山﨑賢人論──エレガンスとフレグランス。山﨑賢人の気品と薫りが、不可能を可能にする。



時空を超えて薫り立った“エレガンスとフレグランス”

マンガ原作で、彼が最もその技術を発揮した作品に、『斉木楠雄のΨ難』がある。無表情の超能力者を、彼がどれだけ平然と優雅に演じているか。

映画『斉木楠雄のΨ難』予告編

山﨑賢人はエレガントだ。

どんなにシチュエーションに品がなくても、彼は人間を演じることで、品を作品に与える。【折り目正しい】風格を、保証するのは、山﨑賢人特有のフレグランスである。彼が、人間のピュアネスをのぞき込むとき、そのフレグランスは薫り立つ。

【山﨑賢人香】なるものが、この世には存在する。

最新主演作『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』では、マンガ原作以上のプレッシャーを担っている。ロバート・A・ハインラインの名作SF小説『夏への扉』の翻案。これまた、無謀な挑戦ではある。

映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』本予告

しかし、山﨑賢人はなんら怯むことなく、これまで同様、平然と優雅に、人間のピュアネスを顕在化している。タイムマシンも駆使した、荒唐無稽と言われるかもしれない純愛劇。しかし、山﨑賢人に任せれば、普遍性が宿る。

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』で山﨑賢人と共演するのは、連続テレビ小説『おかえりモネ』で主演を務める清原果耶

本作は、山﨑賢人がいわゆる【顔をつくる】タイプの役者ではないことを明示している。大げさな顔をけっしてしない。ビジュアルがノーブルなのではない。アプローチがノーブルなのだ。だからこそ、ピュアネスもまた美化されることなく、ピュアなまま提示されることになる。

そのまっさらさ。

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』より

映画がどんなにドラマティックに展開しても、山﨑賢人の演技がブレることはない。淡々と、きちんと、しっかり、人間を【折る】。日常を、平常心を、見つめる。

『夏への扉』では、冷凍睡眠が大きなモチーフになる。この冷凍睡眠=コールドスリープは、山﨑賢人という演技者を見つめる上で、極めて有効なファクターとなるだろう。

時空を超えて眠っていた主人公が【解凍】されたとき、【山﨑賢人香】が薫り立つ。
エレガンスとフレグランス。

その瞬間を迎えるために、どうか【心の嗅覚】を研ぎ澄ませていてほしい。


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  • 映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』

    2021年6月25日(金)全国公開
    監督:三木孝浩
    脚本:菅野友恵 音楽:林ゆうき
    原作:『夏への扉』ロバート・A・ハインライン(著)/福島正実(訳)(ハヤカワ文庫刊)
    出演:山﨑賢人、清原果耶、夏菜、眞島秀和、浜野謙太、田口トモロヲ、高梨臨、原田泰造、藤木直人
    (c)2021 映画「夏への扉」製作委員会

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