晴天のどしゃ降りに、何を見るか
岡田将生は、天候であり、季節なのだから、主役であろうと、相手役であろうと、脇役であろうと、ワンポイントリリーフであろうと、その価値に差異が生ずるはずもない。ポジションなんてものに、意味なんてない。
だが、最新作『ドライブ・マイ・カー』の彼は、絶好の立ち位置で(そこはきっと格別に見晴らしのよい場所だ)、演技のコンパスを全方位に回転させながら、目の覚める表現を浴びせてくれる。
晴天のどしゃ降り。
彼の役どころを紹介することは慎みたい。ネタバレに抵触する云々といった、チンケな話ではない。その設定を記したところで、本質から遠ざかるばかりだし、シチュエーションやら、人物背景やらは、あえて一切無視して、接近遭遇したほうが有益だからである。
ふてぶてしさの中に、脆さがある。
脆さの中に、危うさがある。
危うさの中に、タイトロープがある。
タイトロープの中に、享楽がある。
享楽の中に、対話がある。
対話の中に、自己批評がある。
自己批評の中に、社会と渡り合う意志がある。
その意志の果てに、ふてぶてしさがあるのだ。
晴天のどしゃ降りに、何を見るか。
観客のセンスが試される。晴天を見てもいいし、どしゃ降りを見てもいい。だが、なぜ、それらが同時にあるのかに想いをめぐらせたとき、岡田将生は、あなたにとってかつてないほどおもしろく愉快な現象となるだろう。
これは、2021年最高の演技であり、また、岡田将生のキャリアにおいても最良の演技であることをここに断言しておく。
振り返れば、お天気雨。
見上げれば、岡田将生。
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映画『ドライブ・マイ・カー』(PG-12)
2021年8月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允 音楽:石橋英子
出演:西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいか
配給:ビターズ・エンド
(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会関連リンク
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