柳楽優弥論──映画の子、柳楽優弥は、我ら沈黙の時代の爆心地だ。

(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
文=相田冬二 編集=森田真規


2021年8月6日、“日本の原爆研究”を背景に3人の若者の姿を映し出した『映画 太陽の子』が封切られた。そこで原爆開発に挑む若き研究者を演じているのが柳楽優弥だ。

ライターの相田冬二は、柳楽優弥を「沈黙の申し子」だと評する。そして、『映画 太陽の子』での彼の演技は、「私たちが生きるしかない沈黙の時代を打ち破るエネルギーに満ちている」という──。

俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第9回、柳楽優弥論をお届けする。

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初期重要作のタイトルが示すもの

初期の重要作、代表作のタイトルを記すだけで、彼のオリジナリティは、たちどころに浮かび上がる。あえて、サブタイトルなしで列挙しよう。

『誰も知らない』
『星になった少年』
『爆心』
『最後の命』

あたかも、彼の存在にインスパイアされたかのような題名ばかりだ(是枝裕和監督による、最も著名なデビュー作以外は、すべて原作があり、原作名からの引用であるにもかかわらず)。

次のように書けば、おわかりいただけるだろうか。

誰も知らない柳楽優弥。
星になった少年、柳楽優弥。
最後の命、柳楽優弥。
そして。
爆心、柳楽優弥。

その俳優のキャッチコピー、というより、これは批評そのものではないか。

誰も知らない場所にいる柳楽優弥。
此処ではない何処かに旅立った柳楽優弥。
彼岸の淵を生きる柳楽優弥。
そして。
途轍もない何かを生み出した柳楽優弥。

彼は、ミステリアスであり、スピリチュアルであり、ギリギリであり、途方もない。

では、なぜ、彼はそのようなイメージを喚起するのか。

沈黙の申し子だからである。
映画の子、柳楽優弥を沈黙というタームから見つめてみたい。

『爆心 長崎の空』予告

相貌の映画『誰も知らない』

やんちゃな役もあるし、愛すべき役もある。憎めない役もあるし、情けない役もある。言ってみれば、普通の役はたくさんあるし、それらを人情味豊かに演じることもできる。もちろん、それらの作品はプロフェッショナルな俳優としての能力を、具体的に指し示すことになるだろう。

しかしながら、ここでは、彼ならではのオリジナルな求心力についてのみ考えてみたい。

おそらく、世界中の映画好きの誰もが知る『誰も知らない』と題された映画の最も重要な点は、ドキュメンタリーから出発している監督の作家性でもなければ、貧困の現実を見据える社会性でもなかった。

『誰も知らない』予告/Nobody knows - Bande annonce VOSTF

それは、まず第一に、顔の映画だった。

相貌の映画、と言い換えてもよいが、そこでは人間の顔面が、いかに多弁であるかを物語っていた。人生という名の皺が刻み込まれた老人の顔が饒舌なのではない。放置されているという意味でホームレスな少年の顔が、さまざまなことを語りかけていた。

柳楽優弥の顔には、陰影があった。それは、過酷で不幸な境遇の主人公を演じていたからではない。顔そのものに、魅惑的な情報量が詰まっていた。

黙していても、密。
いや、黙しているからこそ、蜜。
そこには、濃密な沈黙の蜜があった。
私たちは、そこに惹かれた。

おそらく、クエンティン・タランティーノも、彼が審査委員長を務めたあの年のカンヌ映画祭の人々もみんな、凝縮された相貌の虜になった。

沈黙する顔ほど、映画的なものはない。そして、黙っていても、画面が屹立するか否かが、演じ手の才能の証明である。対象がじっとしていても、見つめるに値する何かを、観客の映画神経は逃さない。

もちろん、演じられている人物の背景を想像させる力、と呼ぶこともできる。だが、それ以上に、その人間に対する好奇心が作動することこそ決定的なのではないか。この好奇心は、畏怖の想いと隣り合わせにある。だからスリリングだし、より強力だ。

近寄りがたいものほど、気になる。

私たちは、そのような生き物だし、そのような生き物を能動的な思考の出発点に立たせてくれるのが、柳楽優弥なのだ。

人は、人に、興味を持つ。
自分ではない他者を知ろうとする。
原初の力。
沈黙は金。沈黙には価値がある。沈黙には、遭遇した者の魂をざわつかせる契機がある。
サイレント・チャンス。

浮遊することで息づく“力強さ”


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(あいだ・とうじ)ライター、ノベライザー、映画批評家。2020年4月30日、Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』をスタート。国内の稀有な演じ手を毎回ひとりずつ取り上げ、縦横無尽に語っている。ジャズ的な即興による言葉のセッションは6時間以上に及ぶことも。2020年10月、著作『舞台上..

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