、非常に見やすい。

「統合失調症にかかってる君も、まわりに闘病中の人がいるっていう君も、はじめてこの病気について知る君も、さくっとわかるような動画にしたからぜひ最後まで見ていってね!」

この発言を聴くと分かる通り、知らない人に正しい知識を知ってほしい、というのみならず「統合失調症にかかっている人」に向けて、強いメッセージを彼女は送りつづけている。


ハキハキとしゃべり、BGMもポップ

幻覚、妄想、認知機能障害などの症状について、正しい情報を発信しつづけているもりのこどく。彼女の動画は至って明るい。ハキハキとしゃべり、BGMもポップだ。語られている症状の内容は大変なものが多いのだが、克服し闘病している前向きな経験をまとめているので、安心して見ることができる。

もちろんなにもかもポジティブというわけではない。薬が効かず苦労した時期のことや、閉鎖病棟のしんどさ、再発の苦しさなど、紆余曲折経てきたことも語っている。すぐに寛解する病気ではない。それらもひっくるめ、薬を飲んで治療し、病気を知って生きていくこと自体の大切さを信じつづけているから、彼女の動画は誰が見ても大丈夫だと太鼓判を押せるほどに頼もしい。なにより、明るいけれどもハイテンションではないバランスのとり方が心地よい。

「生きててえらい」

「やっほー!今日も生きててえらい!」という彼女の挨拶はものすごくインパクトがある。ぼくは少なくとも人生の中で「生きていてえらい」と、冗談ではなく本気で言われたことはなかった。自死の瀬戸際まで何度も行った彼女が言うと、この「生きててえらい」は、重みが段違い。本気の挨拶だ。

「もりのこどくチャンネル」は基本的には統合失調症の知識を知ってもらうのがメインの活動ではある。同時に生きづらいすべての人への受け皿的なチャンネルにもなっている。「頑張る」ことを奨励しない。生きていることを褒めてくれる。色々な精神疾患を抱える人で、どうやっても「頑張れない」のがわかってもらえないことは、この社会だと多々ある。彼女はそれを統合失調症という視点から理解した上で、言葉を丁寧に選んで発信している。

メタバースは孤独を救う

現在彼女が行っているのは、統合失調症患者が孤独にならないよう、気兼ねなく集まれる空間「もりのへや」をバーチャル空間上に作るためのクラウドファンディングだ。

統合失調症患者の居場所をバーチャル空間に作りたい!【もりのこどく】(もりのこどく 2022/02/25 公開) クラウドファンディング READYFOR
統合失調症患者の居場所をバーチャル空間に作りたい!【もりのこどく】(もりのこどく 2022/02/25 公開) クラウドファンディング READYFOR

「こどくが入院した病院や、通ってきたデイケア、フリースペースに、精神疾患を持っている人はたくさんいました。しかし、『わたし、統合失調症なんだ』と打ち明けてくれた人はひとりもいません」
「こどくも、自分が統合失調症であるとは、ごく親しい友人にしか打ち明けていないのです。いったいなぜなのか。それは、差別があるからです。こどくが統合失調症であることをVtuber活動の中でしか公言していないのは、将来、進学や就職に影響が出たり、今の友人たちが離れて行ってしまったりしないか、不安だからです」
(クラウドファンディングページより抜粋)

今の社会では、うつ病などの精神疾患についての理解は、長い時間を経てじょじょに受け入れられつつある。しかし統合失調症はまだまだ存在があまり知られていない。むしろこれを読む限り、差別的な偏見すらあるようだ。多くの統合失調症患者が打ち明けられないから「統合失調症は自分しかいないのではないか」とどんどん孤独になってしまう。一応これを乗り越えるための統合失調症の交流会は現実に存在しているようだが、ある程度出て歩けるくらいじゃないと参加は難しいし、このご時世だと少々ハードルが高い。

だからこそ、バーチャル空間(メタバース)の利用は新しい交流の形になるはずだ。バーチャル空間に部屋を作り、そこに入れば統合失調症の人がいて、話し合うことができる。話すのがいやならテキストでもいい。なによりアバターで入るので、お互い匿名で顔出ししなくていい。もっと言えば、そこにいるだけでもいい。孤独じゃない、と知ることが一番の救いになる。

「バーチャル空間では、だれにも襲われることはありません。いやだな、と感じたら、いつでもその空間から退出できます」

統合失調症の大変さを物語る重要な一文だ。出かける際に「誰かに襲われる」という妄想と戦わないといけない。でもバーチャル空間なら安全だ。不安だったら逃げてもいいのだ。

部屋に入る際の安心感を高めてくれるのが、常駐しているスタッフの存在だ。精神科医、公認心理師などの専門家がこの部屋におり、話し相手にもなってもらえるとのことだ(ただし医療機関ではないので治療は行わない)。統合失調症患者と専門家。この空間にいる誰もが統合失調症について知っているというのは、統合失調症患者にとって、統合失調症を知らない者の想像を遥かに超える、大きな安心感があるだろう。

もりのこどくは、顔を明かさずVtuberとして活動すること、また集まる場所をバーチャルにすることで、現実への恐怖に対してのクッションを作った。その上で少しでも統合失調症について知ってもらいたい、と非常に精力的に活動をしている。

彼女を信頼できるポイントがひとつある。これだけ大々的に話題になっても、自身は絶対無理をしないように活動を調整している、という部分だ。薬はちゃんと飲む、頑張りすぎると再発しかねないのでブレーキを踏んでしっかり身体を休める。その上でできることをやる。

このVTuber活動の姿勢と、動画で見せてくれる普段の元気な姿こそ、統合失調症のみならず精神疾患にかかっている人を励ますものになっているように思う。こちらからも、もりのこどくに「生きててくれてありがとう!」と伝えたい。

もりのこどくが、今回のクラウドファンディングに際してQJ.Webにコメントを寄せてくれたので、紹介したい。

「このクラウドファンディングは、こどくが統合失調症が重くて孤独だったときのことを思い出して、『孤独な人が今もこの日本にたくさんいるんだ』と考え、ひとりで始めたプロジェクトです。思いもかけず、精神科医や公認心理師のみなさまはじめ、たくさんの方々に応援してもらって、このプロジェクトは本当に必要とされているんだ!と改めて実感しました。

こどくはVTuber活動を始めてから「私も周りに統合失調症だと言っていない」「ネットでしか言っていない」という人が本当にたくさんいることを知りました。そういう方に届いて欲しい。「妄想ってほんといやだよね」とか「それ統合失調症あるあるじゃん」とか、そういう軽い統合失調症に関する話を、孤独だったときのこどくもできたらどれだけ楽だったか、どれだけ救われたか! 統合失調症患者は80万人もいるはずなのに、その存在が見えなくなっている、ということをみなさんに伝えたいです。

統合失調症患者が孤独を感じないように、軽い会話をして穏やかに過ごせる居場所ができるように、どうかお力を貸してください。お願いします」


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