星野源論──サウンドとしての芝居。星野源的バックグラウンド表現を考える。

(c)2020 映画「罪の声」製作委員会 (c)塩田武士/講談社
文=相田冬二 編集=森田真規


音楽家、俳優、そして文筆家。そのどのジャンルでも稀有な存在感を放っている星野源。

ライターの相田冬二による連載「告白的男優論」の第6回では、2021年4月に配信リリースされた楽曲「不思議」、昨年公開された映画『罪の声』、2018年に公開されたアニメーション『未来のミライ』などを取り上げつつ、俳優・星野源の奥底にある魅力に迫る。

【関連】山﨑賢人論──エレガンスとフレグランス。山﨑賢人の気品と薫りが、不可能を可能にする。


星野源が演奏家であったことは、彼の演技に影響を与えている

2003年の舞台『ニンゲン御破産』で彼を初めて知った私にとって、星野源はずっと俳優だった。

この表現者のキャリアを考えるとき、重要なのは、音楽活動においては、インストゥルメンタルバンドからスタートしていることではないだろうか。SAKEROCKの結成は2000年。星野源がひとりの歌い手としてデビューしたのは、それから10年後のことだった。

つまり、公式にひとりで歌い出すより先に、他者を演じていた。
おそらく、彼が演技者であることは、音楽家である彼に影響を与えている。
そして、彼が演奏家であったことは、彼の演技に影響を与えている。
そして、それらは、今、相互作用として、それぞれを補完し合っている。きっと。

公私を乳化する読み聞かせ

今年、デジタルののちにCDリリースされた楽曲「不思議」は、映画俳優、星野源をどう捉えるかについての大いなる気づきを与えてくれた。

星野源 – 不思議 (Official Video)

星野は、これまでもそうだったが、シャウトを避けている。アップテンポの曲でも、英語の曲でも、そうだ。叫ばない。歌い上げない。無論、コブシなどまわさない。

声質や声量によってそうなっているのではなく、これは明確に、そのように選択されている。意志と意思の発露だ。だが、囁くように、と表現するなら、ただのムードに堕す。星野源は、ムードを選んでいるわけではない。

それは、読み聞かせに近い。絵本や童話を、子供(たち)のために朗読する行為を、読み聞かせと云う。それは、プライベートな振る舞いであると同時に、極めてオフィシャルな(対外的、社会的な)行動だ。たとえ、自分の娘や息子に対して、あくまでも家庭内で行っていたとしても、そこでは、私的なものと公的なものが交錯しているし、混ざり合っている。

読み聞かせをしたことがある人なら、わかっているはずだ。あなたは、母親を演じている。あなたは、父親を演じている。あなたは、読み聞かせする大人を演じている。

彼は、公私を乳化する読み聞かせを、音楽と演技の双方で行っているのだ。

そして、このことは、彼が空前絶後の人気者であることの背景に、歴然と横たわっている。私たちは、彼の声を前に、読み聞かせされる子供(たち)と化しているのだ。

「不思議」は、この読み聞かせ唱法が極まっている。コロナ禍のリアルな(抽象濃度もかなり高めの)ラブソングとして、おそらく音楽史に記録される名曲だが、驚かされるのは、その発語。【地獄】という、めったなことでは口にできない語句が、いささか唐突に、しかし、平然とした面持ちで姿を現すが、これが言葉の意味だけでは捉えきれない優しさ、柔らかさで、無限の多様性がある。遠近感が歪み、そのあとに消失する。【地獄】の禍々しさが脱臼し、治癒してしまったかのような錯覚。

「不思議」は、別な意味でも衝撃だった。私は、この曲を何度も何度も聴くことで、映画俳優、星野源が放つ、底知れぬポテンシャルをようやく理解するに至った。

星野源は、演技を【完成させない】


この記事の画像(全7枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

相田冬二

Written by

相田冬二

(あいだ・とうじ)ライター、ノベライザー、映画批評家。2020年4月30日、Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』をスタート。国内の稀有な演じ手を毎回ひとりずつ取り上げ、縦横無尽に語っている。ジャズ的な即興による言葉のセッションは6時間以上に及ぶことも。2020年10月、著作『舞台上..

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太