電気グルーヴ、コンセプトの源になった言葉を明かす「陳腐なことを重ねていくとスーパー陳腐なものができ上がる」【Roots of 電気グルーヴ#5:Palais Schaumburg】


電気グルーヴの表現方法

石野 で、実は、『Ein Bündel Fäulnis In Der Grube』の日本盤はWAVE(※17)から出てたんだよね。この頃のWAVEって、ジャーマン・ニューウェーブをすごい推してたんだよね。WAVEがジャーマン・ニューウェーブを推してて、新星堂がクレプスキュール(※18)。三角形の帯の日本盤、あったじゃん。ミカド(※19)とかね。

 ちょっとレーベル合戦みたいなところがあったよね。

石野 でもね、それがすごいよかったのが、当時、輸入盤ってほんと高かったのよ。特にヨーロッパ盤って。静岡で買うとなると、LPは3000円はくだらなかった。

 言い方は悪いですけど、末端価格っていう感じでしたよね。

石野 ああ、君がやってたやつね(笑)。裏取引(笑)。それが、WAVEとか新星堂とかが、いわゆる日本の国内ディストリビューターみたいなことをやってくれたおかげで、当時の輸入盤の相場よりも安く買えるようになったっていう。

 近所のレコード屋さんに言えば、なんとか手に入れられるルートがあるっていうね。

石野 そうそう。新星堂なんて、どこにでもあったからね。ニュー・オーダーの「Everything’s Gone Green」(1981年)とかもクレプスキュールから出てて、買った覚えがある。でね、ホルガー・ヒラーの話に戻ると、このライナーノーツなんだけど、俺にとって実はすごく大事な文章があって。クリス・ボーン(※20)っていう人が書いた、イギリスの『NME』(※21)に載った、ホルガー・ヒラーのインタビューの日本語訳が載ってるんですよ。その中のホルガー・ヒラーの発言で、「次から次へと思いつく陳腐なことを重ねていくと、スーパー陳腐なものができ上がって、言葉の裏にある新しい意味を開拓することができる」ってフレーズがあって。これは俺、(ペンで)囲ってあるんだけど。これで俺、痺れて。

 何度も聞きましたよ。

石野 ほんっとに。身体がもう、ビリビリビリビリ。

 お前、このフレーズ好きだよな。真理を突いてるよね。

石野 高校生のときにこれを読んで、すごい感銘を受けたんだけど。実は、53歳になった今でも、このふたりでやってる電気グルーヴの表現方法に関しては、未だにそれはつづいてるなっていう。

 つづいてるし、この言葉のとおりになることあるよね。ふたりで歌詞とか作っててさ。リズムに乗るくだらない言葉だったりとか、ちょっと不気味な言葉をふたりで出し合っていくんだけど、歌詞になったときに、あとから「これ、なんか意味あるように見えるな」っていうとき、あるもんね。

石野 そうそうそうそう。その辺にさ、ペットボトルが1個捨ててあるとするじゃん。1個だったらゴミだけども、山ほど集まったら、それはもうゴミ屋敷だよっていう(笑)。

 なるほど(笑)。

石野 っていうか、ゴミじゃないじゃん。ゴミでも、「屋敷」だからね。

 カテゴリー変わるっていう話ですからね。それは、確かに、すごい根本にありますよね。

石野 のちの活動とか、今の表現につながってますよ。

 君はほんとに、そのために生きてるって言っても過言じゃないって、言い過ぎかもしれないけど(笑)。

石野 それだけのために(笑)。単一機能だな、俺(笑)。

 でも、反論は認めねえってところはあるけど(笑)。そこの部分をずっと突き詰めてるところはあるよね。たまに「どうかしてるな」って思うときあるもん。

石野 犯罪者にですよ(笑)。俺、シロなのに(笑)。でもね、このふたりの間にある価値観はね、そういうとこじゃないんだよね。

 えっ、有罪か無罪かってこと?

石野 (笑)。どんだけデカい山を張ったかっていう(笑)。

 『蘇える金狼』的な話ね(笑)。

※17 WAVE:1977年にセゾングループが株式会社ディスクポート西武として設立した会社およびレコード/CDショップ。1983年に六本木WAVEを開店、首都圏を中心に店舗を展開し、レーベルも運営。渋谷系音楽の中心地のひとつになったとも言われている。

※18 レ・ディスク・デュ・クレプスキュール(Les Disques Du Crépuscule):1980年に設立されたベルギーのインディペンデントレーベル。ネオアコのレーベルとして知られているが、イギリスのファクトリーと提携し、ニューウェーブを幅広く紹介した。

※19 ミカド(Mikado):1982~1991年に活動した、パリのグレゴリー・チェルキンスキーとパスカル・ボレルによるシンセポップデュオ。細野晴臣のレーベル「ノンスタンダード」からのリリースで知られている。

※20 クリス・ボーン(Chris Bohn):1970~1980年代に『メロディ・メイカー』や『NME』で活躍したライター。現在は『The Wire』の編集者。

※21 ニュー・ミュージカル・エクスプレス(NME):1952年に創刊したイギリスの音楽雑誌。1970年代後半以降、パンクに始まり、ニューウェイブ/ポストパンク、マッドチェスターなどのインディペンデントなシーンを追った。

電気グルーヴとの関係

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