遅く起きた日曜日に、海を見に行くだけ(スズキナオ)


スズキナオ「遅く起きた日曜日に」第1回

文・写真=スズキナオ 編集=森山裕之


初の著書『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)が発売後わずか4ヶ月で5刷のヒットとなり、 SNSでも大人気の「チェアリング」の開祖としても知られるスズキナオさん。「なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにする」アイデアを提案する、誰にもできる遅く起きた日曜日の楽しみ方。

日常の延長線上という感じで海へ行く

「とにかく大量の水が見たい」と思う時がある。海か、湖でも川でもいい、できるだけ大きな体積の水を目の中に収めたい。東京の池袋近くに住んでいた頃、うちの近所には川が流れていなくて、大量の水が見たい気持ちになった時は地下鉄の有楽町線に乗って新木場駅まで行き、埋め立て地の公園に突っ立って東京湾を眺めていた。大量の水が、その表面を波打たせたり、太陽の光を複雑な形に反射させたりするその様子はいつまでも見飽きることがない。それを見ていて心が静かに落ち着いていくように感じるのは、自分には到底力の及ばないような圧倒的な何かを目の当たりにすることで、日々蓄積していく些末な不安だとかイライラが遠くなっていくように思えるからかもしれない。だからそれは山でもいいし、広い草原でもたぶんいいのだが、私が住んでいた所からはなかなか簡単にそういった“デカいもの”を見に行くことができなかった。人間が作ったデカいビルでは全然ダメだ。「サンシャイン60」にはよく暇つぶしに行っていたが、あの高さを下から見上げたところで一向に気持ちよくはならない。

東京から大阪に引っ越してきて、今までより海が身近になった気がした。大阪駅から東海道・山陽本線に乗って40分で須磨(すま)駅に着く。須磨駅があるのは三ノ宮や元町を過ぎて、明石まで行く手前のあたり。駅前に綺麗な砂浜があって夏は海水浴場として大変な賑わいになる。大阪にいて海で泳ごうと思ったら和歌山県に近い南のほう、泉南市とか貝塚市辺りの海か、でなければ兵庫県方面に向かって須磨の海水浴場で、というのが定番みたいだ。東京にいた頃は、砂浜に立って海が見たければ鎌倉まで行っていた。ネットで検索してみると東京駅から鎌倉駅までだって1時間はかからない。大阪から須磨まで行くのに時間とそれほど大きく違うわけではない。だけどなぜか須磨のほうがスッと行ける。「よし、今度の週末は海に行くぞ!」というふうに構えずとも、日常の延長線上という感じで行くことができる。

それはおそらく、駅の目の前に海があるからだ。というか、駅に着く手前から電車の窓の外にすぐ近くに海が見える。須磨駅を過ぎてさらに明石方面へ行く間にも車窓から海が見えて、もうこれだけで乗車料金にいくらか加算されても文句は言えないぐらい得した気になる。

次ページ:乾いた大地に染み込むかのように体に入ってくる発泡酒


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