遅く起きた日曜日に、近所の食堂で静かに昼ご飯を食べる

2020.8.9

さっき夢中ですすったカレーうどんにも60年の歴史が生きている

この「梅ヶ枝食堂」も、大阪に引っ越してきて以来、何度も「いい店だな」と心の指差し確認をしてきた店だ。年季を感じる食堂で、ふらっと入っていいものか、少し躊躇があった。ためらっているうちに時間がグングン過ぎ去り、少し前に通りかかったところ、外観がパッと新しくなったように感じた。リニューアルしたようである。

外に看板も出ていて入りやすい雰囲気だ

このご時世ゆえにマメに換気をしているのだろう、ドアが半分開いていて、店内の様子も窺えた。おお、思ったよりだいぶ入りやすそうだ。

明るくて風通しのいい店内

定食メニューも気になったが、今日はカレーうどんを注文してみる。その前に瓶ビールの小瓶も。すると、「小瓶がまだよく冷えてないんです」と申し訳なさそうにお店の方が言う。であれば、大瓶でいこう。そのほうがたくさん飲めるのだから、むしろうれしい。大瓶のほうはしっかり冷えているそうである。「ごめんなさいね」と冷ややっこをサービスしてくださった。

冷えたビールがうまい

店内のテーブルや椅子は、古い建物になじむ雰囲気でありつつ清潔感を感じられるもので、リニューアルした際にひと通り新しくしたらしい。波板ガラスから外光が入ってくる感じもちょうどよく、居心地のいい空間だと思った。

お肉たっぷりのカレーうどん。ダシがしっかり効いたスープにはビリビリくる辛さもあり、汗を浮かべつつずるずる吸い込む。うまい。

こういうのが食べたかったんだ! と思うカレーうどん

お会計時に聞いたところによると、「梅ヶ枝食堂」は1957年に創業して、つまり60年以上の歴史を持つ店なのだが、店主が高齢となって昨年末に店を閉めた。それから半年近く経ち、店主の息子さん夫婦が跡を継ぐことを決めたのだとか。

新しいメニューを取り入れつつ、ダシは昔のままの味を守っているそうで、さっき私が夢中ですすったカレーうどんにも60年の歴史が生きていると思うとうれしくなった。

「また来ます」と店を出かけて、最後にひとつだけ気になっていたことについて尋ねた。店の棚に置かれていたYMOのファーストアルバムとハービー・ハンコックの『Head Hunters』のレコードは、あれは、なんなのだろう。聞いてみると、厨房で忙しく働く息子さんの愛聴盤なのだとか。

店の棚に立てかけられたレコード

近所に長く通えそうな食堂がまだ存在することのありがたさを感じつつ、「あの2枚、どっちも部屋にあったはず」と、自室のレコード棚を思い浮かべて帰り道を歩いた。

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  • 『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』

    パリッコ/スズキナオ(編著)
    『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』
    2020年8月5日発売 発行:スタンド・ブックス
    定価:1500円(税別) A5判変型並製132頁 ISBN978-4-909048-09-7 C0095
    カバーイラスト:石山さやか ロゴ:スケラッコ デザイン:戸塚泰雄(nu)
    話題の「チェアリング」生みの親コンビ、若手飲酒シーンを牽引する人気ライターのパリッコ(『酒場っ子』)とスズキナオ(『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』)が編集、執筆を務める飲酒と生活の本『のみタイム』をはじめます。
    1杯目は100頁以上にわたり「家飲みを楽しむ100のアイデア」について考えました。それでも続く毎日を楽しくする、使えるアイデアが満載です!
    豪華執筆陣は、ラズウェル細木(『酒のほそ道』)、夢眠ねむ(「夢眠書店」)、清野とおる(『東京都北区赤羽』)、今野亜美(「スナック亜美」)、平民金子(『ごろごろ、神戸』)、香山哲(『ベルリンうわの空』)、イーピャオ(『とんかつDJアゲ太郎』)、METEOR(ラッパー)他!
    こんな状況でも、楽しい酒の飲み方はあるはず。とにかく酒が好きということは、よりはっきりしました。
    近刊に『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『関西酒場のろのろ日記』(ele-king books)がある。

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Written by

スズキナオ

大阪在住のフリーライター。「デイリーポータルZ」「メシ通」等のWEBメディアで記事を書いている。酒とラーメンが好き。パリッコとの飲酒ユニット「酒の穴」としても活動中。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)など。

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