北村匠海論──まぶしいほどにリアル。日常と「その先」のスカイラインを、北村匠海はひとりで歩いている。

2021年12月に結成10周年を迎え、今年『NHK紅白歌合戦』に初出場するダンスロックバンド「DISH//」のメンバーでありつつ、映画『君の膵臓をたべたい』『とんかつDJアゲ太郎』『東京リベンジャーズ』など俳優としても第一線で活躍している北村匠海。そんな彼の最新主演作『明け方の若者たち』が12月31日に封切られる。
ライターの相田冬二は、「北村匠海は、清潔だ」と評する。俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第17回、北村匠海論をお届けする。
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ただ、清潔でありつづける
久しぶりに清潔なセックスシーンを見た。美男美女によって演じられているからではない。華美に装飾されているわけでもない。性交をファンタジーにしているのでもない。
『明け方の若者たち』の北村匠海は、今何かが失われつつあることの痛みを鋭敏に受け取りながら、しかしシャープに表出させるのでなく、蝋燭が消える寸前、最もその灯を大きくさせるような刹那の輝きを、愛おしいほどの繊細さと、あくまでも平明な写実主義によって、その肉体と表情をさらしている。だから、清潔なのだ。
清潔という言葉は多くの局面で誤解されているが、ありきたりの爽やかさとか、身だしなみや所作のクリーンさということではけっしてなく、身体も心も全裸になってなお、嫌らしさやうしろめたさを漂わせない、平常心の高貴さこそ、清潔と呼ばなければならない。
北村匠海は、清潔だ。
清潔であるということを推し進めていけば、表現は、ここまで人間のリアルに接近遭遇するのだという発見が、『明け方の若者たち』の北村匠海にはある。驚くべき清潔さであると思う。北村匠海は今後、清潔さの概念を変えていくであろう演じ手だ。
『明け方の若者たち』の主人公は、ある恋愛を体験する。それは、彼にかなりのダメージを与える。その様は、情けなくもあるし、不憫でもある。だが、それは、あくまでも理屈がこしらえた幻想だ。

北村匠海が体現する清潔さは、我々の凡庸な同情を寄せつけないどころか、軽く超越する。ひどく傷ついているにもかかわらず、北村匠海は神々しいまでの存在感でそこにいる。
恋によって何かを喪失した人間が、ここまで清潔であっていいのか。
既成概念でしか生きられない私たちは、しばしの間、戸惑うだろう。しかし、北村匠海が行っているのは、美化ではない。失恋を美しく着飾って、ナルシスティックに酔いしれているわけではない。
そうではなく、ただ、清潔でありつづける。
終盤の展開で、私たちは知るだろう。その清潔さは必然だったのだと。この主人公には、この主人公にしか持ち得ぬ清潔さがあり、それは生命のありようにほかならなかったのだと。
北村匠海が追い求めているのは、どこまでもリアルなことだ。そのキャラクターが、その人以外の誰でもないということを命をかけて証明している。その息吹が清潔なのだ。
生きている。リアルに生きている。
冬の空気のように。
明け方のグラデーションのように。
北村匠海は、清潔だ。

北村匠海が教えてくれる「その先」
ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』では、節約家を演じた。モノローグも多用されたそのキャラクターは、行為それ自体を見つめるならば、小心者かもしれない。セコいヤツかもしれない。しかし、人物の肌ざわりが、ちっこくもなく、みすぼらしくもなかった。
どこまでも、清潔だった。
『とんかつDJアゲ太郎』は、とんかつ屋の息子がクラブDJになって、意中の女の子を振り向かせようとする、かなり突拍子もない青春映画だ。だが、北村匠海は粋なとんかつ屋の白木のカウンターのような佇まいで、ブレることなく、全篇を超然と演じ切った。
ひたすら、清潔だった。
ごく当たり前の人間にも、崇高な魂が宿っていることを、北村匠海は体感させる。
どんな普通の日常にも「その先」があって、それはかけがえのないことなのだと、北村匠海は教えてくれる。
彼は、地平線である。
彼は、稜線である。
北村匠海は、スカイラインのように清潔だ。

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映画『明け方の若者たち』(R15+)
2021年12月31日(金)全国ロードショー
監督:松本花奈 脚本:小寺和久
原作:カツセマサヒコ「明け方の若者たち」(幻冬舎文庫)
主題歌:マカロニえんぴつ「ハッピーエンドへの期待は」(TOY’S FACTORY)
出演:北村匠海、黒島結菜、井上祐貴、佐津川愛美、山中崇、高橋ひとみ、濱田マリ
配給:パルコ
(c)カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会関連リンク
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