村上虹郎インタビュー|「欲望」を排除して「無欲」になるために

2020.1.29

自分の哲学を作るしかない

――はあー、いい話ですね。仕事以外で欲求が深いものってありますか?

村上 睡眠欲も食欲も性欲も承認欲求も、だいたい人並みにありますよ。

――ご自身は周りにどう言われますか?「貪欲だね」とか。

村上 言われないですね。深く考えているようには思われていないと思います。隠しているわけではなくて、そういうキャラが似合わない。

――無口な、謎めいているイメージがありました。

村上 それは無口な役が多いから(笑)。でもそういうイメージは遠からずで、なぜかというと僕は教育も育った環境も、両親が芸能人であることも、全部特殊ですから。特別なんじゃなくて、特殊。地元もなければ流行りの音楽も同時期に聞いていなくて、人と共感できることがほとんどないんです。でも、しょうがないですよね。

マンガが好きで昨日ジュンク堂のマンガコーナーをのぞいたら『ONE PIECE』と『キングダム』と『進撃の巨人』が平積みされていて。僕も超好きなこの3冊に共通して言えるのは、「いろんな価値観が存在する」ということ。どれも登場人物が圧倒的に多いから、海外に行ったことがなくても友だちが周りに少なくても、人間はいろんなタイプがいるから自分も人と違っていいって思えるんです。

自分とはなにか悶々としている人にはぜひ読んでほしい。ただ無知は怖いので、最低限勉強はしようと思ってます。

――これまでいろんな価値観と対峙してきた経験が糧になっているんでしょうね。

村上 僕の場合は、周りの人たちが個性強すぎますから(笑)。親父も母も、義理の親父は空手もスキーもできて、家も作れて、ひとりでなんでもできるすごい人。カッコいいんですよ。そんな人たちに挟まれて、それぞれの言い分を守っていたら矛盾するんですよね。

つまり正解なんてなくて、自分の哲学を作るしかないと。親を悲しませちゃいけないけど、親の意見と反していても自分として選択しなきゃいけないと思いました。親には「ちゃうで!」と言われても、ダサい間違いをたくさんしたから気づけたことがいっぱいあります。

――将来への欲はありますか?

村上 俳優も個人も両立したいので、誰よりも常にしかるべき努力はし続けたいです。だけど、僕はどんな表現でも誰にどう思われたいとか、誰のためになるのかとか損得勘定のようなものや自分の欲求を満たそうとすることは、最終的には排除できるようになりたいなと思うんです。無心、みたいなことですよね。無の境地、とか大好きなんで(笑)。

悔しいとか、勝ちたいとか、親や好きな人を守りたいとか、動機は大事だし僕にもある。だけど、無心に頑張れる人はすごいなと思います。オダギリジョーさんが僕くらいの年齢で「誰かのために、は排除した」って言ってたんです。それは自分に誇りを持って生きているからできると思うんですよね。

過信ではなくて、誰かと比較することもなく自分にだけ矛先を向けるから、自分ができることをわかっている。僕はまだ欲を持っていて、無心にはなれていないですね。いつか無心になれるときが楽しみです、努力をすれば行けるところには行けると思うんで。

村上虹郎(むらかみ・にじろう)
1997年3月17日生まれ、東京都出身。2014年に映画『2つ目の窓』で俳優デビュー。2017年公開、映画『武曲 MUKOKU』にて第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。主な出演作に、舞台『シブヤから遠く離れて』、『エレクトラ』、『密やかな結晶』、『ハムレット』、映画『忘れないと誓ったぼくがいた』、『ディストラクション・ベイビーズ』『銃』、『ある船頭の話』、ドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『仰げば尊し』、『デッドストック〜未知への挑戦〜』、『この世界の片隅に』などがある。初主演ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2が2月1日より開幕。出演待機作に、5月31日より公演の舞台『パラダイス』、映画『ソワレ』(2020年公開)がある。

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