新連載 岩井秀人「ひきこもり入門」【第1回前編】「外に出る」って、そんなに正しいですか?

2020.5.13

ひきこもりは、誰にでも訪れる可能性のある季節のようなもの

この新型コロナウィルスの最中でも、多くの人が「過去最大級に、家に閉じこもる」ということを経験している。家から出ない。というシンプルな状態が、意外とストレスになるということも、多くの人が感じているはずだ。「出たい。でも出られない」という状態。これはまさにひきこもりの感覚だ。「出たくない」だけの心情ではないのだ。「出たい」と思いながらも「出られない」のだ。現状の自粛生活の我々とひきこもり。外に出られない理由に違いはあれど、葛藤自体はとても似ていると思う。「社会に参加していない自分」ということ自体に、みんなが不安と焦りを感じている。

ひきこもりを「自分とまったく違うやばい存在」と思っている人も多いが、僕は「誰にでも訪れる可能性のある季節のようなもの」なのだと思っている。

ある講演先の施設では転校先の小学校でいじめられて学校に行けなくなり、その後中学校でもいじめられてひきこもりになってしまったという子の話を聞いた。これを世の中が「ひきこもり」と名づけ、挙げ句「事件を起こす、または犯罪者予備軍」とすぐに規定しようとすることは本当に恐ろしいことだと思う。小学校でいじめられ、それでもがんばってなんとか卒業したあと、中学でもいじめられるという経験をし、家を出たくなくなった子供に、「外に出なさい」と、誰が言えるのだろう。社会にネガティブな要因があって家にこもるのは自然なことだ。

講演のあとに声をかけてくれ、自分自身のことを話してくれる人もいた。

3年ほどひきこもっていた経験があるというその人は、僕がその日「なんの問題もなく今の社会に適応できるほうが僕にとっては異常だと感じる」と話したのを聞き、「自分が思っていたのはそういうことだったんだ。救われたと思った」と伝えてくれた。こういうときに「あぁ、演劇の外で話をしてみて、本当によかった」と思える。

話をしに行く先では、そうやってなるべくいろいろな人の話を聞くようにしている。演劇でも同じだが、自分がやっている、やろうとしていることの本当の意味はその最中ではまだ、わからない。いつも時間が経ってから「なぜ、そうしたのか」がだんだんとわかってくる。

だから今も、いろいろな人と話し、事情を聞き、その積み重ねがある程度溜まったときに、自分が本当に何をしようとしていたのかがわかるのかもしれない。

自分にとってひきこもりとはなんなのか、そのことをもう一度考えたい。

そして今、ひきこもっているあなたへ、その家族であるあなたへ、何かが少しでも届けられることができればと思っている。


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    岩井が代表を務める「WARE」では、これまでのイベントやハイバイ過去公演の映像を配信中。
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  • 【連載】ひきこもり入門(岩井秀人)

    作家・演出家・俳優の岩井秀人は、10代の4年間をひきこもって過ごした。
    のちに外に出て、演劇を始めると自らの体験をもとに作品にしてきた。
    昨年、人生何度目かのひきこもり期間を経験した。あれはなんだったのか。そしてなぜ、また外に出ることになったのか。

    自分は「演劇ではなく、人生そのものを扱っている」という岩井が、自身の「ひきこもり」体験について初めて徹底的に語り尽くす。

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