VTuberの「くしゃみ助かる」現象を考察。くしゃみをするとスーパーチャット(投げ銭)が飛んでくる?(たまごまご)

2021.7.20


失敗に対する応援の文化

日本人は比較的、くしゃみを「恥ずかしいもの」として見ることが多い。そして視聴者にとって「恥じらい」はエンタメになり得る。ホラーでの絶叫、プレイングのミス、クイズを間違えるなど。

ただ、くしゃみを恥ずかしがるVTuberに対して、ファンがそのままスルーするのもなんだから、という意味も込めての「くしゃみ助かる」も存在する。実際「大丈夫?」「風邪?」「お大事に」という「ゴッドブレスユー」的な心配のコメントも上がる。一方で空気を深刻化するより「助かる」のほうがソフトでもある。恥じらいへの嘲笑ではなく、フォローする思いやり、という側面があるのは見逃せないポイント。

基本的にVTuberファンは、その人の配信を「楽しむため」だけでなく「応援するため」に見に行っている。いわゆる「推し」。アイドルを応援すること自体を楽しむ姿勢に似ている。なので書き込まれているコメントは基本的に、荒らし以外は好意的。盛り上げるためにコメントを書いているので、きっと「くしゃみ助かるっていうの恥ずかしいからやめてほしい」と配信者が言えば、ピタッと止まるはずだ。「くしゃみ助かる」が発言されて、配信者がそれを拾う配信は、視聴者と配信者の関係が良好な証拠だと考えてもいい。

ちなみに派生形として「ちょうど切らしてた」というのもある。ミュートし損ねや変な顔でのフリーズなどで、困っているVTuberに対しての「気にしないで! むしろそういうの待ってたから!」みたいなネタ的フォローの意味が強い。VTuberのジョークやグリーンバック素材に対しても「コラージュに使える」という意味で用いられることもある。これがカジュアル化し、合いの手的に使われているのもVTuber文化ならではだ。

動画では起こり得ない文化

「くしゃみ助かる」はYouTuberではほぼ起こらない。編集動画がメインコンテンツだからだ。VTuberも「バーチャル」な「YouTuber」として始まったため、YouTuberのような動画活動をしている人も多数いる。一方で現在は「ニコニコ生放送」や「ツイキャス」の文法を受け継いだスタイルがVTuber文化の基盤のひとつとして主流になっている。

配信スタイルと動画スタイルは、編集による精査などいろいろな違いがあるが、何よりファンとの距離が決定的に異なる。配信型の場合はリアルタイムでファンとやりとりするため、いわば「アニメキャラのような存在と実際に会話できる近さ」の強みがある。しかし配信者側も全部のコメントを拾うわけにはいかない。自身の配信の流れを保つために仕方がない。

そうなると、あまり配信者の負担にならない、影響の少ない「くしゃみ」と「水飲み」への声かけは、ライトなコミュニケーションツールとして便利だ。配信の流れを止めず、齟齬が生まれず、それでいて盛り上がる。

またくしゃみや水飲みのミュート中の間を持たせる意味でも、コメントのレスポンスはいい塩梅に作用する。バーチャルシンガーの花譜がリアルライブを行ったとき、当然ライブ中彼女も水を飲んだ。それに対して、会場のファンはコロナで声を出せないこともあって、全員が拍手をした。女子高生が水を飲んで拍手が起こるという光景はかなり奇妙。普段はアイドル型の活動はしていないだけに、何事かと驚いたオンライン視聴のファンの反応は多かった。ただこれは結果的に、無音の時間がなくなった、という役には立つ反応として成立した。

VTuberは人間であり、キャラクターだ。アニメキャラのように完全無欠の理想ではない。どこかで人間の生がはみ出る。そこを楽しむ手段としての「くしゃみ助かる」は、VTuber界隈でしか通じない内輪ネタであり、コミュニケーションを円滑にする手段として発展した言葉だ。今後VTuberが発展していった際、更に気軽で便利なコールアンドレスポンスが産まれる可能性は高い。

今回は配信文化中心に追っていったが、一方で動画VTuber文化やラジオ型配信者の間では、質問箱やマシュマロ(匿名投稿ができるサービスのこと)など「なんでもは言えない」がゆえに、ファンとVTuberの発言が洗練され濃厚になる文化も別個に発展している。中には極度にガラパゴス化することでおもしろさが尖っているVTuberもいるので、ぜひ探してみてほしい。


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