カメラの前に立ちはだかり、ネタの瞬間ものすごい存在感でエネルギーを放出するお笑い芸人。その姿はまるで気高い山のようだ。敬愛するお笑い芸人の持ちネタをワンシチュエーションで撮り下ろす、フォトグラファー正田真弘による連載「笑いの山脈」。本業はポカリスエット、カロリーメイト、どん兵衛、Netflixなど見たことある広告をいっぱい撮っている人。
ゴルゴ松本「命とLOVE」

自分のGmailの検索窓に“ゴルゴ松本”と入れると2017年11月のメールまで遡る。初めてゴルゴさんに撮影依頼をしてからおよそ3年半。その後もお互いスケジュールが合わず、ついにこの時がっ!といった思いだ。
「アイーン」「コマネチ」のようについついマネしたくなるこのポーズ。やってみるとひとたび、うちの子供たちも真似してウケも半端ない。
世代を超えて愛されている「命」。
思い返せば小学校のころ、黒板などにアイドルや好きな子の名前を書いて〇〇命と書くのが流行っていた。今では“推し”という言葉に変わったが、ゴクミ命だった30年前の自分が恥ずかしくも懐かしい。
そして当時こんな曲もあった、シブがき隊のシングル曲「Zokkon 命」。命と書いてLOVEと読む、ゾッコンラブ。80年代のキラキラ感がたまらない。
話を戻して撮影本番。「命の授業」が好きなので撮影場所は教室、黒板前に立ってもらった。
カメラは大判4×5、一連の動きでポーズを取ってもらいフィルム1枚目のシャッターを切る。漢字のとめ、はらいを感じる美しい指先と足先。神々しくて思わず唸ってしまった。
しかし、ピントが合っていないと感じた。
このカメラは構造上シャッターを切る前にピントを合わせておく必要があり、上半身がこんなに前傾になるとは予想していなかった。直立で合わせていた焦点距離をすぐに修正し、無事に8枚撮り収めた。
家に帰って前傾姿勢でやってみたもののフラついて立っていられなかった。今まで僕が真似してたポーズは「命」ではなく「令」だったのか。
前傾し心臓が前に出て本当の「命」のポーズになるとすると、ひょっとしてゴルゴさんはこのポーズで「LOVE」を叫んでいるのではないだろうか。
勝手な想像だが、この「命」は見たら本当にそう思えてきた。
ゴルゴ松本
1967年4月17日まれ、埼玉県出身。ワタナベエンターテインメント所属。1994年にレッド吉田と共にお笑いコンビ・TIMを結成。「命」や「炎」など漢字を体全体で表現したネタで知られる。2011年よりボランティアで少年院を訪問し、講演活動を始めると、漢字ネタを駆使した熱い授業が「命の授業」として感動を呼んだ。現在YouTubeでも配信中。