清水尋也論──海馬を震わせる。清水尋也の、今そこにある残像

「告白的男優論」#18 清水尋也論

(c)2022『さがす』製作委員会
文=相田冬二 編集=森田真規


2014年公開の中島哲也監督作『渇き。』で注目を集め、『ちはやふる』シリーズ、『ミスミソウ』、『東京リベンジャーズ』など話題作への出演を重ね、昨年はNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』で個性的な気象予報士を演じたことでも記憶に新しい俳優、清水尋也。そんな彼の最新出演作『さがす』が1月21日に封切られた。

ライターの相田冬二は、「清水尋也は地震だ」と評する。俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第18回、清水尋也論をお届けする。


清水尋也が出現すると、海馬が震える

海馬(かいば)は、脳にあり、記憶をつかさどる器官と言われている。
見たことも、触ったこともないが、清水尋也が出現すると、海馬が震える。

清水尋也というのは、私にとって地震のようなものなのかもしれない。遥か彼方の激動が津波となって押し寄せ、今まさに到着しようとしている、ざわざわとした予兆が、抜き差しならない魔の感覚と隣り合わせにある愉悦。

清水尋也/映画『さがす』より

恐怖とは違う。危険なときめき。台風が来る前にも似ているが、荒々しいざわざわではなく、ぴーんと張り詰めた、静謐で深遠なざわざわ。沈黙という底なし地獄の大らかな穴の前で、ぼんやり立ち尽くす。金縛りになったように動けないのだが、精神の一瞬の停止が、永遠の戸惑いに幽閉されるかもしれない風情は、存外に魅惑的だ。

揺れるのではなく、震える。この微細な感覚が、脳のある部分を刺激し、私たちは彼の存在を知覚し、記憶する。行きつ戻りつする、魂の反復。ぐらぐらと揺れるのではなく、ざわざわと震える。

やはり、清水尋也は地震だ。

外側が揺れるのではなく、内側が震える。
ベースメント(地)が震えるから、地震は地震なのだ。

清水尋也/映画『さがす』より

限りなく幻想に近い記憶

『渇き。』では、いじめられっ子を演じた。
『ミスミソウ』では、豹変する転校生を体現した。
『青くて痛くて脆い』では、イケてるルックスで誤解されやすいナイーブな大学生に扮した。

映画『渇き。』キャラクター紹介映像 ボク(清水尋也)
映画『ミスミソウ』特報

いずれも、作品が孕む、ある種のミスリードに加担するキャラクターだ。いや、清水尋也の役自体が、ミスリードそのものと言い換えてもいい。

だが、私たちは、彼が画面に登場した瞬間から、そのことを、脳のある部分で察知していたのかもしれない。

麗しき予兆。
それは、記憶に基因している。
清水尋也が過去に表現した人物たちが教えてくれるのではない。

いつかどこかで出逢ったかもしれない、デジャブのような残り香によってかたちづくられた、限りなく幻想に近い記憶が、知らせてくるのだ。

この、美しい長身の少年(彼は、時を止めている。だから、今も少年のままだ)が、見たとおりのものであるはずがない。

その予感が、私たちの海馬を震わせる。

今そこにある、アロマ。


清水尋也、不滅の残像

最新作『さがす』でも、彼はキーパーソンとして君臨する。
生きる鍵として、降臨する。

映画『さがす』予告編

やがて、正体は明かされる。
しかし、私たちの海馬に焼きつけられた最初の残像は、拭えぬまま、残りつづける。
真相よりも、深層が、重要なのだと、清水尋也の不滅の残像は物語る。

ファースト・インプレッションが、ラスト・インプレッションとなる。

その、無限の円環構造。

そして、私たちは、探していく。
果てなき彼を。
そして、私たちのベースメントは、震える。
消えない香りに導かれながら。

【関連】連載「告白的男優論」


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  • 映画『さがす』 (c)2022『さがす』製作委員会

    映画『さがす』(PG12)

    2022年1月21日(金)テアトル新宿ほか全国公開
    監督・脚本:片山慎三
    共同脚本:小寺和久、高田亮
    音楽:髙位妃楊子
    出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、石井正太朗、松岡依都美、成嶋瞳子、品川徹
    配給:アスミック・エース
    (c)2022『さがす』製作委員会

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相田冬二

(あいだ・とうじ)ライター、ノベライザー、映画批評家。2020年4月30日、Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』をスタート。国内の稀有な演じ手を毎回ひとりずつ取り上げ、縦横無尽に語っている。ジャズ的な即興による言葉のセッションは6時間以上に及ぶことも。2020年10月、著作『舞台上..

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