芸人版“ザ・ノンフィクション”「何かしらのきっかけで人生が変わるかもしれないキップを握りしめてるような気がして…」(てれびのスキマ)


昨日観た番組とそこで得た気づき、今日観たい番組などを毎日更新で綴る、てれびのスキマによる2021年のテレビ鑑賞記録。


『アメトーーク!』

鬼ヶ島・アイアム野田、だーりんず小田、5GAP、上木恋愛研究所・キューティー上木、レアレア桑折、神宮寺しし丸、TAIGA、ゆったり感・中村、ワンワンニャンニャン菊地という、この時間帯の地上波ではあり得ないようなメンバーで「40歳過ぎてバイトやめられない芸人」。

『キングオブコント』や『R-1』ファイナリストもいるが、「忙しいなか、みんなバイトのスケジュールを空けて来てるんですよ! 忙しさだけで言ったら全員チョコプラと同じくらいの忙しさ!」と5GAP久保田が言うように、夜勤明けやこの収録のあとバイトが入っているなど収入の大半がバイトという芸人たち。

まず最初に流れたのは、番組出演決定を伝える瞬間を撮影した『ザ・ノンフィクション』風の映像。ナレーションは小出真保。家族はもちろん、バイト仲間たちが心底うれしそうにしている姿はストレートに涙腺を刺激する。

野田が噛みまくったり、「初めてなんでしゃべるタイミングがわからなくて」とTAIGAがかかり気味だったりするものの、ダメな感じだけではなく、ベテランらしくしっかりとしたエピソードトークで笑いを取る力があることを見せる構成なのもよかったし、MC横ゲストのケンコバ、濱口のバランス感覚に優れた引き出し方も絶品だった。

やはり印象的なのは売れている芸人仲間とのエピソード。TAIGAが若林に番組出演を報告すると「売れてる人は皆、真面目で優しい人ばっかりだから、TAIGAさんは絶対売れますよ。良い歳こいて、まだまだ売れたいと思ってる。必死で、泥臭いTAIGAさんが、皆好きで、面白いから。くれぐれもスベるの怖がって、上手くやろうとしないで下さい。TAIGAさんは上手くないから。」というLINEが。

5GAP久保田は博多大吉に「お金がないんだったら俺がいくらでも貸してあげるから。俺はお前らのことが好きで、おもしろいから、何があっても『食えないから芸人を辞めます』は絶対に言わないでくれ」と言われたそう。しし丸はコロナでバイトができなくなったときに劇団ひとりから「劇団ひとり給付金」だとお金が振り込まれたことを明かす。

だーりんず小田は、『キングオブコント』で8位という不甲斐ない結果に終わり、翌日、小峠に「芸人辞めます」と伝えたところ、小峠から「お前さ、賞レースで優勝したくて芸人になったの? 違うよな。芸人さんがバラエティ出て、トークしたり体張ったりと、そういうのに憧れてお前芸人になったんだろ? 夢でもなかったことで失敗して辞めるっていうのは、違うと思う」と諭され号泣。小峠は「今日はお前と朝まで飲むって決めてたから、行くか」と付き合ってくれたという。

「諦めずにやってこられた理由」を問われ、レアレア桑折は「もう今さら(芸人を)辞めたとて、何も変わらないような気がして」「辞めてしまうと、ただの45歳フリーターじゃないですか。やってることによって、何かしらのきっかけで人生が変わるかもしれないキップを握りしめてるような気がして。これを離したらダメだと思って。で、辞めずにいます」と美談だけではすまない現実を語ると、5GAP秋本も「辞めてからの人生のほうが成功しない気がするんですよね」と語る。

「辞めた芸人がいると、その覚悟がすごいと思って尊敬するよね」と野田が言うように、芸人を辞めて新たな道に進むのも大きな覚悟と努力が必要。途中、ケンコバが言っていた「みんな戦ってんねん! それぞれの仕事で。芸人だけが戦ってるんとちゃうねんぞ!」という言葉が響く。

『やすとものいたって真剣です』

『アメトーーク!』とほぼ同じ時間帯、関西で放送されていたのは、とろサーモン村田による「ハリウッドザコシショウ密着ドキュメント」。スタジオゲストの陣内は同期のザコシショウについて「一番お笑いが好きやったもんね。中澤滋紀くん(ザコシの本名)。中澤滋紀くんが一番お笑いが好きやから、やっぱお笑いをずっとつづけてたら売れるんだって思ったもんね」と語ると、ともこも「滋紀くんはホンマまじめで、人を傷つけるのがホンマに嫌いやから」と言う。そんなザコシのお笑い好きで生真面目な部分がよく出たドキュメントだった。

が、それ以上に、彼を慕ういわゆる「ハリウッド軍団」を取り上げた部分が『アメトーーク!』とリンクしているような内容でとてもよかった。野田ちゃんは「やっぱちょっと、真剣に考えると(芸人を)辞めるって答えしかもう出ないじゃないですか。45歳で売れてないって。だから、あんま考えないように……」と語り、まだ撮影時点では『M-1』予選2回戦を突破したばかりだった錦鯉・長谷川は「26年間フリーターだなっていうのはどうしてもありますよね。芸人としては食べていけてないんで。よく26年もつづけてたなと今考えると思いますね」と言う。

相方の錦鯉・渡辺も「月収はどれくらい欲しいか」と問われ、「30万」と答える。それで満足なの?というような表情の村田に、「そうならざるを得ない生活を送ってるんで。30万はかなり僕の中では高い。夢ばっか見てらんないんで」と言って「今回の人生はそうだったんだなって、思うしかないですね。次人間に生まれたら、次こそは……」とつづける。

それがほんの数カ月後、『M-1』決勝進出して脚光を浴びて人生が劇的に変わるのだから、『アメトーーク!』で桑折が言っていた「何かしらのきっかけで人生が変わるかもしれないキップを握りしめてるような気がして」という言葉を思い出さずにはいられない。

『アメトーーク!』には相方の小田が出演していた、だーりんずの松本りんすは次の予定を聞かれ「競馬のメインレース。麻雀やるヤツ誘ってみてムリだったら発泡酒」と自堕落な生活を垣間見せる。

そんな後輩たちにザコシショウは「ギリギリ食えないラインでずっといてほしい」と笑う一方で、「たとえば一緒の仕事して一緒に飲みに行く。(りんすは)ベロベロになって家帰って1秒で寝るから。でも俺は家帰って動画撮って編集する。そこに差ができてるね」と真剣に語る。

「絵も好きだったし、音楽も好きだったけど、結局、一番得意だったのはお笑いだった。芸人を始めて1年で売れる人もいる。10年で売れる人もいる。俺みたいに24年で売れる人もいる。売れるタイミングなんてその人の持ってるもの。だから絶対あるんだよ、この先も。売れるタイミングは。諦めたらそこで終わっちゃう。諦めないのも才能だからね」

甘美な夢があるからこそ、過酷な現実に目を背けて辞めるに辞められない。そんななかで現実と向き合い、諦めずに日々の研鑽を重ね、長い時間をかけて夢を叶えた者もいる。

『アメトーーク!』も『真剣です』も芸人の愛と夢と現実と業が詰まった、美談だけでは語れない芸人の“ザ・ノンフィクション”だった。


今日観たい番組:宮藤官九郎脚本&長瀬智也主演『俺の家の話』がスタート

宮藤官九郎脚本、長瀬智也主演『俺の家の話』(TBS)、開始。

『かりそめ天国』(テレ朝)、「密にならない超穴場イルミネーションスポット3選」など。

『脱力タイムズ』(フジ)はパンサー尾形&桜井ユキ。

『金曜日のソロたちへ』(NHK)は「再現ドラマの女王&マユリカ中谷&尾張七宝の職人」。

『タモリ倶楽部』(テレ朝)は「オンライン鉄道旅行 大試乗会」後編。

『ダウンタウンなう』(フジ)に真木よう子、野呂佳代。

『A-Studio+』(TBS)に柄本佑。

『ドキュメント72時間』(NHK)は「冬の焼きいも店 ぬくもりの先に」。

『ジロジロ有吉』(TBS)は「阿佐ヶ谷姉妹・美穂の衝撃告白」。

山口紗弥加主演『ドリームチーム』(NHK)、開始。



  • 【連載】きのうのテレビ(てれびのスキマ)

    毎夜ライフワークとしてテレビを観つづけ、テレビに関する著書やコラムを多数執筆する、てれびのスキマによる連載。昨日観た番組とそこで得た気づき、今日観たい番組などを毎日更新で綴る、2021年のテレビ鑑賞記録。

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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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