女性が主人公の映画に注目!2022年11月のオススメ映画

2022.11.12

映画ファン必見の11月公開予定作をラインナップ! 映画評論家・映画ライターのバフィー吉川がセレクト&推薦する、注目の映画作品をお届けします。


アルモドバル作品とペネロペのつながりは濃くて赤い『パラレル・マザーズ』

(c)Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU.
(c)Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU.

脚本・監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノほか
11/3(木・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、新宿シネマカリテ ほか公開

ストーリー

フォトグラファーのジャニスと17歳のアナは、出産を控えて入院した病院で出会う。共に予想外の妊娠で、シングルマザーになることを決意していたふたりは、同じ日に女の子を出産し、再会を誓い合って退院する。だが、ジャニスはセシリアと名づけた娘と対面した元恋人から、「自分の子供とは思えない」と告げられる。そして、ジャニスが踏み切ったDNAテストによって、セシリアが実の子ではないことが判明する。アナの娘と取り違えられたのではないかと疑ったジャニスだったが、激しい葛藤の末、この秘密を封印し、アナとの連絡を絶つことを選ぶ。それから1年後、アナと偶然に再会したジャニスは、アナの娘が亡くなったことを知らされる……。

おすすめポイント

スペインの鬼才ペドロ・アルモドバルの新作。毎度のことながら母という存在への強い想いが反映された物語であり、色彩の中心にあるのは赤。アート色も強く、監督自身の性的嗜好や実体験なども強く反映され、背景を知らないと難解な部分も多いアルモドバル作品の中では、本作は、比較的わかりやすい構造で娯楽性も強い。

しかし、それと同時に、スペイン人の心の中にトラウマとしてある内戦時のフランコ政権の問題が強く反映されている社会派な側面もある。巧妙なバランスの作品だ。

内戦と主人公ジャニスがどうつながるか。ジャニスは母であると同時に、内戦によって離れ離れになった家族を戻してあげたいという意思が強い女性でもある。つまり、母としての葛藤とスペイン人としての葛藤を闘わせているのだ。その点を踏まえて観ることで、今作をより深く理解できるだろう。

そんなジャニスという女性を体現するのが、『ボルベール〈帰郷〉』(2006)や『あなたのママになるために』(2015)など、多数の作品において“強い母”を演じてきたペネロペ・クルスだ。アルモドバルの半自伝的作品の前作『ペイン・アンド・グローリー』(2019)でも母としてペネロペを起用していたことも、アルモドバル作品と強いつながりを感じる。

幸せだけど違和感だらけの生活。それは本当に現実なのか……『ドント・ウォーリー・ダーリン』

(c)2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
(c)2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

監督:オリビア・ワイルド
脚本:ケイティ・シルバーマン
出演:フローレンス・ピュー、ハリー・スタイルズ、オリビア・ワイルド、ジェンマ・チャン、キキ・レイン、ニック・クロール、クリス・パインほか
11月11日(金)日本公開

ストーリー

完璧な生活が保証された街で、アリス(フローレンス・ピュー)は愛する夫ジャック(ハリー・スタイルズ)と平穏な日々を送っていた。ある日、隣人が赤い服の男たちに連れ去られるのを目撃する。それ以降、彼女のまわりで頻繁に不気味な出来事が起きるようになる。次第に精神が乱れ、周囲からもおかしくなったと心配されるアリスだったが、あることをきっかけに、この街に疑問を持ち始める……。

おすすめポイント

一見理想的な家、恋人、ご近所さん。セレブのような暮らしをしながらも、何か違和感がある。いつから住んでいるのだろうか、そもそも夫はなんの仕事をしているのだろうか……。そんな主人公アリスの探求心が思わぬ事態を引き起こすことになる。

『ステップフォードの妻たち』(1975)や『サバービコン 仮面を被った街』(2017)、近年ではMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)ドラマ『ワンダヴィジョン』(2021)のような巨大な違和感と陰謀が渦巻く作品との共通性を感じつつも、より現代的なテーマを描いているのも注目すべき点だ。

そして、オリビア・ワイルドの長編監督作品第2弾となる今作。前作の『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019)が、映像的な部分では、比較的無難な作りで、ストーリーを見せるものだったのに対して、今作ではオリビアの冒険心が大きく反映されており、サイケデリックな映像がSF要素を際立たせている。そういった演出には、彼女が過去に、エドワード・シャープ・アンド・ザ・マグネティック・ゼロズやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのミュージック・ビデオを監督した経験が大きいといえるだろう。

SSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)の新作『スパイダーウーマン』の監督候補に挙がるなど、今後の活躍が期待できる女優兼監督のひとりだ。

社会風刺が隠し味のグルメエンタメホラー『ザ・メニュー』

(c)2022 20th Century Studios. All rights reserved.
(c)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

監督:マーク・マイロッド
脚本:ウィル・トレイシー、セス・リース
出演:レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト、ホン・チャウ、ジャネット・マクティア、ジョン・レグイザモほか
11月18日(金)全国ロードショー※日米同時公開

ストーリー

太平洋岸の孤島を訪れたカップル(アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト)。お目当ては、なかなか予約の取れない有名シェフ(レイフ・ファインズ)が振る舞う、極上のメニューの数々。 「ちょっと感動しちゃって」と、目にも舌にも麗しい、料理の数々に涙するカップルの男性。しかし、カップルの女性のふとした違和感をきっかけに、レストランは徐々に不穏な雰囲気に。 なんと、ひとつ一つのメニューには想定外の「サプライズ」が添えられていた……。果たして、レストランには、そして極上のコースメニューには、どんな秘密が隠されているのか? そしてミステリアスな超有名シェフの正体とは……?

おすすめポイント

セレブや著名人が集まる謎のレストラン。味はもちろん、個性的過ぎる演出で味覚的にも視覚的にも楽しませる。そんなグルメエンタテインメントかと思いきや……大間違い!!

プロデューサーとして『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015)や『ドント・ルック・アップ』(2021)のアダム・マッケイが参加していることから、そんなストレートな作品ではなく、社会風刺作になっていることは言うまでもなく、富裕層や社会システムへの不満が満載だ。

アダム・マッケイは、コメディの中に政治や経済、世相を大きく反映させることで、「現実としては笑えないけど、笑えるコメディ」の天才。そして今作の監督を務めるマーク・マイロッドも『アリ・G』(2002)や『運命の元カレ』(2011)など、コメディ映画やバラエティ番組を多く手がけてきた監督であり、マークもまた、社会風刺色が強いのが特徴的だ。

ジョーダン・ピールやアイク・バリンホルツのように、コメディ出身者がホラーを撮ると、スラッシャーやスプラッター的なホラーではなく、身近な恐怖になることが多いのは、フィクションよりも現実のほうが恐ろしいということなのだろう……。

観客の視点を巧みに利用した構造がミスリードに導く『ザリガニの鳴くところ』

監督:オリヴィア・ニューマン
脚本:ルーシー・アリバー(『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』)
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ、テイラー・ジョン・スミス、ハリス・ディキンソン、マイケル・ハイアット、スターリング・メイサー・Jr.、デヴィッド・ストラザーンほか
11月18日(金)全国の映画館で公開

ストーリー

1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で、裕福な家庭で育ち将来を期待されていた青年の変死体が発見された。容疑をかけられたのは、「ザリガニが鳴く」といわれる湿地帯でたったひとり育った、無垢な少女カイア。彼女は6歳のときに両親に見捨てられ、学校にも通わず、花、草木、魚、鳥など、湿地の自然から生きる術を学び、ひとりで生き抜いてきた。そんな彼女の世界に迷い込んだ、心優しきひとりの青年。彼との出会いをきっかけに、すべての歯車が狂い始める……。法廷で少しずつ語られていく、カイアが辿ってきた想像を絶する半生。浮かび上がる殺人の動機と、一向に見つからない決定的証拠。事件の真相に辿り着いたとき、タイトル「ザリガニの鳴くところ」に込められた本当の意味を知ることになる──。

おすすめポイント

S・S・ラージャマウリ監督も『RRR』にキャスティングしたかったと公言した、若手実力派女優デイジー・エドガー=ジョーンズの演技力に注目の今作。

高圧的で暴力も振るう父のもとから、母や兄、姉も出ていき、ついには父までもが出ていった湿地の家でひとり住むことになったカイア。学校にも行けず、サバイバルのような生活をしながら、有り余る時間の中で湿地に住む動物や昆虫、植物を観察し、描いていたが、それが出版社に認められる。サクセス・ストーリー、もしくは『きみに読む物語』(2004)のような恋物語かと思って観ていると、全然違うミステリーに向かっていく。

ストーリーと演出が、観る側の固定概念を巧みに利用した構造となることでミスリードしており、まんまと騙されてしまう……。

全体的なストーリーはフィクションではあるが、原作者のディーリア・オーエンズが動物学者ということもあって、動植物の細かい描写について、自分自身や母の体験が元になっている部分が多いのも特徴的だ。

狂気と悲しみが共存した戸田恵梨香の演技から目が離せない『母性』

(c)2022映画「母性」製作委員会
(c)2022映画「母性」製作委員会

監督:廣木隆一
脚本:堀泉杏
出演:戸田恵梨香、永野芽郁、三浦誠己、中村ゆり、山下リオ、高畑淳子、大地真央ほか
11月23日(水・祝)全国ロードショー

ストーリー

女子高生が自ら命を絶った。その真相は不明。事件は、なぜ起きたのか? 普通に見えた日常に、静かに刻み込まれた傷跡。愛せない母と、愛されたい娘。同じ時・同じ出来事を回想しているはずなのに、ふたりの話は次第に食い違っていく……母と娘がそれぞれ語る恐るべき「秘密」。ふたつの告白で事件は180度逆転し、やがて衝撃の結末へ。母性に狂わされたのは母か? 娘か? ……この物語は、すべてを目撃する観客=【あなたの証言】で完成する。

おすすめポイント

母になるということは、どういうことだろうか。自分にも親がいるわけで、子供を身ごもったからといって、娘から母にスイッチのように切り替えることなどできるのだろうか。気持ちの切り替えがうまくいかない場合だってあるはずだ。

子と親の目線を交互に描くことで、見え方、感じ方の違いを描きながら、人間に備わる「母性」とはいったいなんなのかを改めて考えさせる。と同時に、人間性の構築において、教育と価値観の重要性も秘めた重厚な作品だ。

『そして、バトンは渡された』(2021)や『マイ・ブロークン・マリコ』(2022)などでも見せた永野芽郁の演技力もさることながら、今作は、戸田恵梨香の演技が極致に達している。どんどんやつれていく顔には、愛したいのに愛せない……そんな狂気と悲しみが共存していて、怖さよりも切なさを強く感じた。

コロナ過のもやもやを女子高生のサイキックバトルで消費!?『メイヘムガールズ』

(c)2022 ARTHIT CO,. LTD.
(c)2022 ARTHIT CO,. LTD.

監督:藤田真一
脚本:なかやまえりか、藤田真一
出演:吉田美月喜、井頭愛海、神谷天音、菊地姫奈、木戸大聖、内田奈那、生稲晃子、大浦龍宇一、カンニング竹山ほか
11月25日(金)より全国公開

ストーリー

ソーシャルディスタンスとマスク着用が終わらない感染拡大下の日本。高校生になった瑞穂は、文化祭中止が発表されたその日に突然、念動力が身についたことから、刺激のない日常が、サスペンスと恋に満ちた非日常に変わってゆく。同じクラスで、テレパスの才能を持った環、瞬間移動を使いこなすあかね、ネット世界を自在に飛び回るケイも集まり、4人の少女は新しい友情を育んでゆく。しかし、瑞穂の元家庭教師の祐介が超能力に目をつけたことから、4人は暴走。大都市・東京を舞台にしたサイキックバトルが始まる。

おすすめポイント

コロナパンデミックによって日常が奪われてしまった女子高生。戻れない日々の残像が、青春真っ盛りだったはずの彼女たちを苦しめている。そんななかで突然、超能力が覚醒。コロナ禍からの解放感、自由への憧れ、理不尽な大人へのイラ立ちのメタファーとして、サイキックバトルが描かれている。

一方で、コロナ禍だったからこそ出会えた友達や仲間もいる。日常に戻りたい気持ちと戻りたくない気持ちが混在した複雑な感情の中で葛藤する繊細な心理描写は、世相をリアルに反映させたものに感じられる。

女子高生のサイキックバトルということで、画的には魅力的で、『クロニクル』(2012)を彷彿とさせる物語ではあるぶん、見どころは多い作品ではあるものの、映像技術が追いついていないのが最大の難点だ。


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