【注目作めじろ押し!】2022年6月のオススメ映画情報
映画ファン必見の6月公開予定作をラインナップ! 映画評論家・映画ライターのバフィー吉川がセレクト&推薦する、注目の映画作品をお届けします。
目次
くせ者キャラが加わって、さらにパワーアップ!『極主夫道 ザ・シネマ』
監督:瑠東東一郎/脚本:瑠東東一郎、宇田学
出演:玉木宏、川口春奈、志尊淳、古川雄大、玉城ティナ、松本まりか、滝藤賢一、安達祐実、吉田鋼太郎、稲森いずみ、竹中直人ほか
6月3日(金)公開
ストーリー
かつて“不死身の龍”と恐れられた伝説の極道・龍は美久との結婚を機に足を洗い、最強の専業主夫として血のつながらない娘・向日葵と3人で穏やかに暮らしていた。そんなある日、街に近藤率いる極悪地上げ屋が現れる。
彼らが狙うのは、白石が園長を務める「かりゅう保育園」の土地。近藤の手下による執拗な嫌がらせはつづき、龍は元舎弟の雅と用心棒を買って出るが、近藤たちの行動はエスカレートしていく。龍は抗争を終わらせるため、すべてにケリをつけるために“史上最大の夏祭り”を開幕する……。
おすすめポイント
2020年に放送されたドラマ『極主夫道』(日本テレビ)の劇場版であるが、テレビシリーズを観ていない層にも理解できる内容になっているため、劇場版から入ったあとにドラマを観るという流れでもまったく問題ない。また、総集編のような仕上がりにもなっていないのがうれしい。
ギャグ漫画などによくあるような、各キャラクターの勘違いが連鎖することで巻き起こる展開が見られるあたりも、ベタでありながら単純に楽しめる要素だ。
『すばらしき世界』(2020)や『ヤクザと家族 The Family』(2021)などのようなリアルを追及した近作とは異なり、ここぞとまでにステレオタイプなヤクザ像を描く本作。しかし、現実社会で肩身の狭い立ち位置にいる人間を描いているあたりからは、社会に対する鋭い視線が感じられる。
ドラマ版にも出演していたおなじみのキャストに加え、劇場版では松本まりか、安達祐実、吉田鋼太郎らが演じるくせ者キャラが新たに参戦し、さらにカオスな展開となっていくところにも注目!
リアルな恐怖と緊張感が押し寄せる『ニューオーダー』
監督・脚本:ミシェル・フランコ
出演:ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド、ディエゴ・ボネータ、モニカ・デル・カルメンほか
6月4日(土)渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ストーリー
夢にまで見た結婚パーティー。マリアンにとって、その日は人生最良の一日になるはずだった。裕福な家庭に生まれ育った彼女を祝うため豪邸に集うのは、着飾った政財界の名士たち。一方、マリアン宅からほど近い通りでは、広がり続ける貧富の格差に対する抗議運動が、今まさに暴動と化していた。その勢いは爆発的に広がり、ついにはマリアンの家にも暴徒が押し寄せてくる。華やかな宴は一転、殺戮と略奪の地獄絵図が繰り広げられる。そして運良く難を逃れたマリアンを待ち受けていたのは、軍部による武力鎮圧と戒厳令だった。電話や通信網は遮断され、ついさっきまで存在していたはずの法と秩序は崩壊、日常が悪夢に変わる。だが、“最悪”はまだ始まったばかりだ……。
おすすめポイント
一見すると、単なるディストピアものに感じられるかもしれない本作。しかし武装勢力や暴動により平和な日常が崩れ去るという現実にも起こり得る内容からは、フィクションだからと安心して観ていられないリアルな恐ろしさと緊張感がある。
監督は、過去に『父の秘密』(2012)や『母という名の女』(2017)といった、繊細な人間ドラマを作ったミシェル・フランコ。彼が持ち味とする心理描写が、見事にスリラーへ活かされた一作。
アニメでしか伝えられない、難民の悲惨な現実『FLEE フリー』
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン
製作総指揮:リズ・アーメッド、ニコライ・コスター=ワルドー
6月10日(金)新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開
ストーリー
アフガニスタンで生まれ育ったアミンは、幼いころ、父が当局に連行されたまま戻らず、残った家族と共に命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たったひとりでデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。
だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。
あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める……。
おすすめポイント
本作の主人公・アミンは実在の人物であるからこそ、難民としての過酷さや自身が同性愛者であることを映画を通じて公表してしまうと、アフガニスタンの家族や親戚が殺される危険性がある。そのため、本作はアニメーションのかたちをとったドキュメンタリーという斬新な作品となった。
ズバッと切り込む高校生の姿が清々しい『君たちはまだ長いトンネルの中』
監督・脚本・製作総指揮:なるせゆうせい
出演:加藤小夏、北川尚弥、定本楓馬、蒼木陣、高橋健介、川本成、萩野崇、川村エミコ、モト冬樹、かとうかず子ほか
6月17日(金)より池袋HUMAXシネマズ他全国順次公開
ストーリー
元財務省の父、高橋陽一郎の影響を受けていた高橋アサミは、高校3年生にして、政治に対し人一倍強いイデオロギーを持っていた。それゆえ、政治経済の授業でも、疑問に思ったことを先生に問いかけ、論破するほど。外部相談役の二階堂議員から注意を受けても、自分で調べ辿り着いた答えを曲げることはなかった。
とはいえ、アサミはまだ高校生。彼女ひとりでこの国を救えるわけもなく、自分にできることといえば、父が他界したのち面倒を見てもらっている親戚・長内夫婦の店や、衰退していく商店街を少しでも盛り上げることぐらい。最初の頃、アサミをクラスの厄介者だと思っていた同級生の安倍や中谷も、少しでも自分たちの未来を明るくしたいと奮闘するアサミの姿や行動を見ているうち、次第に応援するようになる……。
おすすめポイント
「理由はよくわからないけど、国がそう言ってるから~」と言う大人の曖昧さに、ズバズバと切り込みながら論破していく女子高生の清々しい姿が描かれた作品。
大人になったら言えなくなってしまう、不都合な真実の数々。それに対して、何物にも毒されていない高校生ゆえの、右でも左でもない、おかしいことはおかしいと言える真正面さ。これこそが政治に向けられるべき姿勢だと、本作を通じ改めて実感する。そういった意味では、教育現場で観せるべき作品といえる(かなり嫌がられるだろうが)。
現代にこのテイストは“あえて”……なはず⁉『ザ・ロストシティ』
監督:アダム・ニー&アーロン・ニー
脚本:アダム・ニー&アーロン・ニー、オーレン・ウジエル、デイナ・フォックス
出演:サンドラ・ブロック、チャニング・テイタム、ダニエル・ラドクリフ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ブラッド・ピットほか
6月24日(金)全国ロードショー
ストーリー
人生にうしろ向きな恋愛小説家ロレッタ。ロマンティックな冒険モノの新作がようやく完成したが、新刊の宣伝ツアーにイヤイヤながら強引に駆り出されてしまう。そこでは、彼女の作品の主人公「ダッシュ」を演じるセクシーカバーモデル、アランの薄っぺらな態度が鼻につき、イライラ絶頂!
そんなロレッタの前に謎の億万長者フェアファックスが現れ、突然南の島に連れ去られることに。なんと、彼はロレッタの小説を読んで、彼女が伝説の古代都市「ロストシティ」の場所を知っていると確信したのだった。
そんなロレッタ誘拐事件を知り、南の島に真っ先に駆けつけたのは、目の前で助けられなかったことを悔やむあのウザいモデルのアラン。精鋭を味方に島へと辿り着き、ロレッタを探し出せたまではよかったが、まるっきり好対照な性格のふたり。この南の島から脱出するためにしぶしぶ手を組むも、大自然の過酷な環境に予測不能のハプニングが連続! 果たして、億万長者が狙っているロストシティとはなんなのか……。
おすすめポイント
コメディエンヌとして復活したサンドラ・ブロックを見られるのがうれしい。が、作品のベタなテイストをストレートに受け取りながら観てしまうと、「失敗した!」と思ってしまうかもしれない。全身スパンコール姿のサンドラがドタバタするというだけで、時代に乗り遅れているような感じがするから。
しかし本作は、90年代~00年代にかけて多く制作された冒険アドベンチャー映画のテイストを俯瞰的に見せることで、そのバカバカしさや痛々しさ、今の時代に観る違和感をあえて楽しむというメタ構造になっている……はずなのだ。
そうでなければ、ラジー賞の射程にあえて飛び込むような作品を、こんなにも前のめりに制作する意図が理解できない。
修復できないほどもつれてしまった関係、その行き着く先とは『神は見返りを求める』
監督・脚本:𠮷田恵輔
出演:ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎、田村健太郎、中山求一郎、廣瀬祐樹、下川恭平、前原滉ほか
6月24日(金)TOHOシネマズ 日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
ストーリー
本作の主人公・イベント会社に勤める田母神は、合コンでYouTuber・ゆりちゃんに出会う。田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思うがあまり、まるで「神」かのように見返りを求めず、ゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになる。人気が出ないながらも力を合わせて前向きにがんばるふたりは、お互い良きパートナーになっていくが……あることをきっかけに、ふたりの関係が豹変する。
おすすめポイント
人間というのは不思議なもので、損得感情なく純粋に「相手を助けたい、協力しよう」と思っていても、その相手がまったく感謝を示さないどころか、その行為自体が当たり前だと思い出してしまうと、たちまち「見返り」を求めたくなってしまう。
一度もつれてしまった関係は、軌道修正どころか、どんどん互いを傷つけ合うところにまで発展してしまうこともある。本作の登場人物・田母神とゆりちゃんも、互いへの想いが、かすかに残っていながら素直に元に戻れない。そんな関係性が、もどかしくて切ない。
過去作『空白』(2021)でも「こんなはずじゃなかった……」と強烈な余韻を残した𠮷田監督が、またもや「こんなはずじゃなかった……」と思わせる作品を完成させてしまった。
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