ベボベ小出がトリプルファイヤー吉田の作詞をベタ褒めする理由

2020.1.30

「振り切れてない」気持ちも言語化する

――トリプルファイヤーでは、最近は作詞に専念されてるんですよね?

吉田 そうですね。曲に関してはギターの鳥居(真道)さんにいろんなビジョンがあるので、もう自分は作らなくてもいいかなーと。でも、最近「ちゃんと曲作ってほしい」と言われたんで、また頑張って作ろうかなと思いながら、今はできる自分に期待して待ってるっていう状態です。……なんか、めちゃくちゃ意識低いこと言っちゃったな。

小出  (笑)。吉田くんはそれだけ言葉が書けるんだから、もうそれだけでいいと思うけどね。いい曲を書ける人はたくさんいるけど、いい歌詞を書ける人はホント少ないからさ。もし、多少曲がつたなかったとしても、そこにすごい言葉が乗れば名曲になる可能性はあると思う。でも、その逆はないんだよね。マジで全国のミュージシャンは吉田くんをうらやましがるべきだと思うよ。

吉田   あんまりうらやましがられてないですけどね……。まあ、歌詞については一度で伝わらなくてもいいかなっていう気持ちもあります。ガツンとパンチラインを言いたくなるときもありますけど、別に毎回そうじゃなくてもいいし、ただ普通のこと言ってるときがあってもいいかなって。

小出 トリプルファイヤーの歌詞を聞いてると「この人は『切ない』とか『情けない』とか思った瞬間をよくこれだけストックできてるな」と思うんです。たとえば「最近いちばん悲しかったことは?」と聞かれたら、なにかしらのエピソードが出てきますよね。こう感情のメーターが振り切れてる瞬間は、誰でも言語化できるんです。でも、切ないときや情けないときはメーターが振れてないから自分自身でも記憶に残りにくい。でも、吉田くんの歌詞はその状態を見事にフレージングできてるんだよ。そこがホントすごい。「SEXはダサい」とか「スノボ行くやつ馬鹿」(いずれも吉田が作詞した楽曲のなかのワンフレーズ)とかさ。人が感じていても言語化できなかったことを、フレーズとしてしたためることができるのは完全に才能だよ。

吉田 たしかに僕もそういうやつが好きなんです。本とかを読んでるときも、そういう振り切れてない感情が書かれていると「すげえなぁ」と思うし。「こんなこと、わざわざ言うほどのことでもないよな」みたいな気持ちって、ずっと成仏されないじゃないですか。だから、できれば自分もそこをなんとかしたいんですね。逆にめっちゃ怒ってる人を見ると「それで十分じゃん。それだけ怒れたら、もう気持ちいいでしょ」と思っちゃうんで。

――そういうモヤモヤした気持ちを普段からメモに書き留めたりは?

吉田 いや、してないっすね。

小出 それでこれだけ言葉が出てくるんだから、やっぱりすごいよね。というか、人はメモとしてさえ文章化できない気持ちのほうが多いんですよ。でも、吉田くんはそれが普通にできるからすごい。

――吉田さん、大絶賛されてますね。

吉田 いやぁ、気持ちいいっす。……俺、今日はこんな気持ちよくなっちゃっていいんですか?


小出祐介(こいで・ゆうすけ)
1984年、東京都出身。ロックバンド・Base Ball Bearのボーカルギター。チーム
しゃちほこ、東京女子流、アイドルネッサンスなどアイドルグループへの楽曲提供も数多く行っている。

吉田靖直(よしだ・やすなお)
1987年、香川県出身。ロックバンド・トリプルファイヤーのボーカル。独特の存在感と大喜利の才能を活かし、『共感百景』(テレビ東京)、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)などTV番組にも出演している。

この記事の画像(全3枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。