電気グルーヴに深く刻まれた哲学「君が捨てている部分が一番大事なところ」【Roots of 電気グルーヴ#6:Pop Will Eat Itself】


徒花上等みたいな立ち位置

石野 で、セカンドアルバムが出るんだけど、『(This Is The Day…This Is The Hour…)This Is This!』。

 これはいいっすよねえ! ジャケも今見てもかっこいいな。

石野 これは89年で、実は80年代なんだよね。でも、俺の中での印象としては、もう90年代の幕開けっていうか。

 そうだよね。

石野 で、このアルバムはさっき言ったアダム&ジ・アンツハンズのサンプリングみたいなのがさらにエスカレートしてて、「これ、今出せるのかな?」って感じなんだけど。『トワイライト・ゾーン』(※18)だったりとか、あと細かいところでいろんなのをサンプリングしてるんだよね。いわゆるアメリカのヒップホップがサンプリングしないようなところ。このアルバムに入ってるシングルで「Can U Dig It?」って曲があるんだけど、これに「We like the music, we like the disco sound」っていうフレーズがあって、これは実はもとはポッピーズじゃなくて、ベル・エポック(※19)っていう70年代のディスコグループの「Black Is Black」っていう曲のフレーズなのよ。でも、実はこれ、サンプリングじゃないんだよね。もう1回歌い直してるの。で、それをサンプリングしたのがウチら(※20)。

 のちにウチらもまたそれも歌い直すっていう(笑)。

石野 因果は繰り返すっていうか。

 このアルバムはすげえ聴いたな〜。この(ジャケットの)当時の収まりのよさっていうかさ。

石野 あと『マジンガーZ』とかの感じのかっこよさもあるよね。

 だって俺、この(ジャケットの)Tシャツ持ってたもんな。

石野 電気グルーヴで初めて武道館でやったとき(1992年)あったじゃん。やったっていうか、やらされたとき。あのときに俺、もらったポップ・ウィルのロンTとパンツを着てて、全身ポッピーズだった。

 あとさ、このグラフィックも込みだし、このロゴの「PWEI」ってすぐにわかる感じがマンガっぽいっていうか。

石野 デジタルな不良っていうかさ。当時すごい新鮮だったんだよね。で、ジーザス・ジョーンズ(※21)とかEMF(※22)とかがのちに出てきて、日本だとデジタルロックとか言われてたんだけど、実はその類っていうのは「グレボ」(※23)っていうふうにイギリスで言われてて。一瞬だけなんだけどね。イギリスの雑誌ってさ、すぐそういうカテゴライズするじゃん。で、すぐ飽きてやめるじゃん(笑)。それでグレボって言われてて、日本で言うデジタルロックに近いんだけど、(ポップ・ウィル・イート・イットセルフは)それの代表格って言われてて。そういう意味では、ウチらの中では過小評価だと思ってるんだけど、でもハマらないのもわかるっていうか。

石野卓球

 消費上等、徒花上等、みたいな感じの立ち位置だったじゃん。

石野 それがかっこよかったんだよね。

 「どうせ今だけだからガツンと行くぜ!」みたいな感じで。

石野 でも、意外に売れてたんだよね。90年にワールドカップのときに出したシングルで、「Touched by the Hand of Cicciolina」っていうさ(笑)。

 出ました(笑)。

石野 イタリア人の元ポルノ女優の政治家のチッチョリーナっていう人がいて。それで、「Touched by the…」っていうのはニュー・オーダーの曲(「Touched by the Hand of God」、1987年)にもあったサッカーの──。

 マラドーナ(※24)ですね。

石野 (ワールドカップの)オフィシャルじゃないんだけど、こういうのも出してます。あとね、かなり初期のシングルになるだけど、これとか。「Beaver Patrol」(1987年)。「マン毛パトロール」っていう曲(笑)。あと、これは珍しいんだけど、セカンドに入ってる「Def Con One」って曲があって、『トワイライト・ゾーン』をサンプリングしてるんだけど、歌詞が「Big Mac, fries to go」っていうさ、「ビッグマックとフライドポテトをテイクアウトでお願いします」っていうサビなんだけど、「ビッグマック」って言葉が商品名でオンエアできないから、「ビッグマック」っていう歌詞のとこだけリバースされてるっていうラジオ放送用のシングル。

 BBC対応版的なやつ(笑)。

石野 これ、ロンドンの中古盤屋で見つけて。

 すげえの持ってるな! ラジオ局にしか配られないやつだよね。

石野 「RADIO EDIT(NO BIG MACS)」っていうね(笑)。

 いいね(笑)。

※18 トワイライト・ゾーン(The Twilight Zone):1959年に放映が始まった、アメリカのSFドラマ。ポップ・ウィル・イート・イットセルフは「Def Con One」や「Can U Dig It?」で『トワイライト・ゾーン』のテーマソングをサンプリングしている。

※19 ベル・エポック(Belle Epoque):1977〜1979年に活動したボーカルグループ。スペインのバンド、ロス・ブラヴォスの1966年のシングル「Black Is Black」をディスコにリメイクしてヒット。

※20 N.O.:電気グルーヴの1990年のアルバム『662 BPM BY DG』の収録曲「無能の人(LESS THAN ZERO)」、およびそのリメイク版である1993年のアルバム『VITAMIN』の収録曲「N.O.」でポップ・ウィル・イート・イットセルフの「Can U Dig It?」がサンプリングされている。その「We like the music, we like the disco sound, hey!」は、石野が語っているとおりベル・エポックからの孫引き。2019年にリリースしたアルバム『30』の収録曲「Flashback Disco (is Back!)」でもこのフレーズが用いられている。

※21 ジーザス・ジョーンズ(Jesus Jones):1988年結成、イギリスのブラッドフォード・オン・エイヴォン出身のオルタナティブロックバンド。ダンスミュージックやヒップホップとロックを融合させた音楽性で知られる。代表曲は1990年の「Right Here, Right Now」。

※22 EMF:1989年から1997年に活動したイギリス・シンダーフォード出身のオルタナティブロックバンド。代表曲は1990年の「Unbelievable」。その後、数度再結成している。

※23 グレボ(Grebo):1980年代末から1990年代初頭にかけてのムーブメントで、オルタナティブロックのサブジャンル。ロックとダンスミュージック、ヒップホップなどの折衷的なスタイルで、ポップ・ウィル・イート・イットセルフやジーザス・ジョーンズに代表される。主に『NME』や『メロディ・メイカー』といった雑誌が取り上げていた。

※24 ディエゴ・マラドーナ:1960年生まれ、アルゼンチン出身のサッカー選手。石野と瀧が語っているのは、1986年のワールドカップの準々決勝、イングランド戦での「神の手」ゴールのこと。2020年没。

パンクのアティテュードでエレクトロニックを操る

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