二宮和也主演映画など邦画が豊作!2022年12月のオススメ映画

2022.12.9

映画ファン必見の12月公開予定作をラインナップ! 映画評論家・映画ライターのバフィー吉川がセレクト&推薦する、注目の映画作品をお届けします。

どんな苦境にも生きることを諦めなかった男を襲ったものは病だった……『ラーゲリより愛を込めて』

(c)2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 (c)1989 清水香子
(c)2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 (c)1989 清水香子

監督:瀬々敬久
脚本:林民夫
出演:二宮和也、北川景子、松坂桃李、中島健人、寺尾聰、桐谷健太、安田顕ほか
2022年12月9日(金)全国東宝系にてロードショー

ストーリー

第二次大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界・シベリア……。わずかな食料での過酷な労働がつづく日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男はいた。「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやってきます」絶望する捕虜たちに彼は訴えつづけた……。身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻・モジミや4人の子供と一緒に過ごす日々が訪れることを信じ、耐えた。劣悪な環境下では、日本人同士の争いも絶えなかった……。

おすすめポイント

どんな絶望や苦境に立たされても家族との再会を夢見て、生きたいと願いつづけた山本という男がいた。家族に会いたい、ただそれだけのことが叶わない時代。生きているのかもわからず不安に押し潰されそうな日々の中でも、家族の無事を信じつづけた男を襲ったのは病だった……。

生きる気力を失いかけていた者たちも、山本の「生きたい」という意思の強さに心を打たれていくなかで、生きたまま家族と再会が不可能と悟った山本に何ができるかと考えた結論は涙なしには観ることができない。

妻を、子供を残したまま逝かなければならない、無念と悲しみ、怒りなどが入り混じった山本の複雑な心情を、自身も先日第二子を授かったばかりで家族の大切さを知る二宮和也が体現する。

現実に引き戻そうとする者たちが現実ではない違和感『MEN 同じ顔の男たち』

(c)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
(c)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督・脚本:アレックス・ガーランド
出演:ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ、ゲイル・ランキン、サラ・トゥーミィほか
2022年12月9日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

ストーリー

ハーパー(ジェシー・バックリー)は夫ジェームズ(パーパ・エッシードゥ)の死を目の前で目撃してしまう。彼女は心の傷を癒やすため、イギリスの田舎街を訪れる。そこで待っていたのは、豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリー(ロリー・キニア)。ハーパーが街へ出かけると、少年、牧師、そして警察官など出会う男たちが管理人のジェフリーとまったく同じ顔であることに気づく。街に住む同じ顔の男たち、廃トンネルからついてくる謎の影、木から大量に落ちる林檎、そしてフラッシュバックする夫の死。不穏な出来事が連鎖し、“得体の知れない恐怖”が徐々に正体を現し始める……。

おすすめポイント

精神的な救済を求め、静かな田舎にやってきた主人公が、そこで自分の傷をさらにえぐられることになる。

現実逃避をしたい主人公に対して、現実には思えない同じ顔の男たちが、現実に引き戻そうと近づいてくるが、それは幻覚にしか思えないようなものばかり。つまり、現実ではないものが、現実に引き戻そうとする違和感と恐怖に満ちているのだ。彼らは、主人公の目線から見た屈折した男性像が具現化した姿なのか。そして、それが意味するものは、自分の視点だけで物事を判断することへの危険性を表しているのだろうか。

そもそも、同じ顔の男たちを演じているロリー・キニアがジェシー・バックリーに少し似ているだけに、その男たちの顔が主人公の顔にもダブって見えるのも狙った演出なのか、偶然なのか。見事なキャスティングだ。

単なるドラマの映画化ではない!離島医療切迫問題を真正面から描く『Dr.コトー診療所』

(c)山田貴敏 (c)2022映画 「Dr.コトー診療所」製作委員会
(c)山田貴敏 (c)2022映画 「Dr.コトー診療所」製作委員会

監督:中江功
脚本:吉田紀子
出演:吉岡秀隆、柴咲コウ、時任三郎、大塚寧々、髙橋海人、生田絵梨花、大森南朋、泉谷しげる、筧利夫、小林薫ほか
2022年12月16日(金)全国東宝系にてロードショー

ストーリー

日本の西の端にぽつんとある美しい島・志木那島。本土からフェリーで6時間かかるこの絶海の孤島に、東京から19年前にやってきた五島健助=コトー(吉岡秀隆)。以来、島に“たったひとりの医師”として、島民すべての命を背負ってきた。長い年月をかけ、島民はコトーに、コトーは島民に信頼を寄せ、今や彼は、島にとってかけがえのない存在であり、家族となった。数年前、長年コトーを支えてきた看護師の星野彩佳(柴咲コウ)と結婚し、彩佳は現在、妊娠7カ月。もうすぐ、コトーは父親になる……。

おすすめポイント

テレビシリーズのキャストのその後を観る同窓会的な作品でありながら、新キャラクターも自然に溶け込んでいて違和感がまったくない。特にKing & Princeの髙橋海人が演じる織田判斗は、島の状況を俯瞰的に見る立場として機能しており、少し冷たい感じに見えるかもしれないが、言っていることは正論そのもの。

そんなときに、理想と現実の厳しさを痛感するしかない事件が起きてしまうことで、テレビシリーズから描きつづけてきた離島医療切迫問題を真正面から描き、そして、さらに人が人を救うことの意味を問いただすものとなっていることから、単なるドラマの劇場版に留まってはいないのも特徴的だ。

イギリスを代表するミュージカルスターたちの豪華共演!『トゥモロー・モーニング』

(c)Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
(c)Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

監督:ニック・ウィンストン
原作・脚本・音楽:ローレンス・マーク・ワイス
出演:サマンサ・バークス、ラミン・カリムルー、ジョーン・コリンズ、フラー・イースト、ハリエット・ソープ、ジョージ・マグワイアほか
2022年12月16日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

ストーリー

ロンドンの夕暮れ時。ひとりの男とひとりの女が、孤独の中で愛と人生について思いを巡らせている。ふたりの名はビル(ラミン・カリムルー)とキャサリン(サマンサ・バークス)。翌日の朝に離婚調停の審理を控えた、結婚10年目の夫婦だ。明日の朝にはすべてが変わってしまう。こんな日を迎えるなんて、あのときは夢にも思わなかった。幸せいっぱいだった、10年前のあの日には……。

おすすめポイント

2006年にロンドンで初演され、それ以降も人気の高いミュージカル『トゥモロー・モーニング』がついに映画化!

『glee』のリア・ミシェルやテイラー・スウィフトといったそうそうたる候補者の中で、『レ・ミゼラブル』(2012)のエポニーヌ役を勝ち取ったサマンサ・バークス、アンドリュー・ロイド=ウェバー作品では常連のラミン・カリムルーといったイギリスを代表するミュージカルスターが多数出演しているだけでも豪華極まりないが、さらに友人役として元アディクティブ・レディーズのフラー・イーストも参加していることからも歌唱シーンのクオリティは間違いなし!!

結婚前夜と10年後の離婚前夜という真逆の心境を対比として描いていて、出会いと別れが逆行する『ラスト5イヤーズ』(2014)と『マリッジ・ストーリー』(2019)を合わせたようでもあり、皮肉に満ちていると感じるかもしれない。

しかし、形は違っていたとしても、相手を想う気持ちが同じ方向に向かっていく構造が巧妙で、自分ではなく、相手を一番に想う気持ちの大切さに気づくことで、結果的に自分も幸せになれるという優しい物語に着地しているのは見事。

なぜ人はマジョリティで縛ろうとするのだろうか……『そばかす』

(C)2022「そばかす」製作委員会
(C)2022「そばかす」製作委員会

監督:玉田真也
企画・原作・脚本:アサダアツシ
出演:三浦透子、前田敦子、伊藤万理華、伊島空、前原滉、前原瑞樹、浅野千鶴、北村匠海(友情出演)、田島令子、坂井真紀、三宅弘城ほか
2022年12月16日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開

ストーリー

私・蘇畑佳純(そばた・かすみ)、30歳。チェリストになる夢を諦めて実家に戻ってはや数年。コールセンターで働きながら単調な毎日を過ごしている。
妹は結婚して妊娠中。救急救命士の父は鬱気味で休職中。バツ3の祖母は思ったことをなんでも口にして妹と口ゲンカが絶えない。そして母は、私に恋人がいないことを嘆き、勝手にお見合いをセッティングする。私は恋愛したいという気持ちが湧かない。だからって寂しくないし、ひとりでもじゅうぶん幸せだ。でも、まわりはそれを信じてくれない。恋する気持ちは知らないけど、ひとりぼっちじゃない。大変なこともあるけれど、きっと、ずっと、大丈夫。進め、自分。

おすすめポイント

いわゆるキラキラ映画のヒロイン像から脱却したようなテイストではあり、しかしそれこそがリアルな人間描写といったメッセージが込められた『わたし達はおとな』『よだかの片想い』につづく、「(not) HEROINE movies」の第3弾。『ドライブ・マイ・カー』の演技で世界中から注目を集めた三浦透子の単独初主演作である。

男性との出会いがないわけでもない、きっかけもないわけでもない。だけど恋愛感情も性欲もない女性。かといって同性愛者でもない。しかし、まわりがそれを普通じゃないと決めつける。そもそも、それが普通じゃないと誰が決めたのだろうか。普通って何?

そうやって、なぜ人は、マジョリティで人を縛ろうとするのだろうか。説明ができないのにもかかわらず、多数派だからというだけで“あたりまえ”になってしまっている価値観や概念の不安定さを真っ向から描いている。ただ、どこかに理解してくれる人は必ずいるし、恋愛や結婚という概念に縛られず、他者と交じり合わずとも並行線上に関係を築く関係だってあってはいいのではないだろうかという希望も同時に描いている。

恋愛だけに限らず、社会的概念や価値観が重たいと思っている人にとって、少しでも肩の荷が下りるような気分になる。そんな作品だ。

前作から直結の続編にして世界観が無駄に拡張!!『真・事故物件パート2/全滅』

(c)2022 REMOW
(c)2022 REMOW

監督:佐々木勝己
脚本:佐々木勝己、久保寺晃一
出演:窪田彩乃、小野健斗、海老野心、ヨウジ ヤマダ、石川涼楓、御法川イヴほか
2022年12月23日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

ストーリー

前作は、序章でしかなかった。本当の地獄がここから始まる。事故物件で繰り広げられる恋愛リアリティ番組が、想像を絶する鮮血のスプラッター・カーニバルと化す! 残虐非道のその先へ──もっと血まみれ、さらに極悪。超絶バイオレンス・ショッカー! 戦慄怒涛の第2弾! 奇跡の大ヒットを受け、製作費倍増! 血肉大増量!!

おすすめポイント

前作『真・事故物件/本当に怖い住民たち』(2021)から直結する物語となっており、海外カルトホラーへのオマージュも相変わらず満載で、ホラーマニアはもちろん必見ではあるが、一般ウケするかというと……。

前作の加害者目線で物語が展開され、視点としては非常におもしろく、『マーダー・ライド・ショー』(2003)の1作目が被害者目線だったのに対して、その続編の『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』(2005)が加害者目線に切り替わるのを思い出させる。あと『悪魔のいけにえ2』(1986)も。

謎になっていた部分はさらに謎が深まり、世界観は無駄に拡張。ついには『貞子vs伽椰子』(2016)のような展開に発展。それでもなぜだろうか、おバカ度が増したほうがホラーらしくなったと思うのは……。

コンプライアンスが叫ばれる世の中で、血肉が飛び散るゴア描写を追及した攻めた作品であり、生理的に受け付けない人も多いかもしれないが、こういう道を追及する監督が何人かはいてもいいのではないだろうか。

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