写真を撮ることにこだわりを持つアーティストやお笑い芸人による連載「QJWebカメラ部」。
加賀翔(かが屋)、前田こころ&平井美葉(BEYOOOOONDS)、セントチヒロ・チッチ(BiSH)、長野凌大(原因は自分にある。)、林田洋平(ザ・マミィ)が日替わりで担当し、それぞれが日常生活で見つけた「感情が動いた瞬間」を撮影する。
月曜日は、加賀翔(かが屋)が担当。コント師として知られる一方で、芸人仲間などを撮影した写真の腕前にも定評があり、インスタグラムのフォロワーは10万人以上を誇る。そんな彼が、ついシャッターを切りたくなるのはどんな瞬間なのか。
冬の楽しみ
第7回。いつの間にか自分で果物を買う年齢になり、中でも僕はみかんが好きです。1日のうちに必ずひとつは食べますし、子供の名前を柑橘系にしたいなとよぎるくらい好きです。今回は秋に予約していたみかんが12月、ついに届きましたので写真を撮らせていただきました。
みかんを特別好きになったのは、愛媛果試第28号「紅まどんな」というみかんを食べたのがきっかけです。ベニマドンナ。正式にはエヒメカシダイニジュウハチゴウベニマドンナ。なんてかっこいい響きなのでしょうか。
初めて見たのは少し上品なスーパーの青果コーナーで、ひとつ500円というとても強気な姿で僕の前に現れました。そもそも高いアイスを買おうとスーパーに入っていたため、その挑発的な雰囲気がとても魅力的に感じ、乗ってやろうじゃないかとカゴに入れました。
とはいえ、みかんだしそんなにおいしいことないだろう。家に帰った僕はみかんを台所に置き、心の中で定番のフリを仕掛けました。本当に普通の味だったらどうしようという緊張と、500円を無駄にしたくない気持ちで手が震えます。
意を決して爪を立てると、皮の裂け目の少しの隙間から信じられないほど甘く爽やかな香りが広がり、その匂いがあまりにも衝撃的で僕は尻もちをついてしまいました。腰を抜かしたと言ってもいいかもしれません。
「匂いだけで元取れたわって思うことある!?」とすごく小さい声で言いました。味はとても甘くみずみずしいですし、何より香りがいいです。芳しいってこういうことだっけとGoogle検索するくらいいい匂いで、僕は「紅まどんな」の虜になりました。
「紅まどんな」は冬にしか食べられないのでいろいろなみかんを食べながら過ごし、日本ってすごいなぁと鼻水を垂らしながら冬を待ち侘びていました。今年の秋、通販サイトで予約できることを知り僕は即座に予約しました。果物を予約するのは初めてです。
12月、予定日の朝。7時ごろからソワソワしているとインターホンが鳴り、「午前中の指定の9時に来てくれるの最高!!」と飛び出して受け取りました。走って部屋に戻り慌てて段ボールを開けると、そこには大きな字で「中島まどんな」と書かれてありました。どう見ても「中島まどんな」と書いてあります。違う“まどんな”が来ました。「別まどんな」でした。
どうやら僕が“まどんな”しか見てなかったせいで間違えていたみたいです。“まどんな”が何個もあると思わないじゃんとショックを受けながら「中島まどんな」っていったいと思い調べたら、ちゃんと「紅まどんな」ではない、とのことで完全に「別まどんな」でした。
段ボールで買ったので「紅まどんな」じゃないみかんが大量にあるというのが情けなくなりました。でもまぁとりあえずひとつ食べてみようかと包丁を入れたら、驚くほどきれいな断面で、匂いはもちろんとても甘く柔らかく、「まどんなはまどんななんかい!!」と笑いながら小さな声で言いました。今年の冬は「中島まどんな」と暖かく過ごさせていただきます。
中島さんありがとう。