VTuberの真実が見える瞬間
本人の意見がそのまま語られる「アバター」として活動するVTuberが現在は増えつつある。とはいえ見た目は「バーチャル」だ。VTuberの顔が笑っていても、アクター本人の顔が笑っていないかもしれない。そこがエンタメとしてユニークなところだから、暗黙の了解で「見えたまま受け取る」のが楽しみ方だ。とはいえやっぱり、たまにはどこからが本音なのか知りたい、という思いは湧いてくるもの。
「くしゃみ」は生理現象で、嘘偽りが一切ない。くしゃみをした瞬間、キャラクターとしてのVTuberのレイヤーが完全に剥がれ、その奥にあるアクター本人の素が貫通して視聴者に届く。
これは「水を飲む」という状況でも起こる。喉が渇いて水を飲むときの音も、演技ではなくリアル。そのためここでも「お水おいしい?」「お水助かる」というコメントが飛ぶ。この場合2Dアバターだと水を飲む動作が見えないのも、バーチャルを貫通して現実を感じるポイント。
肉体の姿の上に、バーチャルなキャラクターを被せることによって進化しつづけてきたVTuber。しかしアクター側のくしゃみ、しゃっくり、あくび、お腹がなるなど生理現象によって生身が垣間見られるとき、「生きた人間」が存在している安心感と身近さが伝わる。アニメキャラがくしゃみをしない(声優がした場合リテイクになる)のを考えると、VTuberならではの生のエンタメだ。あくまでも偶然の出来事だからOKなわけで、視聴者側から見えない部分(例:アバターでは見えないリアルの姿勢や服装を聞く、など)に踏み込むのはご法度だ。
バーチャルを遵守するVTuberの中には「くしゃみ」とか「水飲み」とか言わず、黙ってミュートすることでキャラクター性を守る人もいる。このあたりは見せる側のさじ加減だ。たとえばトイレに行く際、アバターを放置してそのまま出かけていく人もいれば、ちゃんとアバターをトイレに行かせるテイで画面から去らせるVTuberもいる。
便利な合いの手
VTuberの配信では、視聴者のコメントは命綱だ。しかし視聴者が言葉をきちんと考えて、配慮をしながらコメントを書き込むのは、ものすごくハードルが高い。おもしろいことなんて考えて書く暇がないし、すでに誰かが書いているかもしれないし、変なことを書いて周囲に引かれるのも怖い。
そこで便利なのが「草(笑いを示すスラング「www」が草が生えているように見えることからの派生)」「かわいい」「てぇてぇ(尊い・相手や関係性の素敵さを褒めるスラング)」「えらい」、そして「くしゃみ助かる」の5点セット。基本的にいずれも配信者への好意を内包しているので、角が立たない。前者4つに関しては、にじさんじ内でのコメントでの割合を記録している有志のアカウントがあるので、見てみるといかに「草」などの単語が便利な合いの手になっているかよくわかる。
コメントを見ると、VTuberの配信は「ながら(勉強しながら、お酒飲みながら、など)」視聴の人がかなり多い。その際参加しようとしてもとっさに気の利いたコメントを書けるものではない。かといって書き込むのをみんなが控えていたら、配信の空気は冷えてしまうだろう。笑い声の聴こえない配信文化だからこそ、シンプルコメントでも配信者にとってはものすごくありがたい反応になる。
いわばコールアンドレスポンスのようなもの。くしゃみをしたら「くしゃみ助かる」と書き込めるタイミングが生まれる。書き込みのハードルが下がる瞬間だ。ミュートしたら「ミュート助からない」と書き込むのも、一種のコールアンドレスポンス。逆でも成立している。
VTuberのカルロ・ピノは冷静にくしゃみの際ミュートをするスタイルを取っている。するとコメントでは「ミュート助からない」のコメントが飛んでくる。それに対し彼女は「残念でした、ミュート敗北民の皆様お元気でした? また負けちゃったんですか?」「いつか聞けるといいですね」ときれいに煽り返し、場を盛り上げた。
インターネットの文化に詳しいにじさんじの月ノ美兎は、水を飲む際「ああー、んんっ、お水おいしいよ☆」のように意図的に「こういうのが好きなんでしょう?」と煽ることがある。そうすると飛んでくるのは「は?」という反撃コメントだ。これもまた信頼関係がなせるコールアンドレスポンス。視聴者とのプロレスとして盛り上がる機能があるのは興味深い。
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