歴史に残るべき音源「水川かたまり号泣プロポーズ」
借金やギャンブルという印象の強いもぐらさんの陰で、実はより激しい荒波に揉まれているのがかたまりさんだ。この3年半の印象的な出来事を手短に説明する。
彼女にフラれて、号泣しながらプロポーズをして、失敗して、1年後にはその彼女と復縁して、その後のプロポーズは成功して、幸せな結婚生活を送って、11カ月で離婚して、ビジュ爆発して、新しい彼女(ミニーちゃん)ができた。この間に『キングオブコント』の決勝進出や『踊り場』の枠移動もあったが、今回着目したいのはあくまでかたまりさんの人生だ。
『空気階段の踊り場』の神回といえば第79回「水川かたまり号泣プロポーズ回」だろう。
この放送が波紋を呼び、各所で話題となった。つらくて、悔しくて、悲しくて、苦しい、それでも愛する人に気持ちを伝える。人間剥き出しの声が収録された、歴史に残るべき音源である。
儚くて切ない展開に、心がムズムズした。恥ずかしくて、輝かしいと感じた。
そして、2020年に結婚。この瞬間、かたまりさんのストーリーはひとつ幕を下ろす。以前までの恋愛トークは聞けなくなり、家庭を持つふたりの安定したトークが聴けるようになるということ。これはとても感慨深く、同時に少しだけ心寂しかった。
展開が多くてめまいがするような人生
ところが結婚してわずか11カ月で離婚。人生そう簡単にうまくいかないのだと、16歳の私は思い知らされた。
ただ、ここでもやはりかたまりさんの進化が見えたと思う。今までなら事あるごとに大声を上げ、泣き叫んでいたかたまりさんだが、離婚発表のときは恐ろしく冷静であった。感情の整理がついていたにしても、あそこまで平静を保っていたのはすごい。大人になったね、という今まで味わったことのない感情が芽生えた。
しばらくは、恋愛もないか。またかたまりさんの恋の話もいつか聴きたいな、と思っていた矢先。離婚後わずか3カ月で新しい彼女ができたことが発覚。もはや、リスナーを楽しませるための人生であると言ってほしい。そうでないのであれば、たたみかけ過ぎている。展開が多くてめまいがする。そして、それが最高に楽しい。
新しい事実が発覚すると、すぐにみんなで寄ってたかって真相を聞く。こういうときのもぐらさんのジャーナリズム精神はすごい。リスナーが知りたいことをすべてかたまりさんにぶつけてくれる。
クラス内で隠れて付き合ったカップルが、次の日にはクラス中にバレている。そしてクラス中から茶化される。『踊り場』の空気感は、いつまでも学生のままな気もする。聴いている私も、クラスメイトの男の子を見ているときと同じ気分を味わっている。
空気階段の生き様が自分の原動力だ
「他人の不幸は蜜の味」というが『空気階段の踊り場』に対して思うのは「他人の幸も不幸も蜜の味」だということ。
ふたりが成功すること、売れることは当然うれしい。自分のことのように喜んでしまう。そして反対に、ふたりが苦労しているとき。申し訳ないとは思うが、この時間も楽しい。コンビ間でケンカしていても、つらい出来事に直面していても。
ラジオを通して俯瞰で見ていると、人間らしく必死にもがく姿に元気をもらえる。空気階段の生き様が自分の原動力だ。サイコゥサイコゥサイコゥ。テレビで空気階段を観るたびに、人は変われるのだと実感する。そして私も空気階段を追いかけてがんばろうと思えるのだ。
ふたりの人生をのぞき見していたつもりが、いつしか影響を受ける立場に変わっていた。本当に踊り場で踊らされているのは私たちなのだろうか。
連載「奥森皐月は傍若無人」は、毎月1回の更新予定です。
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