「王子様が幸せにしてくれる、そんなの幻想」でんぱ組.incが歌うシスターフッド的世界観

でんぱ組.inc相沢梨紗

文・編集=森 ユースケ 撮影=飯田エリカ 編集=田島太陽


連載「アイドルとシスターフッド」の#1「アイドルと結婚」(全3回の後編/前編中編はこちら)。

2021年4月に新メンバーを加え、新体制で発表された「プリンセスでんぱパワー!シャインオン!」はシスターフッドの観点から強力なメッセージ性を持つ楽曲となった。「玉虫色ホモサピエンス」では産休中の古川未鈴が“天の声”としてパフォーマンスに参加するなど、年齢や結婚を理由に活動を制限しない実験的な活動をつづけている裏側を聞いた。

20代後半から30歳をめどに活動を終了するアイドルたちと、でんぱ組.incの違いは、どこにあるのか。


それぞれの世界で生きるお姫様が集まったアベンジャーズ

──古川さんが結婚、出産してもアイドルをつづけることに加えて、4月に発表した新メンバー加入後初の楽曲「プリンセスでんぱパワー!シャインオン!」は、シスターフッド的な観点で非常に強力なメッセージ性を持っています。〈王子様が幸せにしてくれる。そんなの幻想〉〈幸せなんてものはね むしゃりむしゃり掴み取れや てめえの手で〉という歌詞を含め、そういう方向性の曲をオーダーしていたんですか?

もふくちゃん いや、あれはヒャダインさんの気持ち。新メンバーはこういう人たちで……っていうメンバー構成の説明書みたいなものは作りましたけど。

Yumiko でんぱ組.incが今までやってきた物語のその次だから、「物語のつづき」をテーマにしたいって話はちらっとした記憶があります。絵本を閉じたあとの物語はどうなるの?っていうのは話してたかも。あとはもうヒャダイン様のお気持ちです。

もふくちゃん メンバーを見てヒャダインさんが解釈してくれたっていうことかな。「王子様が……」ってところはまさにそう。資料を見て「これはもう、完全にセーラームーンのあれですね」って言ってました。

──それは新メンバーの天沢璃人さんを見て、“セーラーウラヌスじゃん”と感じるみたいな。

天沢璃人(あまさわ・りと)でんぱ組.incとミームトーキョーを兼任。写真はでんぱ組.incのプロフィール画像

もふくちゃん それ、彼も同じことを言ってましたね。

Yumiko でんぱ組.incってどんなグループなのかを考えたとき、もともとはみんながそろうことで完成する世界だったけど、時代が変わって、“個”の意識が強くなったのが現代だと思っていて。

そこで、新メンバーを選ぶにあたっては、それぞれの世界の主役──それぞれの世界で生きているお姫様──が集まった、アベンジャーズ的な構造にしたいって話をしていたんです。そこから、外には出せない詳細なプロフィールを作って、ヒャダインさんが想像して曲を書いてくれたかたちです。

──アベンジャーズ的な世界観を、ヒャダインさんはセーラームーン的と捉えたのかもしれませんね。そして曲を作る過程が、前編でお聞きした「W.W.D」の作り方と似ています。

もふくちゃん そうですね。もしかすると彼の中では似た作り方だったのかもしれません。

──〈夢が叶っただけで ハッピーエンド そんなわけないっしょ!〉という歌詞のブロックは、新メンバーにとっては「有名グループに入ったのはゴールじゃなくスタート地点に立っただけ」というメッセージであり、結婚した古川さんにとっては「結婚がゴールじゃなく、その次の物語が始まるんだ」というメッセージでもあって、さまざまな読み取り方ができます。

相沢 歌詞を見た瞬間に、新メンバーに対してのメッセージだと思いつつ、私たち既存のメンバーに対しても「しっかりしろよ!」って背中をパーンって叩かれた気持ちになりました。次女が怒られてるのをみて、長女も背中をぴしっとするみたいな(笑)。そうやって怒ってもらえるのもありがたいって思うんです。

実際、長く活動するうちに気を遣われちゃうこともあって。今回は久しぶりにいろいろと言ってくれるYumiko先生も含めて、この曲を作るために集まってくれたメンツのおかげで、でんぱ組.incが変わりつつある状態です。

一時期、素晴らしい方たちに、でんぱ組.incを使っておもしろいことをやってもらう、ありがたくて楽しいときもあったけど、より原点に立ち返って「親と子でおもしろいことを探り合う」っていう雰囲気ででき上がった曲です。

もふくちゃん 未鈴ちゃんについては、たまたまの部分もあるだろうけど、ヒャダインさんは長く未鈴ちゃんのことを見てきてくれたから、このタイミングで未鈴ちゃんがこうするのかなっていう考えはあったと思います。そこについて、うちらはなにも言ってないよね。

Yumiko うん。ただ、産休に入ることや活動自体を控える時間が長くなることは伝えてあったので。先日(6月12日の『プラズマでんぱフェス2021』にて)この曲の次に披露した新曲「玉虫色ホモサピエンス」では、未鈴ちゃんが天の声的な感じで、声だけで参加するという実験的な見せ方をしています。

実験的なことをやる部分については、私たちが最も大切にしているスピリットだから、まだ新しいことができているんだという一点で、生きている心地がします。

もふくちゃん うん。水の中で、本当にギリギリ、たまに水上に出てぷはーって息を吸って生きている感じ。進んでないと息ができなくて死んじゃう。

Yumiko いろいろと長くお仕事をさせてもらってきたなかで、メソッドに従って、枠にハメるようにやってしまうこともあって。年を重ねるごとに、まだやったことのないものがだんだん少なくなってくる。新しいことをできるという意味での前進です。

──新しいことをしないと息ができないという感覚は、もふくさんがクラシック音楽、Yumikoさんがバレエという、アートのバックグラウンドを持つからこその考え方だと感じます。アイドルという枠の中で、どれだけ新しいことをできるかを重視する、それがでんぱ組.incなのだと。

Yumiko ある時期までは、新しいチャレンジをしつづけることを楽しんでいたはずが、いつからか周囲が思う「でんぱ組.incってこうじゃないと」というイメージを求められるようになっていた気がして。今回の変化に対しては、すごく肯定的に捉えています。

羽化するさまを切り売りするのがアイドル

──女性アイドル業界の一部では、若さに商品価値を求める「若さ=正義」という価値観が根強いですが、でんぱ組.incは年齢非公表にしたり、結婚と出産を経てもアイドルを続ける選択をするなど、「若さ」を絶対的に重視しない点がユニークだと思っていました。

Yumiko 「アイドルがどういう仕事なのか」という定義をしないと話が進まないような気がします。個人的には「愛想を振りまいて、舞台の上で歌って踊って、みんなにパワーをあげる」みたいな仕事ではないんじゃないかと思っていて。それこそ、語源の「アイドル=偶像」に近い、誰かを映す鏡であり、そのために祈りつづける「集中力を具現化する」のが仕事というか。

──どういうことでしょうか?

Yumiko 限界を超えて集中することで変身、羽化を遂げる。それを言い換えると「成長」なのかもしれないけど。

──羽化する瞬間、その様を切り売りするのが、アイドルの仕事だということでしょうか。

Yumiko そうですね。たぶん女性が人生の中で一番大きく変化するのが、第2次性徴期を終えて、女の子から女性へと変わっていく時期だと思うんです。

もふくちゃん 国によっては、それを神様として崇めてるくらいだから。

Yumiko そうそう。これは個人的な考えなんですけど、女性は生まれて第2次性徴期までは中性的な存在で。そこから女性としての人生が始まっていって、動物として子孫を残すためによりよいパートナーを探すため、外に興味が向いている。

家族を手に入れたあとは、守るために、外に向いてた興味が一気に内側に向く。一般的にはこれが30代ぐらいにあたって、この変化のなかで、マインドも大きく変わるはずなんです。10代から20代の女性が持つ外向きのエネルギーは凄まじく、アイドルという仕事をするのが、若い人が多いのはある意味で必然ではある気がします。これは女性として自分の経験上のお話をしているので、もちろん男性にも同じことがあるかもしれないんですけど。

もふくちゃん 10代のメンバーと接しているとわかるけど、凄まじい変化をするよね。

Yumiko 年を取ると、新しいものへの適応力、対応力がなくなっていくぶん、羽化を遂げる瞬間が減っていくことで、つづけられなくなっていくんだと思います。

──その意味では、ステージという祭壇の上で歌って踊る行為はシャーマニズム的であると。

もふくちゃん うん。昔から祭りや儀式で、集中、トランスを起こすためには、舞いが非常に重要。音楽と踊りの原始的、根源的な必要機能というか。

──コロナ禍で声を出せないライブ会場を体験すると、かつては大声を出していたことで集団トランス状態に入っていたことを、改めて体感できる気がします。

もふくちゃん みんなで一緒に「オイ! オイ!」って叫ぶのも、民族音楽的には別の次元にいくために必要な行為だから。私、大学で祭りの高まりとかシャーマニズムを研究してきたから、そういう状態をどうやって音楽で作るかは強く意識しています。

アイドルに欠かせない「集中力」「全能感」「対応力」


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森 ユースケ

(もり・ゆーすけ)1987年生まれ。東京都出身。毎日ウルトラ怪獣のTシャツを着ているライター/編集。インドネシアの新聞社勤務、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。近年は企業のオウンドメディア編集も担当。オリックス・バファローズファン。

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